「りそな」が示す小泉金融改革の戦略的破綻(H15.5.19)


【デフレ下の金融改革は早晩破綻する】
    「りそなホールディングス」は政府に対し、傘下の「りそな銀行」に対する約2兆円の公的資本の注入を申請したが、これは、単に3月危機が遅れて表面化したということにとどまらず、小泉政権の金融改革が既に破綻していることを端的に示す事例である。
    小泉首相は、「改革なくして成長なし」という基本戦略の下で、需要喚起策を採ることなく、デフレの進行下で金融改革を進めてきた。その改革の内容は、@不良債権処理の加速、A自己資本比率の維持(必要なら公的資本注入)、B銀行経営の合理化(時価会計の導入、税効果会計の厳密化、株式保有制限、競争促進のビッグバンなど)、などである。
    この小泉金融改革の戦略は、二つの点で、早晩行き詰まる必然性を持っている。第一は、需要喚起策を採らず、デフレを進行させることによって、@〜Bの目的に逆行する動きを生み出していることである。第二に、デフレ下で@〜Bの目的が相互に矛盾し、互いに阻害し合って目的達成を難しくしていることである。
    この二つの困難が、大手銀行グループの輪の中で最も弱い「りそな」を直撃し、公的資本の注入が無ければ破綻する状況に追い込んだのである。大銀行の破綻は金融システム全体に甚大な影響を与えるが、取敢えずは公的資本注入と日銀特融でパニックは回避されよう。しかし、事態はそれで終るような性格のものではない。

【デフレは不良債権処理、自己資本維持、経営合理化と矛盾する】
    第一に、前述の通りデフレの進行が@〜Bの目的と矛盾するからである。まずこのことを確認しよう。
    ここ数年間、毎年の不良債権の新規発生額は、その年の銀行の業務純益を上回っている。つまり儲けを全額不良債権の処理にあてても、不良債権が増えて行くのだ。このような大量の不良債権の新規発生は、10年間の経済停滞のあげくに、ここ数年はデフレが進行しているため、多くの一般的な企業が借入金の期日返済や利払いが出来なくなっているからだ。
    これはバブル崩壊の後遺症ではない。デフレの進行を放置する小泉戦略が続く限り、銀行は自力(自分の儲け)で不良債権を減らせないという事に他ならない。このような実状を無視し、@自力で不良債権処理を加速させようという小泉改革は、もともと不可能なことを要求しているのである。
    A自己資本比率の維持も、業務純益を上回る不良債権処理で資本が毀損し、またデフレ下で株価が暴落して、保有株式の評価損が拡大し、資本を減価させているうえ、税効果分が厳しくチェックされている現状では困難である。
    更にB銀行経営の合理化も自らのくびを締めるようなものだ。株式保有制限を守るために値下りした株式を売却し、それが更に株安に追い打ちををかけ、あげくの果てに残った値下がり株式の評価損を時価会計で計上しなければならないのだ。不良債権処理から生まれる税効果の自己資本導入も、監査法人の目で厳しくチェックされている。
    以上の三つの総ての苦しみを味わった上で、本年3月末に約6000億円の欠損金を出し、自己資本比率が4%を大きく割り込んで2%近くになり、遂に手をあげたのが「りそな銀行」である。

【不良債権処理、自己資本維持、経営合理化は相互に矛盾する】
    次に@〜Bの目的が相互に矛盾し合う事を確認しよう。
    @不良債権処理を加速せよという小泉政権の掛け声の下で、業務純益を上回る不良債権の新規発生額を処理し、更に既往の不良債権を減らして行こうとすれば、自己資本を取崩してこれに当てなければならないので、自己資本比率が下がる。
    そこでA自己資本比率を引上げるために増資をすると、収益力が変らないのに発行済株式が増えて行くので、1株当りの収益が下がり、株価が下落する。「りそな」を含め、大手銀行の株価が一斉に下落したのはそのためである。
    B銀行経営の合理化は、本来1株当りの収益を引上げるのが目的である。そこで自己資本比率の引上げを増資に頼らず、分母の資産圧縮に頼ろうとしたのが「貸しはがし」である。しかしこれは社会的な批判を浴び、行政当局によってチェックされている。
    結局、デフレが解消して不良債権の新規発生額が減り、また1株当りの収益力が向上しない限り、@〜Bは相互に矛盾するのである。「りそな」もその矛盾の中で苦しみ抜いたあげくに資本不足に陥り、公的資本注入で事実上国有化され、「特別支援銀行」になるという身売りの道を選んだのである。

【他の大銀行グループも「りそな」と同じ道を歩んでいる】
    以上のように、デフレ下で金融改革を実行するという小泉戦略は、もともと無理なのである。他の四つの大銀行グループも、程度の差はされ、自己資本不足に陥った「りそな」と同じ道を歩んでいる。違いは、「りそな」よりも不良債権の額が小さいとか、収益力が高いとか、税効果以外の自己資本が多いという「程度の問題」なのである。従って、デフレの進行につれて、他の四大銀行グループも次第に追い詰められて行く。
    小泉金融改革は、このようにして日本の大銀行を追い詰め、国有化して何を得ようとしているのであろうか。デフレの進行によって@不良債権処理、A自己資本維持、B経営合理化はいずれも困難になり、またデフレの下では@〜Bは相互に矛盾する以上、たとえ経営者を退陣させても、国有化しても、@〜Bの金融改革の目標は達成されないであろう。
    小泉金融改革の戦略は根本的に間違っている。需要喚起政策によって日本経済を持続的成長軌道に乗せるのが先である。そうでない限り、@〜Bの目標は達成できない。