小泉総理の改革戦略に潜む三つの問題点(2001.5.29)

−衆議院予算委員会の集中審議より−

【小泉総理は長期・中期・短期の三つの課題に直面】
   5月28日(月)の午前9時から12時まで、小泉総理が出席する衆議院予算委員会が開かれ、緊急経済対策発表後の経済・外交問題藤について集中審議が行われた。私は自由党を代表して小泉総理に対して経済問題の質疑を行った。以下はその概要である。
  小泉総理の「改革」が言葉だけに終らず、本当に実行されるためには、長期(構造改革)、中期(不良債権処理)、短期(景気維持)の三つの課題を同時に解決しなければならない。ところが小泉総理は、「構造改革、不良債権処理なくして景気回復なし」という側面ばかり強調している。その事は正しいし、自由党もかねてから主張している事である。

【景気後退で構造改革と不良債権処理が挫折する恐れ】
  しかし同時に、自由党は「景気を維持しなければ構造改革や不良債権処理は挫折する」とも言っている。改革は痛みを伴うのに、更に景気後退で一層の痛みが加わるならば、国民は痛みに耐え兼ねて改革に反対するからである。
  また過去の不良債権をいくら処理しても、景気後退で新たな不良債権が次々と生み出されれば、いつ迄たっても不良債権の処理は終らないからだ。
  つまり構造改革、不良債権処理、景気維持の三つは、相互に影響を与え合う関係にあるのであって、小泉総理が強調するように「構造改革、不良債権処理なくして景気回復なし」という一方通行の因果関係だけではないのである。それを一方通行と誤認して、構造改革と不良債権処理だけを行っていると、不況はますます深刻になり、景気の面から構造改革と不良債権処理が挫折してしまう。

【年初来の景気後退は先行き個人消費と設備投資の下落で深刻化する】
  現に足許の景気は、今年に入ってはっきりと後退局面に入っている。鉱工業生産は昨年10〜12月期に前期比+0.6%とほとんど頭打ちになったあと、本年1〜3月期は前期比-3.7%と大幅に下落し、前年水準を下回った。更に4月と5月の予測指数もそれぞれ前期比-0.8%と下落を続ける。他方、在庫率は次第に上昇しているので、この過剰在庫を減らすための生産調整で生産は当分の間回復しないであろう。(このホームページの『月例景気見通し』2001年5月版参照)
  この景気後退は、米国の成長減速などによる輸出の減少が引金となっている。しかし今後は生産の減少が消費減少と設備投資反落という新たな内生的景気後退要因を生み出す。現に求人数、時間外手当など雇用、賃金指標は生産減少に伴い悪化し始めており、これが個人所得の減少を通じて個人消費の落込みを生み出すであろう。とくに、家電リサイクル法の実施に伴う買い急ぎの反動が出る本年4〜6月以降の消費は、はっきりと弱くなるであろう。
  又設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、本年1〜3月期に前期比-7.0%の減少となった。従って早ければ7〜9月期、遅くとも10〜12月期には設備投資が反転下落に転じる可能性がある。

【景気後退に打つ手のない小泉内閣】
  このように、今始った景気後退は本年の秋から暮れにはきわめて深刻化する可能性が高くなっている。このままでは、小泉総理の構造改革や不良債権処理が困難に直面する恐れがある。
  このことを小泉総理に対して指摘したところ、「国債発行の拡大を伴う景気対策を打つことは出来ない」という答しか返ってこなかった。小泉総理は景気後退の深刻さが分かっていないのか、あるいはマイナス成長になっても仕方がないと思っているのかどちらかであろう。ここに小泉改革の危うさがある。
  塩川財務大臣は緊急経済対策で対処するというが、緊急経済対策にはマクロ経済対策は入っていない。株式売却で得た所得から100万円を控除するというが、この減税額は13年度中に400億円、14年度中に900億円にすぎない。13年度当初予算には、社会保険料引上げに伴う国民負担の増加(所得増税と同じデフレ効果)が3兆円近く入っている。財政面からは、はっきりと消費の足を引張っているのである。
【2〜3年で不良債権が処理出来るのは大手行のみ】
  次に、中期の不良債権問題については、以下のことを指摘した。
  小泉総理は、今後2,3年で不良債権を処理すると断言し、外国の投資家はそれを信じて日本の株式市場に投資している。しかし、柳沢金融担当相が財務金融委員会で私に答弁しているように、破綻懸念先債権以下の不良債権について、既存の分は2年以内、新規発生分は3年以内に処理できるのは、主要15行のみである。地方銀行を含む全国銀行ベースや信金、信組を含む預金取扱金融機関ベースでは、不可能である。何故なら、平成12年9月の政府公表によっても、既存の不良債権は全国銀行で24兆円、預金取扱金融機関で34兆円もあり、彼等の業務純益、資本金、引当金などで2年以内に処理出来る筈がないからである。
  それにも拘らず小泉総理は、大手銀行と断らずに、不良債権を公的資金を使わずに2〜3年で処理できると言い続けている。このウソが国際的に知れ渡った時は、小泉政権は信用を失い、資金流出で株価が更に下落するのではないか。

【道路特定財源の一般財源化は事業補助金の廃止と一体で】
  最後に、道路特定財源の一般財源化は、自由党がかねて主張していた事であるが、それだけでは「構造改革」の名に値しないことを小泉総理に指摘した。
  公共事業費の「構成」を、道路から都市対策(防災・環境など)にシフトさせること自体は、単なる構成変化であって「構造」改革ではない。道路特定財源の中に含まれている地方自治体の道路事業に対する「事業補助金」を廃止し、これを一括地方自治体に交付して自由に投資させた時、はじめて構造改革の名に値する地方分権、規制撤廃となる。
  道路特定財源は道路工事を通じる中央の地方支配のメカニズムである。そこにメスを入れるのが構造改革である。道路特定財源の一般財源化を単なる公共事業の構成変化に終らせてはならない。
  小泉総理はどこまでこの点を理解して呉れたのか、あるいは理解した場合にどこまでやる気があるのか、今の段階ではまだ分からない。