自民党政権に眞の構造改革は出来ない (2002.3.26)
【諸悪の根源は政官業癒着の利権誘導型自民党政治】
田中眞紀子前外務大臣と鈴木宗男前自民党衆議院議院運営委員長の二人が、いわゆる「喧嘩両成敗」で更迭された直後の週末3日間(2月22日の金曜日から24日の日曜日)、私はビラとホームページ上で世論調査を行った。結果はファックス、メール、電話で回答を寄せてくださった65名中の64名までが、次の意見に「賛成」と答えた(詳しくはこのホームページの「最新のコメント」欄"政官業癒着の利益誘導政治が諸悪の根源"《緊急アンケート調査結果》参照)。
"族議員を中心とした政官業癒着の利益誘導型自民党政治こそ、日本を駄目にしている!(宗男氏だけではなく)青木氏の道路公団干渉、丹羽氏の医療改革抵抗、加藤氏の元事務所代表の入札干渉など、全てはその例だ!"
国民の皆さんが諸悪の根源だとよく分っているこの「政官業癒着の利益誘導型自民党政治」を壊すことこそ、私が主張している「眞の構造改革」の目的である。その理由を以下で敷衍してみよう。
【戦争遂行やキャッチ・アップに適した在来の日本型システム】
これまでの日本の仕組み=システムは、@官僚による民間の指導、A中央による地方の支配、B閉ざされた仲好しクラブ(例えば系列化、株式持合い、メイン・バンク制、終身雇用制など)を特色としている。
このシステムの原型は、太平洋戦争遂行のために作られたため、野口悠紀雄一橋大教授は、これを「1940年体制」と呼んだ。 またこのシステムは、日本経済が先進国の水準に追い付いた高度成長の過程でうまく機能したので、故村上泰亮東大教授によって「追い付き型システム」とも呼ばれた。
確かに、官主導、中央支配、閉じられたシステムは、政府が国全体を引張る戦争の遂行や、先進国の制度、技術などを官僚が学んで国内に導入するキャッチ・アップ(発展途上)の過程には適していた。
【官僚主導から民間自立へ、中央支配から地方分権へ】
しかし、このシステムは1970年代後半以降今日までの間に次第に機能不全に陥り、特に92年以降10年間の経済停滞の制度的原因となった。それは、この間に発生した国内の条件変化や国際的な新しいトレンドに、官主導、中央支配、閉じられたシステムがうまく適応出来なくなったためである。
国内の条件変化とは、先進国化と少子高齢化である。先進国への追い付きが終わり、同時に先進国に例をみないスピードで少子高齢化が進み始めると、官僚は先進国という手本を失い、民間を指導したり地方を支配したりする能力を失っていった。既に、先進国に追い付き、急速な少子高齢化が進む日本は、他国の真似をするのではなく、自立した創造力が問われることとなったからである。従って現実の日本経済を中央官僚よりも身近に知っている民間や地域社会の自立した創造力発揮の機会を増やす規制撤廃や地方分権によって、官僚主導から民間自立へ、中央支配から地方分権へ、システム転換が求められるようになった。この転換が決定的に遅れたことこそが、最近10年間の経済停滞の原因であり、この転換を実現する事こそが、今求められている構造改革の本質に他ならない。
【閉ざされた仲好しクラブから開かれたグローバルクラブへ】
海外に新しく現れたメガトレンドは、IT革命によって情報伝達コストが飛躍的に低下した事によって可能となった情報化、市場化、グローバル化である。これによって、「閉ざされた仲好しクラブ」内の情報伝達よりも、「開かれたグローバルな市場」経由の情報伝達のほうが、質的にも、コスト的にも勝れているようになった。
株式を持ち合う仲間同士の系列取引やメイン・バンク取引に頼り、終身雇用制を守ってきた日本の企業が、海外の企業に対し、経営面で劣後し、競争に敗れるようになったのは、このためである。
開かれた新しいビジネス・モデルへの転換の遅れが日本経済を停滞させた今ひとつの原因であり、その転換こそが構造改革の今ひとつの重要な内容に他ならない。
【政官業癒着の利益誘導は自民党の万年与党化で生まれた】
以上の二つの転換の遅れは、自民党の一党支配によるものである。何故なら、官僚主導や中央支配に、万年与党の自由党の族議員が癒着し、官僚規制と中央支配に守られた政官業癒着の利益誘導構造が生まれたからである。規制をテコとする官僚の民間指導や中央の地方支配には、自民党の族議員が常に介入して特定企業や業界、あるいは自分の選挙区への利益誘導を計った。官僚は族議員を頼って新しい規制法を成立させ、族議員は利益誘導対象の民間を頼って票と政治献金(時には闇の)を集め、民間は官僚の規制を頼って既得収益を守るという構造である。まさに相互依存の「鉄の三角形」である。
この政官業癒着の利益誘導型自民党政治は、自民党が万年与党で無ければ成立しない。二大政党の間で頻繁に政権交代が行われるならば、官僚が一つの政党の族議員を現職の大臣よりも恐れ、頼る「宗男事件」などは起こり得ないからである。
【自民党の一党支配が続く限り日本経済はよみがえらない】
逆に言うと、自民党の万年与党化によって政官業癒着の利益誘導が生まれた以上、それを打破する規制撤廃、地方分権、開かれたシステムへの移行などの構造改革は、自民党には出来ないということである。自民党総裁である小泉首相が構造改革を実行するというのは、自民党政治の基盤を崩す自己矛盾である。だからこそ、小泉改革は構造改革の本質に迫ることが出来ず、国債発行の抑制、不良債権処理、特殊法人改革など昔からある体制内(仕組みを変えない)「行財政改革」でお茶をにごそうとしている。
しかし、そうしてごまかしている間にも、日本経済は益々衰えていく。日本の就業人口の9割を抱える非輸出型の国内製造業とサービス業(食品加工、農業、流通、建設など)が、前述した政官業癒着の既得権益グループとして、日本経済の足を引張る低生産性部門にとどまったまま存続して行くからである。
結局、自民党の一党支配を打破しない限り、日本経済はよみがえる事がないであろう。