会期延長に価しない政府提出「重要」4法案(2002.5.31)
−みんなピントが狂ってる −
【政府提出重要4法案のために会期延長】
通常国会の会期も残り20日を切ったところで、例年のように会期延長の話が政府・自民党から出てきた。理由は、政府が提出した重要4法案が会期内に成立する見込みが立たないからである。
鈴木宗男前議運委員長、加藤紘一元幹事長、井上裕前参議院議長など自民党リーダーのスキャンダルが次々と検察に暴かれ、また外務省や防衛庁の規律の乱れが表面化する中で、政府や自民党が身内の自民党議員をかばい、政府部内の乱れを隠そうとするために、かえって予算委員会、外務委員会、武力攻撃事態特別委員会などの審議が粉糾を続け、時間がかかってしまったのである。
国民の目には、国会が重要法案の審議を忘れてスキャンダルの追求をしているように映るかも知れない。しかし、これらは政官業癒着の利益誘導や自民党族議員と官僚の癒着といった日本の政治の病巣を示すものであり、この追求と改革なしには日本の立て直しは出来ないのである。いわば、焦眉の急である日本の構造改革のためであるから、国民にもご理解を頂きたいと思う。
【政府提出の重要4法案は本当は重要ではない】
その上、政府提出の重要4法案というのが眉つばものである。四つの法案は、日本にとって本当に必要な事のようでありながら、実はいずれもピントがづれている。この4法案を成立させることが、会期を延長しなければならない程重要だとは思えない。
その4法案とは、@武力攻撃事態法案、A個人情報保護法案B郵政関連法案C健康保険法改正案、の四つである。
伝えられるところによると、小泉総理の思い入れが深いB郵政関連法案(「郵政事業自由化の一里塚」小泉)とC健康保険法改正案(「三方一両損で患者負担3割へ引き上げ」小泉)の2法案を最優先して延長国会で成立させ、@とAは継続審議に持ち込んで秋の臨時国会で成立させる積もりだという。
【テロや大災害に対処できない武力攻撃事態法】
まず@武力攻撃事態法案は、このホームページの『雑誌掲載論文』欄“BANCO”の「何故いま武力攻撃事態法か」(H14.5.27)の中で詳しく論じたように、冷戦時代にソ連軍が北海道に上陸してくるような事態に対する対処法案なのである。
しかし、21世紀の今日、どこの国の軍隊が大挙して日本に敵前上陸してくるというのであろうか。今日の日本で考えられる有事は、そのような荒唐無稽な敵前上陸の話ではない。阪神大震災のような大災害、地下鉄サリン事件や9・11事件のような大規模テロや騒乱、不審船事件のような特殊工作部隊の上陸や破壊活動など、ミサイルの飛来といった今にも実際に起こりうる非常事態である。
このような非常事態に対処する法案こそが必要であるというのに、政府が出してきた武力攻撃事態法にはこれらのケースが含まれていないのだ。將にピントが外れているとしか言いようがない。
自由党はこのような非常事態に対処する為の「緊急事態対処法案」を今国会に提出したところである。
【行政の個人情報乱用と言論弾圧を防げない保護法案】
次にA個人情報保護法案は、先に「住民基本台帳法案」が成立した時に、そこに記載された個人情報を行政側が目的外に使用し、個人のプライバシーを侵害する事がないようにしようということで、自由党も個人情報保護法の必要性を主張してきた。
ところが、今度政府・自民党が国会に提出してきた個人情報保護法案は、自由党が主張していた行政側の個人情報乱用から個人のプライバシーを守る法案ではなく、民間側が個人情報を扱うことを規制する法律になっている。將にピントを合わせる場所が行政から民間にすり変わっているのである。
このため、今回の防衛庁事件のように、防衛庁に情報公開を請求した個人から必要以上の情報を取って、その個人情報をリストにして乱用しようとする行政側の行為に対して、この法案は罰則規定がない。ところが同じことを民間の企業や団体がやれば罰則の対象となる。
更に民間の中にマスコミも含まれており、マスコミを適用除外にするかどうかの権限は政府にあるとされているので、言論弾圧の危険性も高い。宗男事件のような自民党のスキャンダル追及の防波堤にも使える仕掛けになっているのである。
個人情報保護法案は、ピントを合わせる対象を行政から民間にすり変える事により、個人情報の保護に名を借りて民間の言論弾圧を可能にする悪法である。
【郵便への民間参入よりも貯金と簡保の民営化のほうが先だ】
小泉首相が熱を入れているB郵政関連法案は、郵便局が扱っている貯金、簡保、郵便の三つの事業のうち、郵便事業の一部に民間を参入させようとするものである。
ここでも、小泉首相のピント外れが見られる。
郵政三事業のうち貯金事業と簡易保険事業は、国家信用にバック・アップされて肥大化した官業であり、その官業の民業圧迫を解消する為には、この二つの事業を直ちに分割民営化すべきである。
これに対して郵便事業は、全国津々浦々、同一料金で郵便物を配達するための、いわばナショナル・ミニマムを保証する社会的インフラであり、国家独占事業である。
この独占事業に民間の参入を許すのはよいが、その結果郵便局の郵便事業にたとえ赤字が出ようと、全国一律同一料金という社会的インフラは、ナショナル・ミニマムとして維持すべきである。そのためには税金を投入してもよい。
このように、貯金と簡保の二事業と郵便事業とは性格が全く異なる。早急に民営化すべきは、前者の貯金と簡保である。ところが小泉首相は、ピントはずれな事に、郵便の民営化から手をつけようとしている。これでは反対が強まるのも当然である。
全国の郵便局のシステムは、全国一律同一料金の郵便物配達というナショナル・ミニマムを保障する社会的インフラとして維持するべきである。その上、住民票や印鑑証明などもとれる公共サービスのワンストップ・サービス・ステイションに育てたらよい。
【健康保険法改正は対症療法的で構造改革になっていない】
最後に、これも小泉首相が力を入れているC健康保険法改正案がある。小泉首相は、自民党厚生族の反対を押し切って、来年4月から患者の自己負担を現行の2割から3割に引上げることを含むこの法案を国会に提出した。国民の保険料引上げ、医者の診療報酬引下げと並んでこれで「三方一両損」になると大見得を切っている。
しかし、これも大変ピンとの外れた話である。少子高齢化が進むにつれて、現行の健康保険制度の下では高齢者を中心に診療給付を受ける人が増え、多額の保険料を払い込む働き盛りの人は減って行くので、収支は限りなく悪化していく。従って、保険制度を維持する限り、患者の自己負担増加、保険料引上げ、医者の診療報酬引下げ、の三つを限りなく行う以外に方法はない。つまり「三方一両損」以外に道はないのであって、これは小泉首相が手柄話にするような事柄ではない。
手柄話にするとすれば、カルテ・レセプト・受診票などを電子化して一つのカードに収め、それを国民一人一人が持つことによって重複診療・重複投薬を防ぎ、医療費総額を削減するような医療保障の仕組みの変更、つまり眞の構造改革を実現した時であろう。
あるいは高齢者は保険制度から切り離し、目的税化した消費税で賄うぐらいの改革をすべきであろう。
これらを実施しない健康保険法改正案などは、構造改革の名に価しない改正であり、改革を掲げる小泉首相にとってはピントの外れた話である。