今年の日本経済は景気後退か緩やかな再上昇か(H17.1.19)

─ 企業の雇用・賃金への態度が大きなポイント ─


【景気動向指数は景気後退、株価は緩やかな上昇を示唆】
   日本経済は失速して越年したが、この先どうなるであろうか。
   景気動向指数の一致系列は、8、9、10月と3ヶ月連続して50%を割り、11月も速報段階では44.4%と50%を割った。しかし確報段階では60.0%と4ヶ月振りに50%を上回った。普通、一致系列が3ヶ月連続して50%を下回ると、景気後退開始の有力な指標となる。もし12月の一致系列が再び50%を下回り、以後50%をはさんで上ったり下ったりすると、やはり昨年の8〜10月あたりが景気後退への転換点と判定される可能性がある。
   先行系列は9、10、11月と3ヶ月連続して50%を下回っているので、先行き景気再上昇のサインは出ていない。景気動向指数に関する限り、本年は景気後退の可能性が高い。
   他方、株価の動向を見ると、昨年は8月頃まで緩やかに上昇し、日経平均で1万2千円台を窺ったところで反落し、9、10、11月は1万1千円台を割った。景気失速を折込んだのであろう。しかし、年末から最近までは、再び1万1千円台に戻った。
   昨年秋に反落した株価が再び戻ってきたところを見ると、株式市場はこの先景気後退とは読んでいないようだ。

【高収益に自信のある財界は先行きを楽観】
   株式市場は企業業績を中心に先行きを読んでいるとすれば、この動きは理解できる。04年度の大企業製造業の売上高経常利益率は、バブル期のピークを上回ると予測されている(12月の日銀短観)。日本経済全体に占める製造業のウェイトは2割に過ぎないが、東証1部では5割を占めていることも、株式市場の動きを読む上で重要な視点だ。
   新年の賀詞交歓会などでも、総じて財界は先行きの景気後退を心配していないように見える。その根拠を整理してみると、主として次の4点だ。
(1) リストラとバランスシート調整が進み、企業収益率はバブル期を上回る迄回復しており、キャッシュフローは潤沢にある。
(2) 米国と中国の経済は減速するとしても成長は続くので、日本の輸出は伸び続ける。
(3) 不良債権の処理が進み、4月のペイオフ解禁に不安はない。
(4) IT部品の世界的在庫調整は、本年中頃迄に終わる。

【高収益の裏側に勤労者所得の低迷】
   以上の4点はいずれももっともであるが、財界は高収益の裏側で何が起こっているかにあまり関心がないようだ。
   図1に示したように、高収益は人件費総額の抑制の上に成り立っており、勤労者所得は低迷している。それでも細々と個人消費が増えているのは、図2に示したように、60歳以上の高齢者層が貯蓄率を半分以下に下げて消費しているからだ。この消費は、あまり商店街や量販店の「物」には向っていない。介護、医療、スポーツクラブ、旅行など「サービス」に向っている。しかも貯蓄率の引下げがいつ迄続くのか分からない。




【今年の景気の分かれ目は企業の雇用・賃金に対する態度】
   新年早々、1月18日の経団連と連合の会談で、連合側は企業の利益を雇用・賃金の回復に回すように要望したが、経団連側の回答は渋かった。「それは個々の企業の経営判断で、財界として口を出すことではない」と言う紋切り型の答である。
   しかし、今年の経済が景気後退に陥るか、再び上昇に転じるかの分かれ目は、実は、図1の企業高収益が雇用・賃金の回復を通じて勤労者所得にスピルオーバーして来るかどうかに懸かっている。もし勤労者所得が増え始め、高貯蓄率を維持している図2の30〜40歳台の消費支出(その多くは「物」に向かう)が増え始めれば、輸出関連に偏った経済回復の裾野が広がってくる。輸出関連の設備投資が峠を越えても、内需関連の設備投資が代って立上がってくるであろう。

【本年は景気後退シナリオもありうる】
   そうでなければ、次の諸要因によって経済成長失速の状態が続き、企業収益も減益に転じて景気後退に陥るシナリオもありうる。
(イ) 米国と中国の成長減速に伴なって輸出が鈍化し、輸入を差し引いた「純」輸出は成長に寄与しなくなる。
(ロ) 輸出関連の設備投資が鈍化すると共に設備投資全体の成長寄与度が小さくなる。
(ハ) 定率減税打切り、社会保険料引上げ、年金給付引下げなどの国民負担の上昇で、個人消費は伸びなくなる。
(ニ) 住宅投資は優遇税制期限切れで減少する。
   以上の通りになれば、本年の成長率は1%を切り、少なくとも「グロース・リセッション」(成長しながらの景気後退)になるであろう。悪くすれば、下落にはずみがつき、マイナス成長になることもないとは言えない。
   年度末の決算や春闘の時期を控え、企業の雇用態度と賃上げの姿勢がどうなるか、注意深く見ていく必要がある。