ある読者からの手紙

―鈴木淑夫著『日本の経済針路―新政権は何をなすべきか』(岩波書店刊)に対するコメント(H21.10.5)


 以下は、ある読者から頂いた手紙ですが、是非多くの方に読んで頂きたい内容を含んでいるので、この手紙を下さった方のお許しを得て、ホームページに掲載する次第です。

拝啓
 すっかり季節が変わってさわやかな日々が続いています。
(中略)
 さてご著書『日本の経済針路』、今日になって手に取って見たのですが、序文を拝見したところから手が離せなくなり一気に読み通し、感激のあまり今筆を取っている次第です。

 法学部出身でエコノミストの素養もない身で、本格派エコノミストの著書にコメントを加えるなど大それたことですが、全巻を通じてその御意見には殆んど悉く共感を覚えました。バブル崩壊後の自民党政権の経済財政政策の失敗、農協救済で住専を皆殺しにし、世論の反発を読み誤って金融への資本注入を遅らせ、そのあとの橋本政権の早すぎた緊縮財政への転換、不良債権の早期圧縮を求めながら有税償却しか認めず、しかも時価会計導入による株価暴落により銀行の含み益を減らした信じられないような竹中大臣の銀行苛め、円安過剰介入による輸出依存体質の深化、輸出大企業を経済諮問会議に起用しての労働分配率の低下、所得格差の拡大などの平成になってからの自民党経済財政政策の失敗を実証的にかつ冷静に分析した書物は、正統派経済人のものとしては初めての包括的分析ではないかと思いました。まさにこれらの政策の失敗こそが自民党の歴史的敗北の最大原因であり、現在行われている自民党総裁選でもこの敗因を正しく認識している候補者が一人もいないというのは、悲劇というほかありません。

 小生としては、民主党の外交、防衛、教育に関する政策は一向に輪郭が見えてこず、不安を禁じ得ないものがありますが、財政経済政策については、バラマキ批判と財政再建の道筋をつけることばかり言っている自民党よりは、民主党のマニフェストの方が色々問題はあるにせよまだましだと思い、殊に藤井財務大臣が決まってからは大分信頼感が増していました。しかし党全体としての一貫した哲学が見えていなかったのですが、今回のご著書を拝見して、なるほどこういう哲学を背景としてのことなら賛成と思うに至りました。国民の所得を引き上げ、内需を中心とした経済政策を採り、円高を容認する。国民の膨大な金融資産を活用すべく日本の金融機関の投資銀行業務の発展を促し、円の国際化を促進するなどの御意見には、絶大な賛意を表する次第です。一方で鳩山首相、岡田外相の中国を含む東アジア共同体推進とか、他党ではありますが、亀井金融大臣の中小企業に対するモラトリウム論やASEANとのFTAやEPAの進展を妨げる兼業農家にたいする個別所得補償や、さらに言えば高速道路無料化などの如何なものかと思われるような政策もありますが、貴殿をはじめ藤井さんや行天さんのようなものの分かった方が居られるので、最終的には、懸念するようなことにはなるまいと信じることにします。

 またヘリコプターマネーや無利子国債、政府紙幣などに反対であることは、フリードマンの貨幣数量説には貨幣の流通速度に対する考慮がないので同感出来ない小生も同じですが、国債の源泉徴収をやめるという考え方は如何でしょうか。ルクセンブルグの世界の国債の交換決済を扱う機関が、日本国債は源泉徴収があるので居住者と非居住者の弁別をしなければならず、事務が複雑になるからと聞いています。国債を非居住者が持つのが不便だという通貨は、国際通貨に成りえないとおもいます。その通貨で一時的に運用するすべがなくなるからです。中国が元を國際決済通貨にすべく画策しているのに、わが国には策がなさ過ぎます。

 またASEAN企業育成のため、日本の金融機関が活躍するためには、エクイティ・ファイナンスだけでなく、長期固定の間接金融があった方が良いと(中略)確信しています。
 以上貴著を正しく読みこなしているかにも自信はありませんが、妄言の数々どうかご寛容のほどお願い申し上げます。


敬具
平成21年9月26日


PS
 もう一度読み直してと思って居る中に、事態はどんどん動いているようですが、
1. 円高については、藤井財務相は口先介入は良いが、実際には介入すべきではない。
2. 東アジア共同体についてはアメリカが早速警戒を強めているようですが、民主党は東アジア共同体で何を何時ごろまでに達成しようとしているのか、この際明確にすべきでしょう。そこが明確でないまま友愛外交などと曖昧な概念を振りまわすのなら、それこそ有害外交となってしまうでしょう。
3. 谷垣氏が自民党総裁に選出されましたが、三人の候補の中では最適ですが、本人自身の民主党に対する対立軸がはっきりわかりません。選挙中のようなバラマキ批判、財源論ばかり言っていたのでは、優等生の意見(官僚の意見)であって、この国をどうするというヴィジョンが見えてきません。

平成21年9月29日