改革のビジョン無き証券税制改正法案(2001.11.2)

−証券税制改正関連法案に対する代表質問 −

 私は11月2日(金)の衆議院本会議において政府提出の証券税制改正法案に対し、自由党を代表して質問を行った。以下はその代表質問の原稿である。

【構造改革に占める位置不明の税制改正】

 私は自由党を代表して、証券税制の改正に関する租税特別措置法改正案、地方税法改正案につきまして、質問いたします。

 小泉内閣が示した「改革工程表」を見ますと、証券市場の構造改革という項目はありますが、そこには今臨時国会での措置として、ただ一言「証券税制について早急に対応する」としか記されておりませんでした。また、同じ「改革工程表」の税制改革の項目には、今臨時国会での措置は特に書かれておらず、「今後の経済社会の構造変化等に対応した望ましい税制構築へ向けて、政府税調で今後とも引き続き幅広い視点から検討を行う」と、これもまた政府税調任せで抽象的なことしか書いてありません。結局、「小泉改革」は税制について、何をどうしたいのか、はっきりとせず、今後一体どうなることかと心配してみておりました。
 果たせるかな、ここに提出された証券税制改正法案は、構造改革を実現する上で、どのような効果を発揮するものなのか、将来の経済・社会の中でどのような位置付けになるものなのか、全く理念も哲学も感じられないものであります。

【証券税制改革が必要な理由】

 今、何故証券税制の改革が必要なのか。それは、IT革命の進展につれて、金融の情報が瞬時に世界を駆け回るようになり、金融のグローバル化、市場化、証券化が国際的な潮流となったことに対応するためであります。
 従来であれば、日本の貯蓄は、当然、日本の投資に向かい、高貯蓄率は高投資率、ひいては高成長を支える基本的要因でありました。しかし、今日の金融グローバル化の下では、日本の貯蓄は国際的に投資機会を選択しますので、国内の投資が優遇されていなければ、海外に流出し、経常収支の大幅黒字と投資不足の低成長という今日の姿を招きます。
 証券税制は、これまでのように貯蓄を優遇すれば、経済発展に寄与する訳ではありません。投資を優遇しなければ、経済は発展しないのであります。
 したがって、証券税制改革の第一の狙いは、預金や貯金の保有という「貯蓄」よりも、株式保有のような「投資」を有利にするものでなければなりません。
 第二に、このことは、預金や貯金で集めた資金を貸し出しにまわす「間接金融」よりも、金融市場で証券に投資する「直接金融」を優遇する税制に変えなければならないということであります。

【株式の長期保有促進が目的の筈】

 貯蓄よりも投資、間接金融よりも直接金融という税制改革は、金融の市場化、証券化という国際的なトレンドに日本の税制を適応させることであり、グローバルな金融の競争に日本が勝ち抜くための構造改革に他ならないのであります。これこそが、今日の証券税制改革の理念であり、哲学でなければなりません。
 塩川財務大臣は、今回の証券税制改革にあたって、少しはこの事についてお考えになったのでありましょうか。お伺いいたします。

 さて、一四〇〇兆円にも達する個人の金融資産を、もっと投資に回そう、もっと直接金融の場に引き出そうという構造改革の理念からすれば、ここに提出された税制改革法案の狙いは、一四〇〇兆円の個人金融資産に占める株式保有のシェアを引き上げることでなければなりません。そのためには、配当課税を利子課税よりも優遇し、また、株式を長期間保有した場合の譲渡益課税を、短期保有と比較して優遇しなければなりません。

【配当課税の改正がまったく含まれていない改正案】

 しかしながら驚いたことには、この法案の中には、配当課税の改正は全く入っていないのであります。相変わらず、株式は譲渡益狙いの短期回転売買の対象だという従来の考え方に立ち、譲渡益課税だけ考えればよいという発想なのでしょうか。
 現在の配当に対する課税は、一銘柄あたりの配当額が十万円未満の場合に限り、申告義務免除で源泉徴収率は二十%と、利子課税と同じ扱いでありますが、これが十万円を超え五十万円未満になると、源泉分離課税を選択した場合でも三十五%、総合課税ではもっと高率になるケースがあります。その上、五十万円以上は全て総合課税となります。現状では、配当額が十万円未満で二十%の税率が適用されるケースが約九割に達していますが、それは十万円以上、あるいは、五十万円以上の配当が税制上不利な扱いとなっているため、多額の株式を保有しないからであって、九割が二十%だからよいという話にはなりません。これでは、長期で多額の金融資産は、株よりも預貯金で持っていたほうが有利な状態がいつまでも続き、構造改革の理念に全く反しています。配当二重課税の問題を考えると、厳密なインピュテーションはしないまでも、配当税率は利子税率の二十%より低くても良いのではないかと考えますが、塩川財務大臣は、どのようにお考えでしょうか。

【理念無き譲渡益課税の暫定優遇措置のみ】

 また、塩川財務大臣は、「ボーナスが支給されるまでに改正法の施行を間に合わせてもらいたい」と言って、一年以上保有した上場株式の譲渡所得に対する暫定税率の特例の創設や、一年以上保有した上場株式の一〇〇万円特別控除の延長など、暫定措置・特例措置を、この法案の中で講じておられます。これは株式を一年以上持てばお得という税制を、株価対策として暫定的に導入しようとするものではありませんか。
 そこには、今後、永続的に株式を長期保有すれば、金融資産の運用上、有利になるの  だという構造改革の理念は全く見ることができず、その場しのぎの三年間の暫定措置にすぎません。暫定措置は、公平性の観点からも疑問が残ります。唯一の恒久的措置として、譲渡益課税を二十六%から二十%に引き下げ、三年間の損失繰越しを認めていますが、これも不十分です。リスクの高い株式保有の譲渡益課税と確定金利の課税との間の公平性と中立性を維持するためには、株式譲渡益課税の税率のほうが低くて然るべきです。また損失の繰り越しは、三年間に限定する理由はないと思います。塩川財務大臣のご見解をお伺いいたします。

【ドイツの証券税制改革に学べ】

 日本と同様、企業の資金調達が銀行からの借入れ中心であったドイツでは、株式の流通、売却、配当等における税負担を軽減するなど、早い時期から証券税制見直しを中心に中長期的な視野からの積極的な対策を打ち出してきました。その努力が、公社民営化に伴う大量の株式売り出しと相まって実を結び、個人の金融資産に占める株式の比率が、この十年間に、六%前後から十三%前後に上昇したことは、よく知られるところであります。
 税制改正のポイントは、配当二重課税を考慮したインピュテーション方式により、配当課税を総合課税となる利子課税よりも有利にしていることや、一年以上保有した株式の譲渡益課税は原則として非課税とすること等によって、個人が株式を長期間大量に保有する動機を強めていることであります。
 このようなドイツの証券税制改正と、その成果について、塩川財務大臣はどのように認識しておられるのでしょうか。また、日ごろ株式の長期保有を促進したいと言っておられる柳沢金融担当大臣は、うらやましいとは、お思いになりませんか。両大臣のご見解を求めます。

【構造改革との関連を筋道立てて考えよ】

 小泉内閣発足から半年が経過いたしました。「聖域なき構造改革」を絶叫されてきた小泉総理ですが、今や、それを実行に移すべき時であります。
 その際、重要なことは、構造改革の必要性の背景にあるものを的確に捉え、問題点を解消し、伸ばすべきものは伸ばしていくために、どのような仕組みに改めれば良いのか、また、それが将来の新しい経済社会を構築していく上で、どのような位置付けになるのかということを、筋道を立てて考え、きちんと説明していくことにあります。
 今回の税制改正も、構造改革の有機的な一環として、全体の改革との関連が少しでも垣間見えればいいのですが、残念ながら、行き当たりばったりの、暫定措置にすぎません。この法案が、小泉内閣の構造改革の先にある将来の経済・社会の姿をどのように説明してくれるのか、それとも財務大臣の言うように、株式に対する当面の駆け込み需要を期待するだけの、株価維持のための暫定的施策に過ぎないのか、塩川財務大臣に改めてお聞きし、私の質問を終わります。