民主党の"「脱官僚」宣言"(5つの約束、2つの提言)について (H15.10.10)


─ ドクター鈴木の解説 ─

[5つの約束]
1.霞ヶ関からの「ひも付き補助金」を全廃します。(4年以内)
[解説]   現在、中央の官庁が作った計画に適合した場合に限り、地方自治体のプロジェクトに対し、中央官庁から補助金が支給され、その合計は20兆円に達しています。この使い途を決められた「ひも付き補助金」の制度を全廃し、20兆円のうち18兆円を、地方自治体が自由に使える財源として、地方自治体に一括交付します。これによって無駄が排除され、効率的に資金が使われますので、18兆円でも従来の20兆円以上の経済効果が発揮されるでしょう。なお残る2兆円は国の直轄事業や新しい政策の財源に使います。

2.政治資金は全面的に公開します。
[解説]   政治家個人に対する企業・団体の政治献金は、現在、年間5万円超から公開しなければなりませんが、政治とお金の流れの透明性を高めるため、これを全部公開しなければならない制度に改めます。なお自民党は、公開基準を逆に年間24万円超に引上げようとしています。

3.道路公団を廃止し、高速道路の料金を無料にします。(3年以内)
[解説]    経営乱脈の道路公団を廃止し、高速道路の料金は、渋滞が予想される大都市圏を除き、無料にします。これによって地方の高速道路の出入口を増やし、生活道路として地域の活性化を図ります。道路公団の債務返済と高速道路の維持管理には、年間2兆円かかりますが、9兆円の道路予算の一部振り替えと、大都市圏の料金収入で賄います。

4.国会議員の定数と公務員の人件費を、それぞれ1割削減します。(4年以内)
[解説]    1票の格差を是正すると共に、衆議院比例議席の定数を現在の180から100へ80議席減らし、小選挙区の議席300と合わせ、全体で400とします。また補助金制度の廃止などで中央官庁の無駄な仕事をなくし、高級官僚の手当を見直すなどして、国家公務員の人件費を1割以上縮減します。

5.無駄な公共事業を中止し、川辺川ダム、諫早湾干拓、吉野川可動堰を直ちに止めます。
[解説]    無駄遣いとなっている上記3事業のような国直轄の大型事業の建設や計画をストップし、3年間で3割(9000億円)を真に地域振興となる事業に振り替えます。これは事業量を減らすのではありません。予算の振り替えです。そのうえ電子入札などで談合を防ぎ、より少ない経費でより多くの事業を可能にします。

[2つの提言]
1.基礎年金の財源には消費税を充て、新しい年金制度を創設します。
[解説]     少子高齢化が進んでも給付水準の引下げや保険料引上げをしないですむ「二階建」の年金制度を再構築します。そして一階部分の基礎年金には消費税を目的税として充てます(今後少なくとも数年間は消費税の引上げは必要ありません)。二階部分の所得比例年金は所得に比例して拠出した保険料を充て、比例年金の給付額の大きい人の基礎年金は減額します。現在の年金積立金は高齢化のピークに合せて取崩し、保険料の引上げを抑えます。

2.小学校の30人学級を実現し、学校の週5日制を見直します。
[解説]     一人一人の子供にきめ細かく目がとどくようにするため、少なくとも小学校3年生以下の学級は30人以下とします。その予算(16〜20年度に毎年800億円増)は、公共事業の無駄の排除、公務員の人件費削減などで浮いた財源を使います。また土曜日は、学力の維持向上のための授業のほか、地域との交流などさまざまの学習に使います。

[総括的な解説]
    以上の5つの約束、2つの提案を全体としてみると、少なくとも三つの特色を指摘することが出来ます。
【総需要を喚起する改革で持続的成長へ】
    まず第一は、全体として総需要喚起型の改革となっており、4年間の民主党政権の間に日本経済は持続的成長を遂げるであろうということです。
    [5つの約束]の1にある「ひも付き補助金」の廃止によって、地方の事業は効率化し、20兆円の補助金からより大きな経済効果が生まれます。3は高速道路を利用する車が増え、地方経済が全体として活性化します。4で削減された経費は、他の目的に使われ、全体として支出削減にはなりません。5も同様で、公共事業の削減ではなく組替えですから、同じ予算規模からより大きな経済効果が生まれます。
    [2つの提言]の1は、国民に安心を与え消費を活発化します。2は教員の数を増やし、地域のボランティア活動を刺激しますので、消費拡大の効果があります。

【政官業癒着の上に乗る自民党政治には出来ない政策】
    第二の特色は、[5つの約束]がいずれも政官業癒着の利益誘導を政治的基盤とする自民党には、実行不可能な政策だということです。
    1の補助金制度は、中央官庁が地方自治体を支配する仕組みであり、そこに万年与党自民党の議員が介入して地元に利益誘導する仕組みです。ですから小泉政権のいわゆる「三位一体」改革では、補助金制度をそのままにして3年間に4兆円の補助金を地方自治体に使わせるにすぎません。補助金制度を全廃して18兆円を使わせる民主党案とは雲泥の差です。
    2の政治献金を透明化することについては、自民党は利益誘導を隠すために献金の出所を隠したがっており、逆に公開の基準を現行の5万円超から24万円超に引上げようとしています。
    3の道路公団については、公団をそのまま民営化して巨大な独占企業を創り、高速道路の有料化を続けて高収益をあげさせようというのが小泉構想です。これは自民党政治の基盤である既得権益を守ることになりますが、それでも道路族や国土交通省は反対しています。官僚の天下り先や族議員の利益誘導の道具として、これ迄に比べて使いにくくなると思っているからでしょう。ましてや民主党のように道路公団を廃止し、高速道路を無料化することは、自民党政治の基盤を壊すことになりますから、とても出来ません。
    4の国会議員と官僚の削減も、官僚主導の族議員政治を行なっている自民党には、考えも及ばないことです。
    5の無駄な公共事業中止は、何十年にもわたってそれを実施してきた自民党政権の自己否定になりますから、とても自民党には出来ません。

【官僚否定ではなく政治主導で官僚をフルに使う政策】
    最後に、この「5つの約束、2つの提案」は"「脱官僚」宣言"と題されていますが、それは「官僚主導」の政治を止める宣言という意味であって、官僚そのものが要らないと言っているのではありません。
    日本の官僚は「個人」としては極めて優秀な人材が大勢居ます。しかし官僚「組織」が政治よりも優位に立ち、政治家が行なうべき政策の企画をしています。自民党政治はその上に乗っかっているだけです。そのような「官僚主導」を改めて、「政治主導」で5つの約束や2つの提言に示される政策を実現しようというのがこの宣言です。実行の過程では、当然行政官としての官僚が政策を推進するのです。
    その意味でこの宣言は、官僚否定ではなく、官僚をフルに使って5つの約束、2つの提案を実行するという政治宣言なのです。