この2か月間の株価調整をどう見るかH18.6.23)


【日本経済の基調からは説明のつかない株価調整】

 5月連休前に、日経平均で17千円台中頃まで上昇していた日本の株価が、連休明けに調整局面に入り、今週に入って14千円台中頃でようやく底入れの気配が出ている。欧米やアジア諸国の株価も一斉に調整局面に入り、1割前後値下がりしたが、2割近く下がった日本の株価下落がやや目立っている。
 日本経済の基調には変化がなく、05年度の3.2%成長に続き、06年度も潜在成長率(1.52.0%)を上回る2%台成長が見込まれている。需給ギャップの改善に伴うデフレ解消、企業収益率の一段の上昇も見込まれている。それだけに、ここ2か月近い株価調整はやや奇異にさえ見える。

【曲がり角に来た世界経済を見極めるための一時的な資金の引揚げ】
  連休明けの株価下落の直接の原因は、買超を続けて来た外人投資家が、大幅な売超に転じたためである。しかし、各国の株価が一斉に下落していることから明らかなように、日本の株式市場から引揚げられた資金は、他国の株式市場に向かった訳ではない。
 また、国際商品市況が高値圏で頭打ちとなり、目先はやや弱含んでいることから分かるように、株式市場から引揚げられた資金が原油など国際原料品市場に向かった訳でもない。
 各国の長期金利が下落している訳でもないので、株式から債券へ大規模な資金移動が起きたのでもない。
 各国の株式市場から引揚げられた資金の多くは、そのまま流動性の形で保有されていると見られる。その一つの証拠に、国際的に影響力の大きい各種のファンドで、現金保有比率が高まっている。
 これは曲がり角に来た世界経済の動向を見極めるため、回復した株価の一部を取り敢えず利喰い売りして現金に換え、様子を見ているのである。

【米国におけるスタグフレーションの気配】
 世界経済の中心は、言うまでもなく米国経済である。米国では046月からFFレートが0.25%ずつ16回引上げられ、1%から5%に上昇した。これによって米国経済は、インフレを起こすことなく3.0%〜3.5%の潜在成長率に軟着陸すると見られていた。
 しかし5月頃から、このシナリオが狂ってきたのではないかという見方が広がり始めた。それはCPIのコア・インフレ率が、これまでの原料品市況高騰の波及ではっきり上昇し始めたからである。このため、打ち止めと見られていたFFレートの引上げが更に続き、5%以上に上がって来るという予想に変った。そうなると既に減速し始めた個人消費と住宅投資が一段と弱くなり、予想外の成長減速になるのではないかという見方が広がって来た。
 つまり、インフレ無き潜在成長率への軟着陸というシナリオが、インフレと景気後退の同時発生というスタグフレーションのシナリオに変ってきたのである。

【インフレ、金利上昇、成長減速は世界に拡がるか】
 インフレと金利上昇、その結果の成長減速というシナリオの可能性は、米国だけではない。世界的にも、原料品市況の高騰が最終財の価格に転嫁される気配がある。日本もデフレを脱して、インフレの仲間入りをする。
 金利の一段の上昇予想も、米国だけではない。ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、3か月毎に3回、0.25%ずつ政策金利を引上げて、2.0%から2.75%にした。更に上昇する可能性がある。日本も量的緩和政策を解除し、夏から秋にはゼロ金利を脱すると見られている。
 もし、インフレ率の上昇とこれに伴う金利引上げが、日米欧に共通する世界的現象であるとするならば、順調に拡大を続けて来た世界経済も曲がり角に来るのではないか。いまファンド・マネージャーを始めとする投資家達は、それを見極めるために、株式市場から一時資金を引揚げて様子見をしているのである。

【やはり鍵を握るのは米国経済】
 やはり、今後の動向の鍵を握っているのは米国である。
 もし米国のインフレ率上昇が心配される程ではなく、従ってFFレートの引上げもあと12回で打ち止めという予想が出て、他方で成長の減速も予想の範囲内という見通しが出てくれば、再び軟着陸シナリオがよみがえって来る。その時は、米国の株価は反発し、世界の投資家が再び日本を含む各国の株式市場に戻って来るであろう。
 特に日本の場合は、ようやくデフレを脱したばかりで金利上昇も小幅であり、成長率も2%台を維持するとなれば、外人投資家の回帰は早いかもしれない。
 しかし、米国のスタグフレーションが本物になり、金利上昇と株価調整が続くと、日本やヨーロッパも影響を受けるであろう。
 ここしばらくは、日本のファンダメンタルズは良いとばかり言って楽観してはいられない。米国経済の動向に注意が必要である。