9月調査「日銀短観」の注目点─足許の業況は良いが先行きに不安材料(H16.10.1)
【04年度上期の売上高と経常利益は増加率を高めた】
本日(10月1日)発表の「日銀短観」は、景気の基調を判断する上で注目すべき情報をいくつか含んでいる。
まず足許(本年度上期まで)の景気については、着実な回復が裏付けられた。
「業況判断」DIは、大・中堅・中小の各規模企業の製造業と、大企業非製造業(不動産、卸売、通信、情報サービス、電気・ガス、飲食店・宿泊)において、前回6月調査に比して好転している。中堅・中小企業の非製造業ではほぼ横這いにとどまっているが、総じて全体を見れば、企業の業況は7〜9月期に一段と好転した。
全規模・全産業の売上高も、前年同期に比べて、03年度下期の+1.1%増から、04年度上期の+2.1%増へ増加率を高めた。経常利益の前年同期比も、同様に、+15.5%増から+18.8%増へ高まり、増益率が加速した。
本日(10月1日)の株価が、「日銀短観」の発表を受けて反発したのは、この辺の足許の回復持続を好感したのであろう。
【雇用は減少から増加に転じる節目か】
良い情報としてもう一つ注目されるのは、雇用である。全規模・全産業の雇用者数は、03年9月末に前年比−0.4%と減り続けていたが、今回の04年6月末の実績では、+0.4%の増加に転じた。正社員の雇用を抑え、非正社員(パートや派遣)の雇用を増やす傾向は続いていると見られるが、全体としての雇用は、緩やかではあるが、増加傾向に転じたのかもしれない。
「雇用人員判断」DIを見ると、現状はまだ僅かに「過剰」超であるが、先行きについては、大・中堅企業非製造業と中小企業製造業は「不足」超に転じるとしている。大・中堅企業製造業は、先行きも相変わらず「過剰」超としているが、全体として見ると、雇用は減少から増加に転じる節目に来たのかも知れない。
本日(10月1日)発表の8月の失業率も、7月の4.9%から4.8%へ、僅かに低下した。
【本年度下期は上期に比して売上げ・収益共に鈍化の計画】
以上は明るい情報であるが、先行きについては不安な情報が含まれていることも見逃してはならない。
前述した全規模・全産業の売上高は、04年度上期には前年同期比+2.1%増と伸び率が高まるが、下期には同+1.1%増と鈍化する計画である。経常利益も同様に、上期の同+18.8%増から同+9.0%増へ大きく鈍化する計画となっている。
下期の売上高鈍化の幅が大きいのは製造業で、特に中堅・中小企業製造業では、夫々、+6.7%増から+1.9%増へ、+5.3%増から+2.3%へ伸び率が落ちる計画である。
下期の売上高の前年比伸び率低下は、輸出と内需の両方に見られる。輸出の鈍化は、米国と中国の成長率が巡航速度へ低下することの影響を見込んだものであろう。
【大企業製造業の設備投資は本年度が峠】
内需の鈍化を示唆する情報は、今回の「日銀短観」の中にもある。
それは、「生産・営業用設備判断」DIにおいて、大企業製造業の先行き判断が「過剰」超幅を拡大していることである。
本年度の設備投資計画は、全規模全産業でみると、前年比+3.5%増と前年度(同+3.5%増)と同じ伸び率であるが、このうち大企業製造業だけ見ると、前年度の同+7.4%から本年度は同+20.7%増と飛躍的に伸び率が高まる。
輸出関連の多い大企業製造業の設備ストックは、本年度の設備投資の大幅な伸びによって、さすがに過剰気味になって来るようだ。と言うことは、先行きを見れば、景気のリード役である輸出関連設備投資の伸びが、ピークを超えて鈍っていくという事であろう。
【深刻な製品安原料高による利益圧迫】
先行き不安を思わせる情報としてもう一つ気になるのが、価格動向である。「販売価格判断」DIは、相変わらず10数%ポイントの「下落」超であり、デフレの持続を見込んでいる。反面「仕入価格判断」DIは、原油や各種素材の国際市況高騰を反映して、40%ポイントを超える「上昇」超となってきた。原料高製品安による収益圧迫は、ここへ来て一段と強まり、先行きも改まらないという判断がここに出ている。