2010年度予算の経済効果と今後の成長戦略(H22.3.26)


【戦後5番目の早さで成立した2010年度予算】
 鳩山内閣発足後、初の大仕事であった2010年度予算が、3月24日(水)に参議院を通過し、成立した。内閣発足当初、マスコミは年内編成、年度内成立を危ぶんでいたが、終わってみれば12月30日に予算案閣議決定、3月24日に成立となった。この予算成立日は、戦後65年間で5番目の早さである。不慣れな民主党内閣が、万年与党の自民党内閣に引けをとらない実行力を示したと言えよう。
 歳出規模92兆円、国債発行額44兆円のこの予算を称して、多くのマスコミは「戦後最大規模、最大国債発行」の予算と呼び、あたかも鳩山内閣が記録的な放漫予算を組んだかのような印象を国民に与えている。しかし、事実は違う。
 「戦後最大規模、最大国債発行」の予算となったのは、自民党の麻生政権が昨年組んだ第1次補正後の2009年度予算である。これに比べれば、鳩山内閣の2010年度当初予算はかなり縮小した予算である。

【10年度当初予算は麻生内閣の第1次補正後09年度予算に比し、10兆円強縮小した予算】
 詳しく見てみよう。
 下の表1に示したように、09年度の第1次補正後の予算(A+B)は、歳出規模は102.4兆円と10年度当初予算の92.2兆円を10.2兆円上回って戦後最大規模となっている。他方、国債発行額は44.1兆円と10年度当初予算の44.3兆円にほぼ等しいが、実は租税収入が予算上の46.1兆円を大きく下回って36.9兆円と予想されているので、実勢は44.1兆円ではなく、税収不足を加えた53.3兆円に達しており、これも戦後最大規模となっているのである。
 麻生内閣の09年度第1次補正後予算の歳出規模102.4兆円、国債発行額(実勢)53.3兆円に比べると、鳩山内閣の10年度当初予算は、歳出規模も国債発行額も10兆円強小さい。これを「戦後最大規模の歳出と国債発行の予算」などと報じるマスコミは、まったく国民をミスリードしている。




【国債発行額のピークは10年度当初の44兆円ではなく、第1次補正後09年度予算の実勢53兆円】
 では、鳩山内閣の10年度当初予算は、10兆円強のデフレ効果を持った予算であろうか。
 そうではない。鳩山内閣は、09年度の第2次補正予算を組み、これを本年1月末に成立させたからである。この第2次補正予算と今回の10年度当初予算が10年度経済にインパクトを与えるのであるから、この合計(表1の「C+D」)を鳩山内閣の15か月予算と考えると、歳出規模は表1の通り99.6兆円となり、09年度第1次補正後予算(表1の「A+B」)の102.4兆円にほぼ匹敵する。
 他方、15か月予算の国債発行額は53.6兆円となるが、これは第2次補正予算(表1の「C」)で第1次補正後09年度予算(表1の「A+B」)の租税収入不足9.2兆円を穴埋めするため、9.3兆円の国債発行を追加したからである。従って15か月予算の国債発行額の実勢は、53.6兆円から9.2兆円を差し引いた44.4兆円であり(表1の「C+D」)、麻生内閣の09年度第1次補正後予算の国債発行の実勢が53.3兆円なのである。
 つまり、国債発行額の実勢は、麻生内閣の第1次補正後09年度予算で53.3兆円のピークに達し、鳩山内閣の15か月予算で44.4兆円と8.9兆円低下したのである。

【09年度第1次補正後予算と15か月予算はほぼ同じ赤字規模】
 09年度第1次補正後予算に比し、15か月予算で国債発行額が8.9兆円ほど縮小したにも拘らず、歳出規模は2.8兆円の縮小にとどまっているのは何故か。それは、事業仕分けなどによって、第2次補正予算の中で09年度第1次補正後予算から7.3兆円の歳出を削減し(表1「C」)、また10年度予算(「D」)では埋蔵金の取り崩しなどで10.6兆円の税外収入を確保したからである。
 従って、15か月予算の赤字規模は、国債発行額の8.9兆円縮小が示すほど、09年度第1次補正後予算に比して縮小した訳ではない。少なくとも、10年度予算の税外収入10.6兆円は資産取り崩しという意味で負債増加と同じであり、事実上の赤字である。
 そう見ると、第1次補正後09年度予算と15か月予算の財政赤字の実勢は、ほぼ等しいとみるとこが出来る。

【景気刺激は予算組替えへの経済効果に由来】
 以上のように、麻生内閣の09年度第1次補正後予算と鳩山内閣の15か月予算は、歳出規模も赤字規模もほぼ等しいので、これらの規模に由来するマクロ経済へのインパクトは、ほぼ等しいと言ってよい。つまり、10年度当初予算を中心とする15か月予算は、前年度に比べて、規模に由来する景気へのインパクトは、ほぼ「中立的」であると言える。
 従って、経済に対する拡張効果が出るとすれば、規模ではなく、中身の違い(予算組替え)によるものである。鳩山予算は、09年度第2次補正予算で7.2兆円の歳出をカットし(表1の「C」)、それを含め、15か月予算で次のような予算を組んだ。
 まず4月からの高校授業料無償化・就学支援、自動車重量税減税、6月からの子供手当支給と高速無料化実験などである。住宅用太陽光発電や電気自動車などへの補助金支給も4月から始まる。これらの景気刺激効果が先行して現れるであろう。他方10月からはたばこ増税、来年1月からの所得税扶養控除廃止などの増税もある。

【国民生活への配慮が先行】
 以上を全体としてみれば、15か月予算は10年度家計消費に対する一定の刺激効果を持っており、それがエコポイント制度やエコカー減税などによる消費性向上昇を伴う現在の消費回復を持続させることとなろう。
 これと比較すると、今回の予算は企業に対する配慮があまり見られない。これは、国民生活から内需を立て直したいという民主党の方針の反映であろう。
 しかし、中期の成長戦略となると、そうばかりは言っていられない。政権発足後取り敢えず3か月で編成し、6か月で成立させた単年度予算としてはこれでよい。しかし、4月以降9月までの半年間は、じっくりと成長戦略を練り、それに基づく政策を決める時期である。その成果を、11年度以降の予算に組み込まなければならない。

【秋までに成長戦略を練り11年度予算に反映させよ】
 これまで民主党や政府の要人が述べてきたことを整理してみると、民主党の成長戦略は以下の表2にあるような3本の柱から成っているように見える。
 @の国民のライフステージ毎の機会均等と安全ネットの確保は、既に10年度予算で着手されている。これによる国民の安全と安心こそが持続的な家計消費を支え、国民生活の充実・向上につながる。
 問題はAの低炭素社会の実現計画とBのアジアの内需を取り込む企業活動である。「温暖化ガス削減への行程表」「電気自動車普及計画」「太陽光発電普及計画」「原発増設計画」「スマートグリッドの建設支援」「原発・鉄道・水道などのインフラ輸出官民一体計画」「法人税引き下げの検討」などAとBに沿った多くの計画が現在政府内で検討されているのは、大変結構なことである。
 これらを秋までに総括し、来年度以降の予算編成につなげていくことを大いに期待した。