輸出を中心に製造業は大幅に悪化、非製造業は本年度下期も増収で雇用は引き続き不足

―12月調査「日銀短観」の見所(H20.12.15)


【製造業の業況は予想通り大幅に悪化、非製造業は小幅の悪化】
 本日(12/15)発表された12月調査「日銀短観」は、製造業を中心に、ほぼ予想通りの大幅悪化となった。
 まず大企業製造業の「業況判断」DIは、−21%の「悪い」超と9月調査比−21%ポイントの急激な悪化を示し、先行きも更に−12%ポイント悪化して−36%の「悪い」超となっている。これは、下のグラフのように株式・土地バブル崩壊直後の93年(−43%)、橋本緊縮予算直後の98年(−51%)、ITバブル崩壊直後の01年(−38%)に次ぐ水準への落ち込みである。
 業種別に見ると、3年分の受注を抱えている造船造機等を除き、軒並み「悪い」超となり、とくに自動車、電気機械、一般機械の悪化幅が大きい。今回の不況が、米国発の金融危機に伴う世界経済の成長減速・日本の輸出減少から起こっていることを、端的に示している。
 これに対し、国内需要に基盤を持つ大企業非製造業の「業況判断」DIは、−9%の「悪い」超にとどまり、とくに通信(+21%)と情報サービス(+2%)は「良い」超にとどまっている。



【販売価格と仕入価格は先行き下落に転じる可能性】
 「需給判断」DIを見ると、製造業では、海外の悪化幅が−22%ポイント(大企業)、−20%ポイント(中小企業)と、国内の悪化幅(夫々−16%ポイント、−10%ポイント)を大きく上回っている。また基本的には国内で営業している非製造業の悪化幅は、大企業−8%ポイント、中小企業−4%ポイントと比較的小幅である。ここでも、不況の波は海外から押し寄せており、それが国内に波及している姿が見える。
 需給判断の悪化に伴い、大企業の「販売価格判断」DIは、9月調査の製造業+11%、非製造業+5%の「上昇」超から、今回調査では一転して「下落」超(夫々−4%、−7%)となり、先行きも更に「下落」超幅が拡大(夫々−18%、−13%)する判断となっている(下のグラフ参照)。他方、「仕入れ価格判断」DIは、国際商品市況の下落と円高を反映する迄にタイムラグがあるためか、今回調査でも製造業+20%、非製造業+13%の「上昇」超となったが、その上昇幅は縮小しており、先行き製造業は−1%の「下落」超、非製造業は+4%の「上昇」超と、ほとんど上昇が止まる判断となっている(下のグラフ参照)。
 国際商品市況の反落と円高によって、輸入価格上昇の収益圧迫は、この先行き判断が示す以上のテンポで解消して行くのではないかと見られる。




【輸出は大幅に落ち込むが非製造業に支えられ本年度は全体で僅かに増収】
 売上高は、全規模全産業ベースで、下期計画が−3.3%ポイント下方修正され、前年同期比−0.6%と減少に転じた。しかし09年度通期では、前年比+1.5%と、前年度(同+4.1%)よりは大きく鈍化するものの、増加する計画となっている。
 下期の落ち込みが目立つのは、大企業製造業の輸出で、−9.3%ポイント下方修正され、前年同期比−5.4%の減少となっている。他方、下期もかなりの増加を続けているのは、大企業非製造業で前年同期比+3.6%の増加となり、下方修正は−1.1%ポイントにとどまっている。

【本年度は大幅な減益となるが利益率の水準は比較的高い】
 このように、売上高の悪化は、輸出を中心に製造業で目立ち、非製造業では小幅にとどまっているが、経常利益の計画は、製造業のみならず、非製造業でもかなりの減益に下方修正された。
 全規模ベースでみると、下期の計画は製造業が−30.6%ポイント下方修正されて−28.8%の減益、非製造業が−15.7%ポイント下方修正されて−15.7%の減益となっている。
 この結果、08年度通期でも、製造業は−22.4%、非製造業は−16.2%、全産業は−19.1%の夫々減益計画である。
 もともと08年度の当初計画は、上期に輸入原材料・部品の大幅値上がりで減益となったあと、下期にそれが解消して利益が回復する想定であった。しかし、下期に想定外の売上高の下振れが起こり、通期の経常利益が大幅に下方修正されることとなった。
 もっとも、前期(07年度)がバブル期を上回る高収益率を挙げていたので、大幅な減益にはなったものの、08年度の売上高経常利益率は、下のグラフに見るように、まだかなりの高水準である。



【本年度の設備投資計画は微増】
 本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く)は、全規模の製造業、非製造業、金融機関の合計で、前回調査時点から−2.7%ポイント下方修正され、前年比+0.1%とほぼ横這いの計画となった。前年比の内訳は、製造業+1.3%、非製造業−0.8%、金融機関+3.4%である。
 背後にある「生産・営業用設備判断」DIを見ると、全規模で製造業が14%の大幅「過剰」超に変わったのに対し、非製造業は2%の小幅「過剰」超にとどまっている。製造業は先行き「過剰」超幅が更に20%まで拡大する。製造業の本年度設備投資がプラスにとどまるのは、継続工事が大きいためで、09年度計画はその反動がかなりの減少になるのではないかと思われる。

【製造業は人員過剰、非製造業はなお不足】
 「雇用人員判断」DIも、製造業で急激に悪化している。全規模ベースで見て、製造魚の「過剰」超は、前回が3%、今回が14%、先行きが22%と急激に拡大している。とくに大企業は、前回は−2%の「不足」超であったものが、先行きは15%の「過剰」超である。非正社員を中心に、人員整理が進んでいる背景に、このような雇用人員判断の急激な変化があると思われる。
 これと対照的なのが非製造業の「雇用人員判断」DIで、全規模ベースで、前回−6%、今回−3%、先行き−1%の夫々「不足」超を続けている。非製造業には、もともと潜在的な人手不足があるためと思われるが、大企業非製造業でも先行き−7%の「不足」超であることから判断すると、非製造業が雇用情勢の悪化に対する一定の歯止めになるかも知れない。