「長期のビジョン・計画の前倒し執行」としての景気対策で与野党は競え(H21.4.20)

【規模では米国に匹敵する日本の景気対策】
 政府・与党は、「追加経済対策(事業規模56.8兆円程度)」を実行に移すため、来る4月27日(月)に、15.4兆円程度の平成21年度第1次補正予算と関連法案を国会に提出し、早急な成立を目指すと伝えられる。
 政府は既に平成20年度第1次、第2次補正予算と平成21年度当初予算で、財政出動の規模(いわゆる「真水」)で11.3兆円(公稱12兆円から融資を差し引いた額)の景気対策を用意した。これはGDPの約2.2%に相当する。
 従って、今回の15.4兆円を単純に加えると、26.7兆円となり、GDPの約5.3%となる。これは、米国のオバマ大統領が用意した景気対策法の7,870億ドル(今後2年間)、GDPの約5.5%にほぼ匹敵する。

【補正予算審議と5月解散6月総選挙の絡み】
 これに対して野党、とくに民主党は、平成21年度第1次補正予算の対案を出すのではなく、政府に反対して解散、総選挙に追い込み、政権獲得後に2年間20兆円の独自の景気対策を実施するとし、その内容を総選挙のマニフェストで公約する方針のようだ。
 野党多数を占める参議院で、徹底的に政府案を批判し、いつまでも採決しないと、30日条項で補正予算は成立するが、関連法案は60日間宙に浮いてしまうので、予算の執行が制約される。
 野党が景気対策の成立を妨害することに対し、世論はどう動くであろうか。マスコミの誘導もあって、「野党がけしからん」ということになれば、野党は参議院で政府案を否決し、首相問責決議で事実上の内閣不信任を示し、衆議院の解散総選挙を迫るかもしれない。
 しかし、政府・与党が衆議院で内閣信任を確認し、3分の2の賛成で予算関連法案を再可決すればそれまでで、解散総選挙のタイミングは再び先に延びる。
 政府・与党がこうして解散・総選挙を先に延ばすか、野党の景気対策非協力を国民に訴えて解散総選挙に打って出るかは、5月時点の世論調査の結果によるのではないか。
 麻生内閣支持率と自民党支持率が上がってくれば、5月解散、6月総選挙の可能性は高くなろう。

【麻生首相の三つのTのうちtemporaryは不適切】
 この平成21年度第1次補正予算の最大の問題点はどこにあるのか。
 麻生首相は、この追加経済対策のポイントとして、三つの「T」を指示したと伝えられる。Target(目的を明確に)、timing(時宜にかなった策)、temporary(一時的な策)である。
 始めの二つは当然のことであるが、三つ目のtemporaryとは、何を意味するのであろうか。麻生首相の考え方では、いつまでも財政赤字を拡大させないため、景気が回復するまでの一時的な策にとどめよう、という事のようだ。
 その典型は、20年度補正予算で実施される「定額給付金」である。21年度補正予算にも「今年度に限り3〜5歳の子供一人当たり3万5千円を支給」というのがある。

【景気対策は長期のビジョン・計画の先行実施で】
 このように、国民に対して一時的に金を支給するのは、典型的な「バラ撒き」である。21年度当初予算の国債発行額は33兆円であるから、それに今回の補正予算の国債発行額を加えると、初の40兆円の大台超えがほぼ確実である。
 このような多額の国債発行で得た貴重な資金を、一時的なバラ撒きに使うのは、極めて非効率な金の使い方である。総選挙対策のための買収のようなものだ。
 景気対策は、将来の日本のビジョンに裏付けられた長期計画の繰上げ実施(前倒し執行)でなければならない。短期の景気対策とビジョン実現の長期計画が、逆方向を向いていたり、無関係であったりするのは、最も非効率な財政資金の使い方である。定額給付金を支給しながら2年後の消費税引き上げに言及するのは、将にその典型と言えよう。また、今回補正予算の目玉の一つと言われている「住宅取得のための時限的な増与税の減税」は、金持ち優遇減税で長期的税制改革とは逆方向を向いており、しかも「時限的」という点で、最も非効率な財政資金の浪費である。

【政府・自民党と野党・民主党は三つの柱で競い合え】
 いま必要な追加景気対策は、人手不足の医療・介護・保育の人員と施設を拡充するための補助金、待遇改善、規制緩和の長期計画の早急な着手が一つの柱である。
 年金・医療・介護・雇用の社会保障制度の改革と社会保険料・消費税の一体改革に沿って、景気対策につながる部分の改革を先行実施するのがもう一つの柱である。
 また低炭素社会を目指す長期計画の中から、景気刺激につながる公共投資の先行実施、民間投資の助成、製品普及の促進などを前倒しして実施するのが第3の柱である。
 これらの長期ビジョンを確りと国民に示し、そのための長期計画の前倒し執行が景気対策であるならば、当然長期的な財源の裏付け計画もある筈であるから、短期的な国債発行の膨張は許される。
 政府・自民党も野党、とくに民主党も、このような景気対策を国民に示し、国会で論争し、また来るべき総選挙で競い合って欲しい。