企業は政策息切れによる下期足踏みを懸念(H22.9.30)

―9月調査「日銀短観」のメッセージ―

【政策息切れ懸念は大きいが、円高の悪影響は明白ではない】
 9月29日(水)に公表された2010年9月調査「日銀短観」によると、「業況判断」DIが6期(1年半)連続で改善したが、先行きの予想がほぼ6月調査の水準に逆戻りする悪化となった。
 この先行き悪化の原因について、大新聞などマスメディアは、円高の影響と政策息切れ懸念によるものと報じている。
 しかし、「短観」の内容を詳細にみていくと、政策息切れ懸念の影響は明白に認められるものの、円高の悪影響がでているという確証は見当たらないように思われる。
 以下、主なポイントをみて行こう。



【業況は7〜9月期まで6四半期連続して好転したあと、10〜12月期は4〜6月期の水準に逆戻りする予想】
 大企業の「業況判断」DIは、製造業が3か月前の1%の「良い」超から8%の「良い」超へ、非製造業が−5%の「悪い」超から2%の「良い」超へ、いずれも大きく好転した。
 中堅企業と中小企業の製造業と非製造業の「業況判断」DIも、いずれも3か月前に比して好転し、とくに中堅企業製造業は、10期(2年半)振りに「良い」超となった。
 7〜9月期までの企業業績の回復は、今回の「短観」によっても裏付けられたといえよう。
 しかし、先行きの「業況判断」DIは、大・中堅・中小の各規模企業の製造業と非製造業で、いずれも例外なく悪化した。10〜12月期の業績について、企業はおしなべて懸念を抱いているようだ。

【自動車を中心に製造業の先行き悪化懸念が大きい】
 先行きの「業況判断」DIの悪化幅は、製造業の方が非製造業よりも大幅である。
 製造業の中では、自動車の悪化幅が、各規模企業において、最も大きい。9月上旬でエコカー補助金が打ち切られたため、それ迄の駆け込み需要と、その反動減が極めて大きいと予想されているのであろう。
 4月から対象品目が絞られたエコポイント制度の影響は、電気機械の「業況判断」DIにほとんど認められない。「良い」超は14%と3か月前に比して8%ポイントの大幅好転となったあと、先行きは悪化するものの5%の「良い」超を維持している。
 先行きの息切れ懸念が最も大きいのは、自動車産業のようだ。

【売上や収益の悪化懸念が大きいのは輸出よりも内需】
 先行きの業況悪化予想の背景を売上高について探ってみると、大企業製造業の2010年度下期の売上計画は、国内向けが前年比+0.6%(6月調査比−0.1%ポイント下振れ)、輸出が同+9.0%(同+1.9%ポイント上振れ)となっており、自動車を中心とする政策効果息切れの影響が内需に見られるものの、円高による輸出停滞の気配はみられない。
 収益動向をみても、2010年度下期の大企業製造業の経常利益は、素材業種で前年比+4.71%の増益(6月調査比−3.4%ポイント下振れ)、加工業種が同+1.4%の増益(同+2.0%ポイント上振れ)となっている。
 一般に素材業種は原材料輸入で円高メリットを受け易く、加工業種が製品輸出で円高デメリットを受け易いことを考えると、下期の収益予想が前者で下振れし、後者で上振れしているということは、この3か月間の円高の影響は認められず、それ以外の原因によるものと見られる。

【2010年度の収益率は2002〜03年度頃の水準まで回復する予想】
 全体の2010年度売上・収益計画をみると、全規模全産業ベースで、売上高は前年比+4.1%(6月調査比+0.8%ポイント上振れ)、経常利益は同+24.6%(同+4.1%ポイント上振れ)となった。上期下期別にみると、増収率、増益率共に下期に鈍化し、とくに下期の経常利益は前年比+8.0%の増益ではあるものの、6月調査に比べると−0.2%ポイントの下振れとなった。
 この結果、2010年度の売上高経常利益率は、同じベースで、3.27%と前年を+0.54%ポイント上回り(6月調査比+0.11%ポイント上振れ)、とくに下期は3.38%とほぼ2002〜03年度頃の水準に回復する計画となっている。

【設備・雇用の過剰解消は遅々としている】
 「生産・営業用設備判断」DIは、全規模全産業ベースで、8%の「過剰」超と6月調査比3%ポイントの「過剰」超幅縮小となったが、先行きは8%の「過剰」超で足踏みする予想となっている。
 2010年度の設備投資計画(全産業と金融機関の合計、ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、前年比+2.8%増と6月調査比+0.6%ポイントの小幅上方修正となった。
 「雇用人員判断」DIは、全規模全産業ベースで、7%の「過剰」超となり、6月調査比4%ポイントの過剰超縮小となった。先行きは6%の「過剰」超と僅かに好転する見込みである。
 このように、設備と雇用の過剰解消のテンポは、極めて緩やかである。

【本年度補正予算の一刻も早い成立・執行が望まれる】
 以上のように、9月調査「短観」は、各種の景気指標から窮われる本年度下期(10〜12月期以降)の景気回復の足踏みを、企業がはっきりと懸念していることを示している。
 その主因は、マイメディアが強調している円高の影響よりも、政策息切れの影響の方が大きいようだ。
 政府は5兆円前後の本年度補正予算を準備しているが、一刻も早い国会成立と執行によって、企業の先行き懸念を後退させることが望ましい。