6月調査「日銀短観」の業績回復予想と最近の株価下落のどちらが先行きを正しく予見しているか(H22.7.1)


【企業の業績や景況感はリーマン・ショック発生前の水準まで回復】
 本日(7月1日)発表された6月調査「日銀短観」によると、本年度の増収増益の予想幅は3か月前(3月調査)に比して拡大し、設備と雇用の過剰感も、3か月前の先行き予想よりも早いテンポで後退している。
 業況判断、売上高経常利益率、設備と雇用の過剰感などは、概ねリーマン・ショック発生直前(08年中頃)の水準まで回復した。この水準はほぼ02〜07年度の戦後最長景気の03年度頃の水準である。
 このような企業の業績や景況感の持ち直しから判断すると、最近の日本株の下落はやや違和感がある。市場は、EUのソブリン・リスクや金融不安、あるいは米国の景気回復テンポの下方修正などが日本経済に与える悪影響を、「短観」に現れている日本企業自身の予想よりも大きくみているようだ。あるいは「短観」の企業の輸出や収益の見通しが、やや甘いのであろうか。いずれにせよ、今後、9月調査以降の「短観」が下振れするか、日本の株価が上振れするか、どちらかで調整が起きるのではないか。

【輸出依存の製造業の方が国内中心の非製造業より業況改善が早い】
 まず、大企業製造業の「業況判断」DIから見ていくと、3か月前の3月調査に比して15%ポイントの大幅改善を示し、1%の「良い」超に転じた。「良い」超は2年振りで、先行きも「良い」超が続く予想である。中堅・中小企業の製造業も12〜13%ポイントの大幅改善となった。ただし、現状も先行きもなお「悪い」超の範囲内にある。
 これに対し非製造業の「業況判断」DIは、改善はしているものの、改善幅は製造業に比して小さく、大・中堅・中小の各規模で、現状も先行きもなお「悪い」超の範囲内にある。
 このような製造業と非製造業の業況感の違いは、需給改善の違いを反映しているように思われる。「国内における製商品・サービス需給判断」DIをみると、依然として「供給」超となっているものの、製造業の方が非製造業よりも「供給」超の縮小テンポが早く、現在の「供給」超幅も小さい。また製造業の「海外での商品需給判断」DIの「供給」超幅は、国内よりも更に小さい(下表参照)。



【製造業の売上は09/下〜10/上に大きくリバウンド】
 このような需給状況の差は、10年度の売上・収益計画の差にも反映されている。
 全規模企業の合計をみると、10年度の売上増加率の計画は、製造業が+5.5%、非製造業が+2.3%、経常利益増加率の計画は、製造業が+45.0%、非製造業が+7.5%と、製造業と非製造業の間に大きな開きがある。
 製造業はリーマン・ショック後の輸出の急激な落ち込みによって、09年度上期の売上は前年比−25.0%、とくに大企業の輸出は同−35.6%の落ち込みとなり、経常利益は同−80.6%の急落となったが、同じ時期の非製造業の売上は同−20.6%、経常利益は同−22.7%と製造業よりも下落率が小さかった。
 しかし、その後在庫調整が一巡すると、新興国向けを中心に輸出が大きくリバウンドし、つれて製造業の売上と経常利益も09年度下期と10年度上期に非製造業を上回る急回復を示すこととなった(下表参照)。



【売上高経常利益率はリーマン・ショックの影響を払拭し、03年頃の水準へ】
 以上の結果、売上高経常利益率は、全規模全産業ベースでみて、10年度は3.16%となる計画である。
 この10年度下期の利益率は、リーマン・ショック直前の08年度上期(3.48%)にほぼ等しく、ショックの影響は払拭された形となっている。また10年度の利益率は、02〜07年度の戦後最長景気の2年目、03年度(3.23%)に近い。



【10年度の設備投資計画は+4.2%に上方修正】
 業績の持ち直しに伴い、製造業の「生産・営業用設備判断」DIの「過剰」超は、3か月前の3月調査(25%)からやや大きく縮小し、19%となった。これは前回景気回復2年目の03年9月調査の「過剰」超幅に等しい。03年度は、景気回復が始まる中で設備投資が前年比+6.1%(実質GDPベース)の増加に転じた年であったが、10年度も6月調査の「短観」で、3月調査から+2.1%ポイント上方修正され、+4.2%の増加に転じる計画となった(製造業、非製造業、金融機関の合計、ソフトウェアを含み土地投資を除くベース)。景気回復局面では、中小企業を中心に、年度を通じて計画が上方修正されて行くので、10年度の計画も最終的にはもう少し伸びが高まる蓋然性が高い。

【金融機関を中心に雇用者数の前年比は微増へ】
 最後に雇用状況をみると、製造業の「雇用人員判断」DIは、3月調査の現状(20%)と先行き(17%)よりも更に縮小して14%となり、先行きは更に11%となる予想である。
 このような雇用過剰感の後退の下で、現実の雇用者数は、「全産業+金融機関」のベースで前年比+0.1%の微増に転じた。これは、金融機関の雇用が同+4.4%の増加となったためで、金融機関を除くと同−0.1%の微減となる。
 他方、新卒採用計画は、金融機関を含むベースでも、10年度の前年比−24.0%に続き、11年度も−5.6%の減少と、引き続き厳しい情勢が続いている。