何故景気底入れ宣言で株価が下がるのか(2002.6.25)

−秋以降政変の可能性も −

【景気底入れで再び財政再建に傾く小泉政権】
 政府が「景気底入れ宣言」を出した5月中頃から、皮肉な事に株価がダラダラと下がっている。6月14日には日経平均株価が1万1千円台を割って1万円に接近している。
 またTOPIXは6月24日に一時1,000の大台を割った。市場関係者は下値がどこになるのか、大きな不安にかられている。
 この1ヶ月以上株価が下落している理由は、いくつか挙げる事が出来るが、根本的な理由は小泉政権の経済政策に対する不信である。
 世界的に電子部品の在庫調整が完了し、米国とアジアの景気が緩やかな回復過程に入ったため、日本の対米輸出(自動車、電子部品など)と対アジア輸出(一般機械、電子部品など)が本年に入って回復し、鉱工業生産は5四半期振り、実質GDPは4四半期ぶりにマイナス成長からプラス成長に転じた。
 ここで小泉政権が内需テコ入れ政策を打てば景気は底入れから回復に転じるのであるが、小泉政権は景気底入れに安心し、逆に第2次デフレ対策をトーンダウンさせた。その上、むしろ来年の予算編成に向け、増税や歳出カットの話ばかりを出してきた。これでは市場が失望売りに転じるのは無理もない。

【輸出主導の景気底入れは「線香花火」型に】
 このホームページの「月例景気見通し」欄の2002年6月版で詳しく述べたように、現在は輸出の伸長が内需回復に火をつけるメカニズムが弱い。円高で輸出にブレーキがかかるし、また輸出産業が国内の雇用や設備投資を増やすとは限らないからである。従って、この時期に経済政策によって内需回復に点火しない限り、輸出主導型の景気底入れは「線香花火」型で終わってしまう。市場はそれを心配しているのである。
 ところが、現実には、小泉総理が今週のサミットに持っていく第2次デフレ対策は、景気刺激よりも財政再建の色彩が強いものになってしまった。
 将来の行政改革による歳出削減を財源に、いま減税をするならば、景気刺激の効果があるし、構造改革にも沿っている。ところが、来年1月からの減税の財源として来年度中に歳出を削減し、同時に増税をやるというのである。これでは、橋本内閣の失政と同じ財政再建至上主義であり、政策不況の引き金となってしまう。

【貯蓄や投機よりも株式「投資」を優遇せよ】
 株価下落の根本的原因は、このような小泉内閣の景気認識の甘さと経済戦略の誤りにあるが、他にも市場の失望を誘う政策がある。
 政府・与党は、株価対策として銀行窓口における株式販売を言い出した。これは、現在の株式投資家の心理を全く理解していない事を、自ら告白するようなものだ。今株価が弱いのは、株式の購入が不便だからではない。株式購入の窓口をいくら増やしても、株価に好影響など出る筈がない。
 有効な株価対策は税制面にある。配当課税の35%を利子課税の20%と同じかそれ以下に引下げ、投資を貯蓄よりも優遇する姿勢を鮮明にする事がその一つである。
 同時に、株式「投機」ではなく、株式「投資」を優遇する姿勢を鮮明にする為、個人が5年ないし10年以上保有した株式を売却する時には、ドイツのように、株式譲渡益を非課税とすることである。
 もう一つ、来年1月に迫っている株式譲渡益の申告課税一本化の時期を景気回復が軌道に乗るまで繰り延べることである。今株価が弱い理由のかなりの部分は、長期間保有して含み益のある株式を個人が売り急いでいる事にある。

【頼みの綱の米国景気もあぶない】
 最後に、米国の目先の景気と経済の在り方に対する見直し感が広がることによって、今米国株が下落している事も、日本の株価の弱基調を増幅している。
 昨年の7〜9月期を底に米国景気は回復し始めたが、場合によってはV字型回復かも知れないという期待は完全に崩れた。設備投資は年末まで弱いうえ、頼みの綱の個人消費も不動産価格の頭打ちと共に負の資産効果で崩れるのではないかという不安が出ている。
 更にエンロン事件以降、米国企業の業績そのものに市場は疑問を持ち始めている。これらは日本の株価に対して、直接(米国株価下落との連動)、間接(日本の輸出の先行き不安)に悪影響を及ぼしている。

【本年秋以降の経済と政治に波乱の芽】
 先行性の強い株価が示唆するとおり、輸出主導の景気底入れの次が景気回復ではなく、景気沈滞である事がはっきりするのは、本年の秋から暮にかけてであろう。政治的には、10月の衆参両院の5選挙区で補欠選挙が行われ、与党と野党が統一候補で対決することになる。
 もし景気が再び沈滞し、与党が選挙に負けるようなことになると、小泉政権の命運が尽きるかもしれない。
 自民党、あるいは自公保の多数派は解散・総選挙で勝つ自信がないので、小泉政権の自壊を待っているフシがある。それ迄は、野党がいくら頑張っても倒閣という訳には行かない可能性が高い。
 そのとき小泉首相が「自爆解散」をしない限り、今年の秋から冬は政変となり、新しい自公保政権が続くのではないか。
 日本を建て直すための本当の決戦(総選挙)は、来年以降であろうか。それまでに日本経済の潜在的な力がますます失われ、国民の暮らしが圧迫されつづける事を阻止できないのは、何とも残念なことである。