米国の景気回復は来年になる(2001.9.12)

−北米出張報告 −

【米国とカナダの財務金融関係の政府高官などと意見を交換】
 9月3日(月)から9日(日)まで、衆議院北米財務金融事情調査団の一員として米国とカナダを訪問した。これは衆議院財務金融委員会の委員長(自民)と理事6名(自民3、民主2、自由1)の海外出張で、私は自由党を代表する理事として参加した。調査の主な目的は米国景気の展望と米国とカナダの財政再建を調査する事にあった。
 主な訪問先は米国では上院予算委員会(ホーグランド事務局長)、財務省(ダム財務副長官)、ニューヨーク連銀(マクドノー総裁)、NY証券取引所(モバン理事)、ナスダックなどであり、カナダでは財務省(ピーターソン大臣)、造幣局などである。意見交換の中で誰がどのような見解を述べたかは部外秘であるが「米国景気の展望」と「財政再建」について、私が調査したポイントを取りまとめれば以下のとおりである。

【成長減速の主因はIT関連設備と在庫一般のストック調整】
 米国の成長減速=景気後退(グロース・リセッション)の原因は、昨年第3四半期から始まった設備と在庫の調整である。1999年〜2000年、IT分野の設備投資の行き過ぎによる供給過剰が急激に表面化し、設備ストックの調整の局面に入った。これに伴なう設備投資の減少は総需要全体を減速させ、過剰在庫が積みあがったため、在庫調整も進んでいる。
 このような設備投資と在庫投資の減少のうち、在庫投資の方は過剰在庫の調整がかなり進んでいるので、年内に底を打つかも知れない。しかし設備ストックの過剰はかなり深刻であり、調整完了は来年(2002年)になるというのが一致した意見であった。IT関係の技術進歩は早いので、設備が技術的に陳腐化すれば調整完了は早まる可能性もあるが、光ファイバーケーブルのように耐用年数の長い設備もあるので、一般に調整完了が早いとはいえない。

【不動産価格の堅調と金利低下が消費を支えている】
 このような設備投資と在庫投資の落ち込みにも拘らず、マイナス成長になるような急激な景気後退が起こっていない理由は二つある。
 第一は、連銀の利下げが本年1月から弾力的に実施され、公定歩合は6%から3%まで下がってきたので、金利感応度の高い住宅投資と自動車などの耐久財消費が堅調に推移し、景気を支えている。特に住宅投資は、昨年3四半期連続で減少した後、本年に入って増加に転じ、回復している。
 第二の理由は、住宅投資の堅調に伴ない不動産価格も上昇しているので、その資産効果が消費を支えていることだ。株価の下落に伴なう負の資産効果を不動産価格の上昇に伴なう正の資産効果が相殺しているため、消費者のコンフィデンスが崩れず、消費の伸びが期待されていると言える。

【失業率の上昇が消費コンフィデンスを崩すとマイナス成長も】
 しかし問題は、消費コンフィデンスが維持されている間に設備ストック調整が完了し、浅い景気後退のまま設備投資の回復で景気が立直るか、それとも現在の景気減速に伴なう失業率の上昇がやがて消費コンフィデンスを崩し、消費の減少で景気後退が一段と深まってマイナス成長に陥るか、どちらのシナリオになるかである。
 米国経済がどちらのシナリオに向かうかは、秋から冬にかけての失業率の動向に懸っている。その意味で、8月の失業率が前月の4.5%から4.9%に急上昇したことは、よいニュースとは言えない。景気の先行きには、やや心配な要素が増えている。
 このことは日本にとっても悪材料である。現在の日本の景気後退が米国向け輸出の回復や米国に牽引された世界経済の立直りによって底を打つ可能性は、本年中にはあり得ない。来年のいつ頃になるかは、上記の二つのシナリオのどちらになるかによって、大きく違ってくるだろう。米国がマイナス成長に陥れば、日本