2003年年頭所感(H15.1.1)

−小泉改革の戦略は崩壊した−

2003年の新春を迎えるにあたり、過去1年間を振り返ったうえ、新年を展望してみたいと思う。

【小泉政権は2002年の経済運営を決定的に間違えた】
小泉政権は、昨年、経済運営を決定的に間違えた。5月に「景気底入れ宣言」を発表し、竹中経済財政大臣は、「景気が底入れした時に景気対策を打つのは“愚の骨頂”だ」(NHK日曜討論)と発言した。そして、財政再建の好機到来とばかりに、2003年の外形標準課税導入、消費税の免税点引下げ、公共投資の10%削減などの方針を打出した。
しかしこの景気底入れは、米国景気の一時的底入れに伴う輸出の増加と在庫調整の一巡と言う、いずれも一過性の要因によるものである。国内の設備投資は減少を続け、個人消費は雇用悪化と賃金引下げを背景に弱いままであった。自律的な回復の兆しはまったく出ていなかった。
本来であれば、ここで設備投資と個人消費を刺激する需要刺激策を打ち、一時的底入れを持続的回復につなげるべきであった。

【生産の回復は頭打ち、失業率は上昇、株価は下落】
しかし、小泉政権は、この景気底入れが一時的な性格である事を見抜けず、景気対策どころか逆に財政緊縮政策に転ずる姿勢を明らかにした。このため株価は、「景気底入れ宣言」後にどんどん下落し、バブル崩壊後の最安値を更新し、20年前(80年代初期)の水準にまで下がってしまった。
生産の回復も、予想通り、8月頃から頭打ちとなってきた。在庫調整一巡の効果が薄れてきた上、米国経済の回復失速に伴って輸出の伸びが鈍り、輸入を差し引いた純輸出がマイナスに転じたからである。
生産の頭打ちを反映して、10月には完全失業率が景気底入れの前の戦後最高水準である5.5%に再び上昇した。企業は賃金割高の40歳台、50歳台の男子世帯主の常用雇用を切り、割安の女子や若年の臨時雇用に切り替え、又極力時間外労働に頼る傾向を強めている。このため男子の完全失業率は、5.9%に急上昇し、なお上昇傾向にある。年末年始を暗い気持ちで過ごす家庭が増えている。

【2002年度補正と2003年度当初の予算は公約違反の政策転換】
小泉政権は、ようやく12月に至り、事態の深刻さを認め、方針を転換した。2002年度中は国債発行30兆円枠を堅持すると言う公約をあっさり放棄し、3兆円(公共投資1.5兆円、雇用対策1.5兆円)の補正予算を2003年通常国会の冒頭に提出することを決めた。
また、2003年度当初予算では、1.8兆円の減税を含み、国債発行36.4兆円(国債依存度44%)の政府原案を決めた。
これは、2002年度国債発行30兆円枠の放棄といい、2003年度国債発行が過去最高水準となったこといい、いずれも「財政再建最優先」という公約に対する明白な違反であり、「政策転換」である。
ところが小泉総理は、「これは政策の強化であり、転換ではない」という訳の分からぬ詭弁を弄している。

【小泉首相の政策転換は需要刺激策としては中途半端】
しかし、小泉首相がどんな詭弁を弄しようとも、これは小泉首相の明白な「公約違反」であり「政策転換」である。しかも悪いことに、需要刺激としてはまったく中途半端な政策転換である。
まず3兆円の2002年度補正予算は、前年にも同規模の補正予算を組んでいるので、補正後ベースでみて前年以上の「超緊縮予算」であったものを、前年並みの「緊縮予算」に戻しただけである。前々年(2000年度)以前の予算に比べて公共投資を大きく削減し、国民負担も増やした緊縮型であることに変わりはない。従って、この2002年度補正予算が成立して執行されても、2003年春以降に需要が拡大する訳ではない。落ち込みが小さくなると言う程度である。
次に2003年度当初予算は、1.8兆円減税を含むとはいえ、他方で物価スライド凍結解除に伴う基礎年金引下げ、医療保険料と介護保険料の引き上げなどで2兆円強の国民負担の増加がある。従って、減税の需要刺激効果は相殺され、当初予算全体として景気刺激型になっていない。

【小泉改革のシナリオは完全に崩壊した】
以上のように、この政策転換は景気刺激と言う点では極めて中途半端なものであるが、しかし、小泉改革の経済戦略という視点から見ると、完全な戦略の破綻を意味している。
小泉政権が2002年の初頭に決めた「2003年度にデフレ克服、2004年度から民需主導の着実な成長」というシナリオが崩れているからである。
小泉首相は、政権をとった当初から「2〜3年は改革に伴う痛みで経済は停滞するが、その後は改革の成果が出始めて民需主導の持続的成長が始まる」という戦略を描いていた。「2〜3年は痛みに耐えろ」は小泉首相の口癖でさえあった。
この「2〜3年」とは、政権がスタートした2001年4月から2003年3月ないしは2004年3月のことである。つまり小泉首相は、「長くても2003年度までは痛みを我慢しろ。そうすれば改革の成果が挙がる」と言っていたのだ。
しかし、この最終年である2003年度に改革の痛みが終る可能性は無くなった。それどころか逆に、国債発行額は36.4兆円に拡大し、不良債権も増えている。小泉首相が構造改革における最重要の目標として掲げた財政赤字削減と不良債権処理は、目標に逆行して悪化しているのだ。これでどうして2004年度から改革の成果が出て民需主導の成長が始まると言えるのか。

【国民は小泉改革の戦略的破綻を認識せよ】
恐らく新年の初めには、小泉首相が議長を務める経済財政諮問会議において、デフレ克服と言う戦略的目標を、これ迄の2003年度から2005年度に2年先送りし、これを閣議決定することになるであろう。痛みに耐える期間が3年から5年に延びるのだ。しかも延びた結果事態が好転する目安は、何もたっていない。これは、小泉改革の戦略の破綻でなくて何であろうか。
2002年10〜12月期と2003年1〜3月期は、再びマイナス成長に陥る危険性がある。2003年度の成長率も、民間ではマイナス成長の予測が増えてきた。新年の国内には、景気回復につながる動きがまったくないからである。
国民は、小泉改革の戦略的破綻という事実をはっきりと認識すべきである。規制撤廃、政府事業の民間解放、大幅減税など民間のビジネス・チャンスを「創る」改革は、既得権益を守る政官業癒着の壁にはばまれて遅々としている。反面、財政赤字削減、不良債権処理、公共投資削減、高速道建設凍結など「壊す」改革ばかりに力を入れている。その結果景気を停滞させ、「壊す」改革自体もあと戻りしている。
来るべき解散・総選挙において、国民がこの小泉改革の戦略的破綻を認識して行動をとるであろうか。政官業癒着の利益誘導にとらわれず、「創る」改革に力を入れる自由党の改革路線を理解してくれるであろうか。小泉改革と私たちの主張する改革の違いが鮮明に打出せるかどうかに、新年以降の日本の命運が懸かっている。自公保を過半数以下に追い込むことが出来れば、新年には政策中心の政界再編が起きるであろう。