衆議院本会議の小泉総理に対する代表質問 (2001.6.15)

−今回の銀行法改正に関連して −

 私は6月15日(金)の衆議院本会議において、自由党を代表して、小泉総理と柳沢金融担当大臣に対して質問した。以下はその原稿である。

【景気後退で改革が挫折しないか】
 私は自由党を代表して、ただいま議題となりました銀行法の一部を改正する法律案について質問いたします。
 まず、この法案審議の前提として、総理の構造改革と不良債権処理の考え方についてお尋ねいたします。
 小泉総理は、「構造改革、不良債権処理なくして景気回復なし」という側面を常に強調しており、その事は正しいし、自由党もかねてから主張している事であります。
 しかし、同時に自由党は「景気を維持しなければ構造改革や不良債権処理は挫折する」とも言っております。景気後退が続けば、不良債権を処理する端から新たな不良債権が次々と発生して、不良債権の処理は終わることはないからであります。構造改革や不良債権処理は痛みを伴いますが、更に景気後退で一層の痛みが加わるならば、倒産の多発や失業の増大などで、国民の暮らしは破壊され、「必要悪」以上の大きな痛みに国民は耐えられなくなります。
 結局、構造改革、不良債権処理、景気維持の三つは、相互に影響を与え合う関係にあるのであって、小泉総理が強調するように「構造改革、不良債権処理なくして景気回復なし」という一方方向の因果関係だけではないのであります。それを一方方向と誤認して、構造改革と不良債権処理だけを行っていれば、自然と景気が回復してくるのだと思い込んでいては、今始まった不況はますます深刻になり、景気の面から構造改革と不良債権処理が挫折してしまうことは、間違いないでしょう。

【景気後退の深刻さが分かっているのか】
 景気は、今年に入ってはっきりと後退局面に入っています。鉱工業生産は本年一〜三月期に前期比マイナス3.7%と大幅に下落し、前年水準を下回りました。さきに発表された一〜三月期の国内総生産も実質で年率0.8%のマイナス成長となりました。四月の実績と五月・六月の予測によれば、鉱工業生産と出荷は今後も下落を続け、過剰在庫は急増していくので、今後は在庫調整の圧力も加わって、当分の間、生産減退は続きます。そうなれば、雇用と賃金の悪化から、個人所得と消費は減少し、企業収益の悪化と先行き見通し難で、設備投資も勢いを失います。現に完全失業率は三月・四月とジリジリ上昇し、時間外勤務は前年比マイナスとなりました。設備投資の先行指標である機械受注は、一〜三月期に7四半期ぶりにマイナスに転じたではありませんか。
 このような動向から判断すると、今始まった景気後退は本年の秋から暮れにはきわめて深刻な状態となり、小泉総理の構造改革や不良債権処理が困難に直面する危険性が極めて高いと思います。
 小泉人気で、一時は1万4千円台に達した日経平均株価が、再び1万2千円台に落ち込んでいるのも、このような先行きを案じての事だと思います。この株価下落もまた、銀行の含み損を膨らまして不良債権処理を遅らせ、逆資産効果を通じて消費回復に悪影響を及ぼします。総理、いったいどうするおつもりなのか。「改革の痛みに耐えろ」と言い続けるのは、「欲しがりません勝つまでは」と言い続けて、国民の中にユーフォーリアを煽った戦時中を彷彿とさせます。ご見解をお伺いいたします。
 また小泉総理は、大手銀行と断らずに、あたかも不良債権全体を、公的資金を使わずに二〜三年で処理できるかの如く言い続け、外国の投資家はそれを信じて日本の株式市場に投資しています。しかし、柳沢大臣が財務金融委員会で注意深く断っているように、これは大手銀行のみの不良債権処理の話であり、その他の金融機関を含む全体としては、とても二〜三年で処理しきれません。ましてや、株価低迷で含み損が出ている現状では尚更です。それが分かった時、海外の信頼がどうなるか、外国の投資家の動きで株価がどうなるのか、総理は考えたことがあるのでしょうか。ご見解を伺います。

【新しい垣根規制の緩和が必要な理由】
 次に金融改革の問題に移ります。
 長短分離、銀証分離、信託分離という垣根規制のために、日本の金融機関は、普通銀行・長期信用銀行・信託銀行・証券会社に分かれ、垣根によって各業態の安泰を保障され、お互いに別々の金融業務を営んでいました。しかし、その垣根を取り払う規制緩和のきっかけは、昭和五十六年の銀行法の全面改正でありました。このときに、銀行の国債ディーリングが始まり、銀証間の垣根は始めて低くなりました。そして平成四年、金融改革法によって、業態別子会社方式による各業態の相互乗り入れが開始され、さらに平成十年には、金融改革法・銀行法の全面改正により、金融持株会社方式で各業態を同時に営む道が開け、金融業内部の垣根規制は大きく緩和されました。
 しかし、現在の銀行や金融取引を取り巻く状況は、様々なビジネスモデルの開発や情報化・グローバル化の中で、今までの伝統的な銀行概念にとらわれない新たな銀行形態が生まれつつあります。
 一昨年末、流通業を営む事業会社が銀行業への参入を表明して以降、金融業とは異なる業種による銀行業への参入の流れが始まっていることや、店舗を持たず、主にコンビニエンスストアーに設置されるATMを中心に金融サービスを展開していく事業、さらに、インターネットを利用した金融サービスの提供など、金融業のあり方も様々なものになりつつあります。
 今回の銀行法改正は、これまでのような金融業内部の垣根規制の緩和だけではなく、金融業への、外からの参入についての規制緩和とルールづくりを行うものであり、金融の自由化を今一歩進めるための工夫であります。この観点から、いくつか、質問をいたします。

【自由化のためのルールであり、規制強化が目的ではない】
 まず、銀行の大株主に対して新たに導入される届出制、あるいは認可制の政策的意義についてであります。
 昭和の始めの金融恐慌では、大株主が銀行子会社を財布代わり使う「機関銀行化」が問題となりました。また、最近においては、平成六年、経営者によるファミリー企業への甘い融資によって、東京の二つの信用組合が破綻に追い込まれたという事例もありました。公共性の高い決済業務を担う銀行が、他の業態に属する会社によって悪用されることのないようなルールを作ることは、他業態からの参入を許す以上、欠くことができません。
 本法案では、銀行又は銀行持株会社の発行済株式の五%を超える株主は届出制、また、原則二十%を超える株式は「主要株主」と位置付けて、認可制をとることとしております。
 バーゼル銀行監督委員会のコア・プリンシプルを引用するまでもなく、大株主に対する監督は必要でありますが、それはあくまで他業態からの銀行業への参入自由化を実現するためのルールであり、規制強化が目的ではありません。監督規制が強くなりすぎて、参入自由化そのものを阻害しては意味がないのであります。この点に関する柳沢金融担当大臣の姿勢を確認させていただきます。
 次に、二十%を超える「主要株主」の認可についてお聞きいたします。
 法案では、主要株主は認可を予め受けなければならないことや、必要がある場合は、主要株主に対して報告徴求や検査の実施を行うことができ、不適格と認定されれば認可の取り消し等の処分が行われることとしております。
 しかし、主要株主の適格性の判断基準や審査ルールについて事前に明確にしなければ、当局のケース・バイ・ケースの恣意的な判断部分が多くなり、事後的な裁量型行政に逆戻りしかねません。極力、ルールと手続の透明化に努め、判断・決定についての説明責任を明確にしていただきたいと思います。政省令にまかされるこれらの点につきまして、どのようにされるおつもりか、金融担当大臣の御所見をお伺いいたします。

【異業種からの参入を阻止しては意味がない】
 銀行経営悪化時の対応についてお聞きします。
 法案では、銀行経営が悪化した場合、五十%を超える株主については、当局が銀行経営改善の健全性を確保するための措置を求めることができるという、いわゆる「ソース・オブ・ストレングス」ドクトリンが適用されることとなっております。
 しかし、これが行き過ぎて、経営悪化について、大株主が早い段階で、全ての改善責任を負わされるとなれば、異業種からの参入に対する大きな障壁になる恐れがあります。この点、金融担当大臣は、どのような運用の基準をお持ちなのか、ご見解をお伺いいたします。
 最後に今後の銀行業などの規制緩和についてお聞きいたします。
 今回の法案では、銀行などの支店の設置について、認可制から届出制に改めることや、銀行の子会社の従属業務と金融関連業務を併せて営むことを認めるなど、銀行の新たな事業展開に即した規制緩和を進めることしております。遅きに失したとはいえ、適切な措置であります。今後、利用者利便の向上、銀行経営の効率化、積極的な事業展開の観点で、更にどのような規制の撤廃を進めるか、具体的な方向性について、柳沢大臣の見解をお伺いいたします。
 また、金融業務の垣根規制の緩和や、金融決済手段の多様化の中で、個人情報・顧客情報の漏洩の防止という点にも配慮していかなければならないと考えますが、柳沢大臣に顧客情報の保護のあり方について、併せてお聞きいたします。

【むすび】
 金融取引や資本取引が瞬時に国境を飛び越えるような情報化・グローバル化の時代において、金融業務の効率化と金融システムの安全性の双方を維持しながら進める金融構造改革は、決して容易なものではありませんが、あくまでも基本は自由化であり、自由競争が生み出す「市場の失敗」に対してのみ、事前の透明なルールで規制を設けるのが、正しい政策態度であると考えます。最後にこの点に関する総理の御所見を確認して、私の質問を終わります。