小泉さんの「骨太方針」で本当に改革が出来るのか (2001.7.9)

−私ならこうする−

【小泉フィーバーはこれまでの閉塞感の反動】
 熱狂的な小泉フィーバーの中で、第151通常国会が終った。フィナーレは、東京都議選における自由民主党の復活であった。7月29日投票の参議院選挙でも、この勢いが続くのであろうか。
 小泉首相の初外遊を迎えた欧米の新聞論調の中には80%を越える支持率を賞賛するのではなく、異常な集団的熱狂に日本の民主主義の未熟さを嗅ぎ取り、冷ややかなコメントをする向きも少なくなかった。
 しかし、日本人のこの熱狂は、日本人の「改革」に対する期待が、如何に強いかを示している。経済の長期停滞、社会の荒廃、教育の乱れなどで出口のない閉塞感に苛まれていた日本人のこの思いを、外国人は理解することが出来ないのかもしれない。

【改革の期待に二つの矛盾する要素】
 しかしこの「改革」に対する期待には、二つの矛盾する要素が入っていることを見逃してはならないと思う。
 一つは、純粋に日本の経済・社会の在り方を根本から変えて欲しいという期待である。自由党や民主党を支持していた無党派層が、選挙で自民党支持に流れているのがその現われだ。
 もう一つは、これで自民党が立直り、自分たちの天下が続くという既得権益派の期待である。分解しかかっていた昔からの自民党支持層が、再び結束を強めているのがその現われだ。
 この二つの期待が小泉首相の高支持率と、選挙における自民党の復活を支えている。

【日本再生の改革か、利権構造温存の改善か】
 しかし、この二つの期待は本来矛盾するものである。前者はシステムの根本的転換を期待し、後者は従来の利権構造を維持したままシステムを改善することを期待しているからだ。
 具体的に例を挙げれば、前者は道路特定財源の制度を廃止して一般財源化し、地方自治体に一括交付することを期待し、後者は道路特定財源の制度を維持したまま使途を拡大すれば良いと考えている。これは自民党の道路族とゼネコンと旧建設官僚の利権構造を壊すか、温存するかの違いだ。
 もう一つ例を挙げれば、前者は特殊法人や公益法人を民間に売却して廃止すべきだと考えており、後者は特殊法人や公益法人を改善すれば良いと考えている。これは特殊法人や公益法人に巣喰う政官業の利権構造を壊すか、温存するかの違いだ。
 このような二つの矛盾する期待、ある意味では正反対の方向をむいた期待が同居しているのが、小泉フィーバーの特徴である。政治的に言えば、改革派と守旧派の同床異夢である。ある社会学者によれば、ドイツにヒットラーが出てきたときの社会的フィーバーに似ているという。

【経済・社会の将来ビジョンを欠く「骨太方針」】
 このような事が可能になる理由は二つある。一つは、自民党内の守旧派が参院選が終るまでは「寝たふり」を決め込み、明確に意見を言わないからだ。
 もう一つは、「経済財政運営・構造改革の基本方針」、いわゆる「骨太方針」に典型的に見られるように、日本をどのような経済・社会の姿に向けて改革していくのかという将来ビジョンを明確に示していないからだ。もしビジョンを示せば、根本的な変革か、利権構造を維持したままの改善かの区別がつく。またそこに行き着く過程で、どのような既得権益が崩壊するのか、あるいは維持されるのかの区別もつく。
 しかし「骨太方針」を読む限りでは、将来ビジョンがないのでその区別がつかない。

【改革推進の戦略的ポイントを欠く総花的プログラム】
 「骨太方針」は「七つの改革プログラム」を掲げているが、それらは総花的で相互の関連が薄く、全体として改革を推進するための戦略的ポイントがどこなのかが浮かび上がってこない。
 重点分野も、環境問題、少子高齢化対応、地方の活性化、都市の再生、科学技術の振興、人材育成、IT国家という調子で、従来から言われてきたことをバラバラに並べているだけだ。

【歴史に学ばぬ者は歴史を繰り返す】
 “2002年度予算における国債発行30兆円以下という目標に至っては、改革の「目標」と改革の「結果」を取り違えている。”国債発行額や財政赤字は、構造改革による歳出削減や民間経済活性化=税収増加の「結果」であって、短期の「目標」ではない。それを来年度の「目標」とすることによって、短期的な政策の手足を縛っているので、年初から始っている景気後退に対する対応が不可能となり、本年度下期から来年度に向って大不況に陥り、改革そのものが挫折しかねない。
 「骨太方針」は、改革プログラムが総花的という点でも、短期的な国債発行削減を目標にしているという点でも、4年前の「橋本改革」にそっくりである。「歴史に学ばぬ者は歴史を繰り返す」のたとえ通り、小泉内閣は橋本内閣と同じマイナス成長に直面し、改革を断念せざるを得なくなる懸念がある。

【私の将来ビジョンと改革の戦略的ポイント】
 今からでも遅くはない。目指す経済・社会のビジョンを明確にし、改革推進の戦略的ポイントを絞ることが大切である。
 日本が目指すべき構造改革とは、官僚が民間を指導し、中央が地方を支配する現在のシステムを規制撤廃や地方分権などによって根本的に改め、自主的に創造力を発揮できる活力ある民間経済や地域社会と、小さな効率的な政府に改める事である。それによって政官業癒着の利益誘導政治が終焉する。また、それによる政府の歳出削減と民間からの税収増加によって、財政赤字は自ずと縮小していく。
 この改革を実現する“戦略的ポイントは、総花的な七つの改革プログラムのうちの@民営化・規制改革プログラムとAチャレンジャー支援プログラムである。”この二つを最優先課題として改革を進めれば、「元気な民間、小さな政府」という将来ビジョンへの道が明確になる。不良債権の早期処理、財政赤字の削減などその他の課題は、その結果として解決が容易になる。

【景気対策と両立する構造改革を優先せよ】
 改革の過程において、マイナス成長や不況に陥らない配慮も大切である。マイナス成長や不況になると、税収減で財政赤字は拡大し、経営悪化で不良債権は増加し、失業増加で改革の痛みに国民が耐えられなくなるからだ。2〜3年で不良債権を処理するという「骨太方針」は画餅に帰する。
 小泉首相、塩川財務省、竹中経済財政相などの話を聞いていると、構造改革と景気対策はもともと相容れない政策のように聞こえる。「構造改革の為には痛み(不況)に耐えろ」と繰り返して言っているからだ。
 しかし、この認識は根本的に間違っている。“構造改革の中には、景気を刺激する対策もある。今のような景気後退局面では、そのような景気刺激型の構造改革を優先すべきである。”
 例えば、民業を圧迫している官業(特殊法人・公益法人など)を株式会社化し、その株式を民間に売却する。また公的部門が保有している土地、建物などの不要資産をどんどん民間に売却する。これらを購入した民間が、それを新しいビジネス・チャンスとして活かせるよう、必要な規制撤廃を急ぐ。これが大きな景気対策となる。
 公的資産の売却によって得た資金は、所得減税、都市再開発投資などの財源に使い、この面からも景気刺激を実施する。これは、財政赤字や国債発行を増やさない財政的な景気刺激策である。

【秋以降の政界再編を推進しよう】
 “私なら以上のようにして、構造改革と景気対策を両立させる政策をまず進める。”
 参院選挙が終ると、来年度予算編成が始る。不況も一段と深刻になり、倒産や失業も増えてくるであろう。
 そうなると、在来システムを維持したまま種々の改善策でお茶を濁そうとする自民党の守旧派が台頭して来るであろう。竹中大臣がその矢面に立たされることになるのではないか。
 その時、小泉首相が竹中大臣を守り、二人揃って守旧派に妥協しなければ、自由党を始めとする野党の一部議員が小泉内閣を支持し、政界再編の芽が出てくるのではないか。
 世論調査を見ても、多数の国民は参院選後の政界再編を期待して小泉総理を支持しているのであり、自公保連立政権の持続を支持する国民は少数である。
 政界再編が動き出せば、ここで述べた私の政策を強く主張し、改革派の中心政策にしたいと思っている。