小泉・竹中経済戦略のどこが間違っているか(H15.9.24)
─ 民主・自民の経済戦略の対比 ─
【新しい民主党と自民党が対決する総選挙】
本日(9月24日)、自由党は民主党との合併協議書に調印し、26日に総務省に合併の届け出をする(継続政党は民主党、自由党は解散)。これに伴ない、私は合併後の新しい民主党の東京ブロック比例第2総支部の総支部長に就任する(第1総支部の支部長は神奈川県第8区に転出した岩国哲人氏)。既に自民党の小泉総裁再選と小泉内閣の改造が終っているので、民由合併によって、政界は秋の総選挙に向って走り出す。
民主党は既に「政権公約/マニフェスト」(第1次集約)を発表しているが、来る10月5日(日)の合併大会を事実上の総選挙出陣式とし、そこで自民党と対決する選挙スローガンを掲げることになる。対する自民党の小泉首相は、総裁選の公約を総選挙の際の自民党の公約にすると言っている。従って両陣営の選挙公約の大筋は既に見えている。
そこで取敢えず経済戦略について、民主党と自民党を対比し、自民党の経済政策の問題点を指摘してみたい。
【不況の本質は供給側にあり需要側にないという小泉・竹中の認識】
小泉首相は、自民党内の多くの反対を押し切って、竹中金融・経済財政大臣を再任し、引続き竹中大臣に経済戦略を丸投げする構えである。従って、自民党の経済戦略は、竹中大臣の経済運営の考え方が基本になる。
竹中大臣は、時と所によって言い方を変えるが、ここでは月刊誌『Voice』の本年10月号に掲載された"日本経済の「沸点」は近い"を参考にしたい。
まず当面の不況・デフレの基本的原因についての認識が、小泉・竹中と私達の間で異なっている。小泉・竹中路線の基本認識は、「90年代不況の本質はバブルの崩壊でバランスシートが痛んだという供給側の問題であり、外的ショックで需要が落込んだのではない。従って対策は総需要喚起ではなく、主要行の不良債権処理を突破口として金融を再生させ、貨幣乗数を高めること(マネーサプライを増やすこと)にある」とする。
小泉首相がこの理屈を理解しているのかどうかは分からないが、この竹中理論に丸乗りしていることは確かだ。自民党総裁選で、小泉首相以外の3候補は、口を揃えて「総需要喚起が必要だ」と主張したが、支持は少数で敗れ去った。従って総選挙にのぞむ自民党政権の基本認識、ひいては総選挙公約の基本前提は、この竹中理論だと考えられる。
【資産価格の暴落は総需要に対してもマイナスのショック】
しかし、バブル崩壊に伴なう地価、株価など資産価格の暴落でバランスシートが痛んだ影響は、供給側だけの問題ではない。総需要に対しても、マイナスのショックを与えている。
例えば、資産価格が暴落した結果資産総額が縮小したことは、消費や投資という需要を減少させる(逆資産効果)。また保有資産の評価損の発生は、企業の支出活動全般に悪影響を及ぼす。
バブル期に発生した過大な借入を伴なう設備投資や住宅投資は、その後の低成長期に過剰設備、ぜい沢な住宅として企業と家計の経済活動を圧迫し、設備投資、住宅投資、個人消費などの需要低迷をもたらしている。
このように、バランスシート問題は銀行の貸出能力という供給側だけの問題ではなく、企業と家計の支出、つまり総需要にも大きなマイナスのショックを与えたのである。
【不良債権処理の強行は中小企業の貸しはがしで景気に悪影響】
従って、このマイナスのショックを打ち消す一定の総需要喚起はどうしても必要である。竹中大臣は、不良債権が平成14年度に減り始めたので、あと2〜3年もたてば銀行の貸出能力が回復してマネーサプライが増えると言う。
しかし現実は、不良債権の処理を強行し、しかも自己資本比率を維持し業務純益を改善するために、銀行は中小企業に対する貸しはがしを実行し、景気の足を引っ張っているのである。
例えば大手行の不良債権は、平成13年度中に8.4兆円増加したあと、14年度中には7.7兆円減少したが、その2年間に、大手行7グループだけで、貸出は10.4兆円減少した。そのうち10.7兆円の減少は、中小企業向け貸出であった。
このように、景気に逆行する金融行政を強行しながら、2〜3年のうちには銀行の貸出能力が回復してマネーサプライが増え、経済が立直ると言うのが、小泉・竹中路線である。このような無責任な政権が続くことは、日本経済にとって眞に不幸なことである。
【財政の基本はビルトインスタビライザーと強弁する竹中大臣】
現状は金融面から経済を立て直せるような状態にはない。銀行の貸出能力回復には時間がかかる。金融政策も「流動性のワナ」にはまり、短期金利をゼロ金利から下へは下げられないから有効性を失っている。
総需要喚起策は当面財政政策以外にない。しかし竹中大臣は、財政政策の基本はビルトイン・スタビライザーだと言い、税収の落込みによる財政赤字の拡大を許容し、国債発行の増加で埋めれば充分だとの認識である。小泉首相も、36兆円の国債発行を伴なう15年度予算は、緊縮予算ではないと言い張っている。
しかし予算が緊縮的かどうかは、財政赤字=国債発行の額で単純に計れるものではない。財政赤字=国債発行の拡大が減税や財政支出増加の結果であれば拡張的、増税(国民負担の増加を含む)や財政支出削減によって税収が落込んだ結果であれば緊縮的である。もともとの13、14年度予算が緊縮的だから税収が落込んだのであって、その結果発生した15年度予算のビルトインスタビライザーは一層の緊縮を避けただけだ。
【民間需要喚起で景気回復・雇用拡大を図る民主党の公約】
民主党の「マニフェスト」は、その第1項目で「景気を回復させ仕事と雇用を生み出します」と述べ、「景気回復・雇用拡大には民間需要を掘り起こし、内需を拡大することが必要です」と主張している。小泉・竹中路線とは正反対である。
具体的には、国直轄公共事業の削減や無駄の排除などで平成16年度に1.4兆円程度、17年度に2.5兆円程度を捻出し、これを財源として、生活・環境重視の新しい公共事業の実施、個人の借入れ利子控除制度創設、高速道路原則無料化、中小企業対策充実などに使う。そこには、予算の支出総額をやみくもに削減する小泉・竹中戦略とは異なり、あくまでも支出の内容を組み替えて効率を高め、景気と暮らしを向上させようと考えている。
これらの総需要喚起によって、民主党政権の任期中に失業率を現在の5.3〜5.5%から4%台前半以下に下げると公約している。
この点自民党には数値の公約もない。竹中大臣は「今後1〜2年は税収も低いから財政赤字は拡大する」「どこの国でも失業率は容易に下げられない」などと無責任な発言をして予防線を張っている。こんな政権に日本をあと3年もゆだねるとしたら、大変な悲劇である。
【民主党の改革は自民党よりも広範で抜本的】
次に経済改革関係の公約を対比してみよう。自民党は、主に@120の経済改革特区創設、A補助金を3年間で4兆円削減(三位一体改革)、B郵政公社民営化、C道路公団民営化、である。
@について民主党は、事業規制を原則撤廃して企業努力と起業意欲を喚起するという公約を掲げている(17年中に法案成立)。自民党のように、族議員と所管官庁がOKした規制緩和を特定地域で実験的に実施する構造改革特区よりも、はるかに広範かつ全国的な規制撤廃である。
Aについては、民主党は総額20兆円の国の補助金のうち18兆円を、使途の決定権限と共に自治体に一括交付すると公約している。自民党の4兆円とはスケールが違う。この違いは、自民党が現行の補助金制度を維持したまま、金額だけを削減しようとしているのに対し、民主党は補助金制度そのものを廃止して、中央による地方支配を絶とうとしているからである。なお、残りの2兆円の一部0.9兆円は補助金制度の廃止に伴なう経費の節約で、前記の財源(16〜17年度合計3.9兆円)の一部に使われる。
【郵政公社と道路公団の民営化は改革と言えるのか】
Bについては、郵貯・簡保・郵便の3事業を行なう巨大な郵政公社をそのまま民営化することが、正しい構造改革かどうか根本的に疑問があるので、民主党の公約では触れていない。
このHPの「論文・講演」"道路公団と郵政事業の民営化は疑問"(H15.9.2)で述べたように、郵貯と簡保は典型的な官業の民業圧迫であるが、郵便は郵便局のネットワークという社会的なインフラを使った有益な公的サービスであり、そこに民間の参入を許すかという問題である。郵政3事業は民営化という言葉で一括して論じるのは不適切である。
Cについて民主党は、道路公団廃止と高速道路原則無料化を仮の公約として打出している。上記のHPの「論文・講演」で触れたように、道路は公共財であるから本来民営化にはなじまない。政府が税金で作り、建設費償還後は原則無料とすべきだ。民主党としては今後更に検討を進めることになっている。