足許好転、先行き不安の「日銀短観」(H15.12.12)


【製造業の業況判断の現状は予想外の好転、先行きは悪化の予想】
   本日(12月12日)発表になった「日銀短観」(2003年12月調査)は、前回9月発表の調査に比べて現状は好転しているが、先行きについては企業の不安感を窺わせる内容であった。以下、注目すべきポイントを見て行こう。
   まず大企業製造業の業況判断DIは、「良い」超幅が9月の1ポイントから一挙に11ポイントに拡大した。これは大方の研究所の予想(6ポイント前後)を大きく上回り、前回好況時の2000年や前々回好況時の1996年のピークと並んだ。
   また中堅企業と中小企業の製造業も、前回9月調査の先行き予想を上回る好転を示した。
   他方非製造業は、各規模共、前回9月の先行き予想並みの緩やかな好転にとどまった。
   注目すべきは今回の先行き予想である。前回9月調査では、各規模各産業共、先行き好転を予想していたが、今回12月調査では、各規模の製造業において先行き悪化を予想し、各規模の非製造業は先行き横這いの予想となっている。

【先行き不安の原因はデフレ持続による国内売上高の減少】
   その原因を売上高の動向によって探ってみると、大企業製造業の本年度売上高の前年同期比は、輸出が上期+2.0%、下期+1.0%、通期+1.5%と堅調な増加を予想しているのに対して、国内は上期−0.3%、下期−1.4%、通期−0.4%の減少を見込んでいる。
   しかも、これらの予想は、前回9月調査の予想に比較して、通期で輸出は3.3%の上方修正であるのに対し、国内は−0.4%の下方修正である。この3ヶ月の間に、大企業製造業は国内の売上高見通しが弱気化しており、それが業況判断DIの先行き見通しを悪化させたと見られる。
   国内の売上高が減少を続けると見ている一つの原因は、デフレの持続である。大企業の販売価格判断DIは、「下落」超幅が前回の23ポイントから今回は21ポイントに僅かに好転したが、先行きは24ポイントと再び下落傾向が強まると見ている。

【リストラの成果で売上高経常利益率は10年来のピークへ】
   製造業の売上高が輸出増加の反面、国内の落込みで、全体として横這い圏内にとどまるにも拘らず、製造業の本年度経常利益は、前年に比べ大企業で+14.1%(前年度+38.2%)、中堅企業で+16.3%(同17.9%)、中小企業で+31.2%(同45.6%)と各規模とも2年連続で大幅な増益持続を予想している。
   この結果、製造業の本年度の売上高経常利益率は、大企業と中小企業で前回(2000年度)と前々回(1996年度)のピークを上回り、中堅企業で前々回のピークを上回り、前回のピーク並みの予想となっている。
   これは、引続きリストラの努力を続け、人件費の抑制によって損益分岐点操業度を下げているためとみられる。
   因みに製造業の雇用人員判断DIは、今回12月調査においても、「過剰」超幅が大企業で18ポイント、中堅企業で12ポイント、中小企業で10ポイントとなっており、今後もリストラの努力が続くとみられる。なお、本年9月末現在、全産業の雇用者数は前年同月に比し、大企業で−1.4%、中堅企業で−0.0%、中小企業で−0.2%の減少となっている。

【本年度の設備投資は小幅ながら増加】
   しかしこのことは、企業の利益が増加してもその成果が家計に分配されず、国内の消費は引続き停滞し、それがデフレを通じて結局は企業の売上高を抑え、先行き不安を生み出しているという悪循環を意味している。
   国内需要で唯一増加する見通しは、企業自身の設備投資である。今回12月調査によれば、全規模を合計して、本年度の設備投資計画は、前年に比べて製造業で+7.6%、非製造業で+2.1%、全産業で+3.4%である。とくに大企業製造業は+11.1%の増加となる。
   この伸びは、前年度の−7.7%(全規模全産業)に比べて好転はしているものの、全体としてプラスの幅はそれ程大きくはない。これは、生産・営業用設備設備判断DIが、今回12月調査でも全規模全産業で「過剰」超が12ポイントとまだかなり大きいためである。
   本年度の設備投資の増加は需給の好転による面は小さく、主としてIT関連などの新製品製造と古い設備の更新の投資が、収益好転に伴って出してきたものである。

【弱い国内需要とデフレの継続から企業は先行きを不安視】
   以上、今回の12月調査「日銀短観」が物語る日本経済は、次のような姿である。
   景気は、輸出の堅調持続と輸出関連大企業製造業を中心とする設備投資によって、足許は回復を続けている。
   しかし、先行きについては、企業のリストラ努力の継続で雇用が好転しないため、消費の停滞が続く。設備投資の伸びもそれ程高くはない。このため国内需要の先行きには不安が残っており、デフレも当分は止まりそうもない。
    企業は、国内需要に不安があるため、本年度下期に業況が一段と好転するとは考えていない。最近の株価の足踏みも、一つにはそうした企業の先行き不安感の反映かも知れない。