迷走する生保予定利率引下げ問題(H15.2.25)

- 問題を先送りした小泉政権は無責任だ -

【またしても重要問題を先送りした小泉内閣】
生命保険会社は、長引く超低金利時代の中で、過去に契約者と約束した予定利率と運用利回りが逆鞘となり、そこから生じる赤字が累積している。その上、株価暴落に
ともなう損失も大きいため、既に7社が倒産した。倒産した生命保険会社は主として外資に買収され、予定利率を1.5%に引き下げて再スタートしている。
このまま超低金利が続いていくと、現在は債務超過に陥ってない生命保険会社も、赤字が更に累積して債務超過となり、いずれ倒産しかねない。そこで、倒産しないう
ちに契約者と話し合い、予定利率を引き下げることが出来る制度を創設することとし、そのための保険業法改正案が金融庁によって準備された。
ところが政府と与党3党は、4月から健康保険の患者負担が2割から3割に引き上げられるなど国民泣かせの制度改革がいくつかスタートする時に、更に生命保険の予定利
率を引き下げる制度を創ると、統一地方選挙に差し障りがあるとして、改正法案の国会提出を見送った。またしても小泉改革お得意の重要問題先送りである。そして、生
命保険会社が倒産した場合のセイフティネット(平成14年度末に期限切れ)を15〜17年度に張替える法案だけを国会に提出することとした。

【セイフティネットがあっても倒産時の損失は莫大】
しかし、これでは国民は不安な状態のままに置かれる。何故なら、生命保険会社が倒産した場合、このセイフテイィネットの保証限度は100%ではなく90%であり、し
かも予定利率は現行の新規契約並の1.5%に引き下げられるからだ。
バブル発生以前の予定利率は長い間4%であったし、バブル時代には6%まで上がった。従って過去の契約者は、保険会社が倒産すると受け取る保険金(あるいは途中の
配当や満期日の返戻金)は10%カットされた上、予定利率の1.5%への引下げで更に小さくなる。倒産時に契約者が蒙る損失はきわめて大きい。
そこで、倒産時に蒙る損失よりは小さな損失にとどめようというのが、この倒産前の予定利率引下げ問題である。

【予定利率引下げ問題の先送りは極めて無責任】
この次善の策を見送り、最悪のケースである倒産の際のセイフティネットだけを張替えるという小泉政権と与党3党の決定は、極めて無責任であり、国民の利益に反す
る。
予定利率の引下げは、長期の生命保険契約を契約者である国民にとって不利な方向に改定する制度を創る話であるから、国民にとって不評であることは間違いない。事
実、金融審議会でこの予定利率引下げ問題が検討された一昨年の秋には、生命保険の解約が急増した。国民は予定利率引下げに大きな不安を感じているのである。
しかし、冷静に考えると、予定利率を引き下げそうな経営不振の生保を解約して、別の生保に移ると、新規の予定利率は1.5%に下がるのである。今論議されている3%
程度への予定利率引下げであれば、そのまま解約しないで居た方がましである。
従って責任のある政府であれば、予定利率引下げのケース、解約のケース、倒産のケースを国民に分かり易く説明し、国民の選択に任せるのが正しい姿勢である。不評
を買いそうだからといって、予定利率引下げ制度を先送りする態度はもっとも無責任である。

【私の提案する予定利率引下げ制度】
私は次のような予定利率引下げ制度を創り、国民の選択に任せるべきだと考える。
第一に、予定利率の引下げは個々の生命保険会社が自主的に決め、契約者に提案する。行政介入により業界が一斉に引き下げることは許されない。あくまで個々の会社
と契約者の間の契約改定交渉とする。
第二に、予定利率を引き下げないと近い将来債務超過に陥って倒産する場合に限り、予定利率の引き下げを提案できることとし、本当にそうかどうか第三者の専門家
が契約者に代わって精査する。
第三に、提案する生命保険会社の役員は責任をとり、又劣後債、劣後ローンを提供している銀行は債権切捨てに応じる(一種の株主責任)。
第四に、予定利率引下げによって蒙る契約者の不利益は、解約して他の保険に移った場合や会社倒産の場合に蒙る不利益よりもはるかに小さくなければならない。
第五に、契約者の1割以上がこの提案に反対した場合は成立しないこととする。

【予定利率引下げに至った責任は自民党政権と金融行政に】
以上が私の提案する予定利率引下げ制度である。金融庁が考えている保険業法改正案も概ねこの線から大きくは外れていない、この改正案の国会提出を先送りした小泉
内閣と3与党は極めて無責任であると思う。
予定利率の引下げは、あくまでも個々の保険会社が契約者に契約改定を「お願い」する問題である。また契約を改定せざるを得なくなった責任を、保険会社の役員は負
わなければならない。株式会社ではないので、劣後債(ローン)を提供している銀行も、一種の株主責任を負うことで、契約者に謝罪すべきである。
しかし、このような事態に至った責任は、民間の経営者だけにあるのではない。バブルを発生させて6%という高い予定利率を認可した政府と行政、バブル崩壊後に10
年間も日本経済を停滞させ、誰も予想できなかった超低金利時代を長引かせている自民党政権の失政にも、大きな責任がある。
従って、予定利率引下げという国民にとって不利な話を検討せざるを得なくなったことに対する歴代自民党政府の責任こそ、問われるべきである。感情的に生命保険会
社を批判するだけでは、問題の所在がぼけてしまう。