株式譲渡益100万円の非課税は不公平(2001.6.6)

−緊急経済対策は構造改革とは無縁 −

【 自由党を始め全野党が反対した証券税制の改悪案 】
  小泉内閣は、森前内閣が作った緊急経済対策の一部を実施するため、関連法案を国会に提出した。その目玉は証券税制を時限的に変更する「租税特別措置法の一部改正法案」である。
  内容は、1年以上保有した株式を売却した際の譲渡益について、100万円を限度に課税所得から控除する(税金をかけない)案である。私は6月5日(火)の衆議院財務金融委員会において、自由党を代表して質疑に立ち、塩川財務大臣と柳沢金融担当大臣を相手に1時間にわたって討議し、この案を実施すべきではないと説いた。
  民主・共産・社民など他の野党も自由党に同調して反対した。しかし、自公保3与党は賛成し、この邪道ともいうべき政策を実施する法案は6月7日(木)の衆議院本会議を通過する予定である。

【 100万円の非課税は他の非課税措置に比して大きすぎて不公平 】
  小泉内閣は、将来の証券税制についてのビジョンをまったく示さないまま、株式譲渡益を100万円まで非課税にするという租税特別措置を時限的に組込んだことにより、税制全体に極めて不公平を歪みを生み出した。
  課税所得からの控除(非課税)は、基礎控除にしても、扶養控除にしても、38万円である。それにも拘らず、何故株式売却益(一種の不労所得)についてのみ、何故100万円という多額の控除(非課税)を認めるのか。
  また、パートタイマーの非課税所得の限度額は103万円であるが、主婦や高齢者がパートタイムの労働で得る勤労所得と、所得水準や資産水準が比較的高い人が「濡れ手で粟」で得る株式譲渡所得について、ほぼ同額の100万円の非課税限度を設けるというのは、誰が考えても不公平な話ではないか。

【 この程度の減税措置ではマクロ的な経済効果はない 】
  そのうえ、このような非課税措置を講じても、経済活性化のマクロ的な効果は何も発生しないであろう。この減税額は13年度で400億円、14年度で900億円である。株式保有者にこの程度の減税を実施したからといって、消費が上向く筈がない。そもそも13年度の国民負担額は、社会保険料(介護保険料、雇用保険料など)の引上げで3兆円近い増加となる。このデフレ効果に比べれば、400〜900億円の減税の効果はネグリジブルであろう。

【 この措置では株価は逆に下落する可能性 】
  また、この減税措置によって、個人投資家が株式市場に誘い込まれ、株価が上昇するという政府・与党の考え方も極めて疑わしい。この措置は1年以上保有した株式を対象とし、15年3月までの時限である。従って、今株式を買ったとしても、この減税措置の恩恵にあずかれるのは14年7月から15年3月までの9ヶ月間である。しかも、その時までの1年間に買った株が値上がりし、100万円儲かっていなければならないのだ。こんな小さなチャンスを狙って、株式市場に誘い込まれてくる個人投資家が大勢居るとは、とても考えられない。
  それよりも、既に1年以上株式を保有して含み益を持っている個人投資家が、その含み益を非課税で実現するため、13年中と14年中に売ってくるのではないかと思う。その結果、株価には下落圧力がかかるのではないか。
  現に、小泉内閣の発足で14千円台まで上がった日経平均株価は、その後ジリジリと低下し、6月5日(火)には一時12千円台に入った。

【 構造改革とは無縁の安易なその場しのぎだ 】
  結局のところ、小泉政権と自民党を始めとする与党3党は、将来の株式譲渡益課税と配当課税について、@源泉課税とするのか申告課税とするのか、またA総合課税とするのか分離課税とするのか、更にB税率は利子課税に比べて高くするのか、等しくするのか、低くするのか、確りと検討することもせず、非課税枠でも作れば株価が上がるのではないかという安易な思い付きでこの措置を打ち出したのではないか。この減税枠を時限措置としていること事態、その場しのぎ、場当たり、先送り的な手法である。
  これは、経済の構造改革とは無縁であり、税制に歪みを生み出す改悪措置である。私は質疑が終了し、採決をする直前に、自由・民主・社民の3野党を代表する討論に立ち、この事を強調した。

【 私の描く将来の証券税制のビジョン 】
  将来の株式譲渡益課税と配当課税については、最適課税理論に基づいて分離課税と し、その税率はリスクの存在、配当二重課税などを配慮して、利子課税の20%よりも低く すべきであろうと私は主張している。
  その上で、現在のみなし利益に基づく源泉分離課税を廃止し、公平な申告分離課税に すべきであるというビジョンを、委員会の質疑を通して展開した。
  柳沢大臣は、私の考えに全面的に賛成した。塩川大臣は税率(現在26%)を利子課税 並みの20%に引き下げる事には賛成したが、申告分離課税に一本化することについては、 意見を留保した。
  私は、守旧派勢力の強い自民党税制調査会では、私の改革案は通らないであろうと思 う。しかし、塩川、柳沢両大臣が私の主張に理解を示したことには興味を持っている。証 券税制についても、小泉内閣と自民党守旧派の戦いが始るかもしれない。