総合デフレ対策はデフレ促進的内容だ(03.11.01)

−総合デフレ対策はデフレ促進的内容だ−

【総合デフレ対策に失望して株価と長期金利が低下】
 政府は10月30日に「総合デフレ対策」を発表したが、当日の株価は下ってしまった。失望売りが出るのは当然である。デフレ対策とは名ばかりで、実際にはデフレ促進的内容だからである。
 唯一、前向きの効果が現われたように見えるのは、長期国債の市場利回りが1%を割ったことだ。長期金利の低下は民間投資を刺激し、総需要を拡大してデフレを阻止する効果を何がしか含んでいるかも知れない。
 しかし、この長期金利の低下は、総合デフレ対策と歩調を合わせて実施された日本銀行の金融緩和策(日銀当座預金残高の目標値を従来の10〜15兆円から15〜20兆円へ引上げ)の結果であろうか。私は疑わしいと思う。短期市場の金利はゼロ金利に張りついたままの状態でアイドル・バランスのみが5兆円増加したからと言って、長期金利が低下する理論的根拠がないからである。

【需要刺激策がほとんど無い総合デフレ対策】
 この長期金利の低下は、総合デフレ対策に失望した機関投資家などが、これでは当分経済停滞が続くと判断して、将来の短期金利の予想を一段と下方修正(ゼロ金利の継続期間の予想を一段と延長)したからであろう。いうまでもなく、将来の予想短期金利の平均にリスク・プレミアムを加えた値が、現在の長期金利を形成するからである。
 現時点の有効なデフレ対策は、総需要を刺激して物価下落を止める対策でなければならない。しかし、今回発表された総合デフレ対策のどこにそれがあると言うのか。
 総合デフレ対策は三つの部分からできている。第一は不良債権の処理を加速する政策である。第二は、失業者のためのセイフティ・ネットを強化する政策である。第三は、減税と構造改革特区の創設である。
 以下、順次これらを評価してみよう。

【銀行の国有国営や企業の経営管理はデフレ的】
 まず不良債権処理の加速は、自己資本中の税効果分を除くとか、公的資本の注入を受けた銀行の経営者を罷免するというような乱暴なルール変更、あるいは私企業への干渉はやや後退した。
 しかし、年度内に特別検査を再実施し、不良債権の査定と引当金の積み上げを厳格化することになるので、銀行は業務純益だけでは対処できなくなり、公的資本の注入が進むことになるであろう。
 また不良債権を再生勘定として切り離し、銀行経営者や官僚OBを排除した産業再生機構に移せば、不良債権の相手側である企業は取引先の信用を失ない、経営再建は困難となって倒産する企業が増えるであろう。
 このような銀行の国有国営化や、企業の経営管理は、民間経済の活性化という構造改革の理念に逆行し、一時的には銀行や企業の破綻を増やし、日本経済のデフレを促進することになるであろう。

【減税規模は小さすぎてデフレ要因を相殺できない】
 それでもやると言うのであれば、需要を刺激して経済を浮揚させる策と同時に実施しなければ、日本経済がもたない。ところが、そのような需要刺激策は、以下のようにほとんど用意されていない。
 まず二番目のセイフティ・ネットの強化策は、失業者に対する対策であるから、いわば不況のあと始末であり後向きの対策である。必要な対策ではあるが需要喚起にはならない。
 三番目の対策が需要刺激策である。まず開発減税や投資減税、あるいは相続税・贈与税の見直しによる1兆円強の減税は、一定の需要刺激効果はあるであろう。
 しかし、来年は社会保障関係で3兆円強の国民負担の増加がある。また、補正後予算ベースでみて、平成14年度は前年比3兆円の緊縮予算であり、その影響は来年1〜3月に出る。そのような時に1兆円強の減税では、差し引きしてまだ大きなデフレ効果が残る。

【構造改革特区の効果は小さいし時間がかかる】
 もう一つの需要喚起策は、構造改革特区の実現である。これは、全国的な規制緩和には族議員や官僚の抵抗が強いので、特定地域で実験的に規制緩和を実施しようとするものだ。本来全国規模で行うべき規制緩和を特定地域で行うのは、いかにも腰が引けている。しかしやらないよりはましと言えるかも知れない。
 ただ、これによってビジネス・チャンスが増えて需要が刺激される迄には最低でも1〜2年かかるであろう。とても目先の需要喚起策には間に合わない。そのうえ、特定地域だけの規制緩和では、たとえ投資が喚起されたとしても、総需要全体から見れば小さな規模であろう。
 以上のように、今回の総合デフレ対策は、デフレ(持続的な物価下落)を阻止する需要喚起の効果は小さく、逆にデフレを促進する厳しい不良債権処理策が含まれている。これではデフレが止まる筈はない。3兆円の国民負担増加などを考えると、今後デフレはますます深刻になるであろう。