平成14年度予算案は羊頭狗肉のデフレ予算(2002.12.25)



【改革断行でも財政規律維持でもない単なるデフレ予算】
 12月24日に閣議決定された平成14年度の政府予算案は、「改革断行予算」「財政規律予算」等と自画自賛しているが、内容は「眞の構造改革」に踏み込んでいない従来型予算であり、30兆円の国債発行上限も事実上破られている。
 しかも景気との関係ではかなりデフレ的で、深刻な景気後退を阻止するどころか促進しかねない。
 まさに羊の頭を店頭に掲げて狗(犬)の肉を売る“羊頭狗肉”の類であり、目先の国民の暮らしを破壊するだけで、中長期的には何のメリットも残さない単なる「デフレ予算」である。

【硬直的なシェアに変化のない公共事業予算】
 “改革断行予算”であるならば、従来の仕組みを抜本的に変えて歳出構造や歳入構造を変える予算でなければならない。しかし平成14年度予算案は、従来の仕組みのままで少し手直しをしているだけであり、改革などではない。
 まず公共事業費を見ると、事業別のシェアはコンマ以下の変動しかなく、まったくと言って良い程動いていない。省庁の縦割りシェアは従来のままだからである。変わったのは一律に10%抑制し、省庁のシェアの内部で地方よりも都市に少しウェイトを移した程度である。
 構造改革断行の予算であるならば、省庁の長期計画に沿った地方プロジェクトに事業補助金をつける補助事業の制度そのものを廃止し、@事業補助金は地方自治体に一括交付して使途は自治体に任せる、A政府予算には中央省庁直轄の国家プロジェクトのみを計上する、ぐらいの改革があって然るべきである。
 このように公共事業の仕組みを変えることによってのみ、初めて政官業癒着の利益誘導政治の温床となってきた在来型予算を変えることが出来るのだ。

【社会保険の廃止と電子化によって医療費を圧縮せよ】
 医療制度についても、社会保険制度を前提とする仕組みはそのままで、ただ診療報酬引下げや高所得を持つ老人の自己負担上積みによって医療予算の伸びを抑えているだけだ。
 少子高齢化が進んでいく以上、社会保険を前提とする医療制度では受け入れが減り、給付が増えるのは当たり前である。その結果、社会保険制度という仕組みを変えない限り、保険料の引き上げか、自己負担の増加か、診療報酬の引き下げか、いずれかを行わないと、財政負担は際限なく増えつづけるに決まっている。平成14年度予算では、自己負担の増加と診療報酬の引下げの二つによって財政負担の増加を抑えただけである。
 改革と言うならば、社会保険制度の仕組みそのものを廃止し、@保険料ではなく消費税に財源を求め、またA電子カルテ、電子リセプト、電子受診票を一つの電子カードに収めて国民一人一人に持たせ、診療の重複を排し、情報伝達の効率化を計り、医療費全体を圧縮すべきである。
 このような国民医療制度の仕組みそのものを改める予算でなければ、改革断行予算などと呼ぶことは出来ない。

【問題先送り方の特殊法人予算の削減】
 特殊法人については、出資金の廃止などによって1.1兆円の歳出削減を行っているが、今後については独立行政法人への移行という看板の掛け変えと、2003年までに検討するという問題の先送りが行われている。これでは平成15年度以降の予算で特殊法人関係がどうなるのかまったく分からない。
 これは、特殊法人予算の1兆円削減という平成14年度予算の目玉を実現するために、そのシワを全部15年度以降の予算に寄せたもので、ここでも眞の改革は進んでいない。

【連結納税に附加税を課すに至っては改革逆行予算】
 税制改革に至っては、平成14年度予算で改革がまったく前進していないばかりか、改革に逆行する措置がとられた。
 それは、連結納税に対する附加税の新設である。連結納税を行う企業グループに法人税附加税が課せられることになったので、グループ内に赤字企業を含まない優良企業グループは、連結納税を行うと附加税分だけ損をする。逆にグループ内に赤字企業を含み、その赤字が附加税分より大きい企業グループだけが連結納税を行うと得をする。
 従って、この附加税導入は、黒字ばかりの優良な企業群がグループを形成して連結納税を行うことを阻止する効果を持つ。これでは企業の分割再編とグループ化によって経営を効率化し、黒字を増やそうという経営構造改革を阻止することになり、まさに改革逆行税制である。
 税収を確保したいという財務省の小役人的発想に引きずられ、附加税新設を決めた自公保連立政権は、経済構造改革の何たるかをまったく理解していないと言わざるを得ない。

【所得課税・法人課税の抜本改革と減税が必要】
 税制面で改革断行予算の名に価する措置をとるとすれば、中長期的な行政改革による財源捻出を前提に、民間市場経済活性化のための所得課税と法人課税の抜本的改革と減税を今実施することである。そのかけらも、この政府予算案には見当たらない。  所得課税については、各種の所得控除と税額控除を廃止して簡素で分かりやすい税制とし、納税者が源泉徴収や年末調整に依存せず、自分で申告納税が出来るようにし、納税者意識を高めることが肝要である。
 諸控除の廃止は、そのままでは課税最低限の引下げによる増税となってしまうので、二つの措置を講じる。@税率を大幅に引下げ、5%、15%、25%の3本建てに簡素化し、全体として減税を実現する。A低所得者層も社会への参加料として5%の所得課税を支払うことになるが、他方で育児手当、障害者手当てなどの手当てを納税のあるなしとは関係なく支給する事により、税額控除よりも有効に政策効果を挙げる。
 次に法人税については、重厚長大型の在来産業ばかりが得をする租税特別措置を整理する。
 これによって増税となるが、その増税効果を帳消しにし、差し引き減税となるように法人税の基本税率を引下げる。これによって租税特別措置の恩恵に浴せない新規発展産業の伸長を促す。

【国債発行30兆円の枠は既に破られている】
 最後に、この平成12年度予算案は、国債発行30兆円の上限を守り、財政節度を維持した予算だという話は、まったくのごまかしである。30兆円の上限は、13年度についても、今回の14年度についても、既に破られている。
 平成13年度の第1次補正予算では、財政法によって国債整理基金に繰り入れることが決まっている前年度剰余金の2分の1を、特例法によって繰り入れを中止とし、補正予算の財源に使ってしまった。この財政節度を無視したごまかしがなければ、この時点で13年度の国債発行は30兆円を1千2百億円ほど突破している。
 次にこれから提出される平成13年度の第2次補正予算では、政府保有のNTT株を2兆円以上売却して財源に充当し、国債は発行しないことにしている。しかし会計上は資産売却と債務増加は同じ事であり、ここでも財政節度を破るごまかしによって、30兆円の上限を守っている。
 最後に平成14年度予算案では、外為特別会計など特別会計の操作によって、いわゆる“隠れ借金”を少なくとも約1.7兆円は捻出している。ここでも財政節度を破るごまかしによって、国債発行30兆円の枠を形だけ維持しているに過ぎないのである。

【明年の展望を暗くする平成14年度予算案】
 以上のように、平成14年度予算案は改革を断行する予算でもないし、財政節度を守った予算でもない。
 しかし、@改革を断行しないことによって日本経済は中長期的な立直りの切っ掛けをつかめず、A財政規律をごまかすことによって将来に財政赤字の負担を先送りし、B一般歳出を13年当初予算比−2.3%、13年第2次補正後予算比−10.9%削減し、しかも歳出内容の効率化が進んでいないこと、C減税が行われていないこと、などによって目先のデフレ効果は強まる。
 従ってこの14年度当初予算は、現在の急激な景気後退を阻止できないどころか、14年度に向かって不況を一層深刻化する予算である。株価がまったく反応せず、ダラダラと弱含んでいるのもそのためだ。
 この予算案では、明年の日本経済と暮らしの見通しは暗い。