10年度上期二番底の懸念は消えたが設備投資と雇用の回復は遅れている(H22.4.2)
―3月調査「日銀短観」のポイント
【着実な回復は続くが設備・雇用の過剰感後退は遅い】
4月1日(月)に公表された3月調査「日銀短観」は、強弱両面の企業の期待を示している。一つは、昨年の回復局面で不安視されていた10年度上期二番底のリスクは消え、企業は10年度上期に着実な拡大が続くと見ている。もう一つは、設備と雇用の過剰感の後退は緩やかで、企業の期待成長率は依然として低く、自律的回復の芽は出ていない。
前者は、業況判断DIの好転持続と10年度上期の増収転換に端的に現れている。後者は設備と雇用の判断DIの好転が遅々としており、先行きにもかなりの過剰感が残ることに示されている。
【輸出の回復に加え10年度上期は内需も回復を予想】
まず「業況判断」DIは、大・中堅・中小企業とも4期連続で「悪い」超幅が大きく縮小し、先行きも縮小が続くと見られている。「悪い」超幅のレベルは、前回景気回復2年目の03年頃のレベルにまで好転してきた。
売上高の計画を大企業についてみると、下表に示したように、09年度下期の回復は製造業の輸出の好転に大きく依存していたが、10年度上期には製造業の輸出と並んで、製造業の国内売上高と非製造業の売上高も回復してくる計画となっている。アジア向けを中心とする輸出の増加に依存していた景気回復が、次第に内需にも依存する形に変わってくることを、企業は予想しているようである。
【10年度は増収増益で売上高経常利益率は02年度をやや上回る水準へ】
他方大企業の経常利益は、下表の通り、09年度下期には売上高が減収の下で増益に転じたが(減収増益)、10年度上期には売上高が増収に転じて一層の増益が進む予想である(増収増益)。
この結果、売上高経常利益率は、下表の通り、大・中堅・中小企業の製造業・非製造業でいずれも上昇する計画となっているが、10年度の全規模全産業の平均は2.87%と、前回景気回復初年の02年度(2.81%)をやや上回る水準である。
【10年度の設備投資は底這いの計画ながら今後上振れの可能性】
次に10年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く)をみると、各規模企業の製造業・非製造業・金融機関の合計で09年度は前年比−14.6%と落ち込んだあと、10年度の計画は同−1.1%と底を這う形となってくる。
しかし、景気回復期には3月調査の計画に比し、6月調査以降は期を追って計画が上振れするのが通常の姿なので、10年度については、6月調査以降、前年比がプラスとなる蓋然性が高い。
背後にある「生産・営業用設備投資」DIをみると、下表の通り、各規模企業とも「過剰」超幅が期を追って縮小しているが、そのテンポは遅い。先行きの水準はまだ02年度頃の過剰感に等しい。
【雇用は本年3月末か遅くとも6月末に増加に転じる蓋然性が高い】
「雇用人員判断」DIの「過剰超」幅も着実に縮小しているが、下表の通り、そのテンポは緩やかである。先行きの過剰感は、前回景気回復2年目の03年頃のレベルである。
現実の雇用者数(前年比)も、09年3月末以来4期続けて減少している。ただ、その減少幅は、9月末の−1.3%から12月末は−0.3%に大きく縮小した。本年3月末か、遅くも6月末から増加に転じる蓋然性が高い。
【輸出に続き内需も回復してくるが、自律的回復の確たる動きはまだみえない】
以上の通り、10年度上期の企業業績の予想は増収増益に転じ、利益率の水準も前回景気回復初年度の02年度をやや上回る予想となっている。10年度上期には、輸出と並んで内需にも回復の兆しがでている。しかし、自律的回復を支える設備投資と雇用の回復には、まだ明確な兆しは認められない。