小泉内閣への期待と危うさ (2001.5.7)



【改革を求める国民感情にヒットした内閣】
 小泉内閣に対する国民の支持率は、80%弱から90%弱の間となっている。発足直後のご祝儀相場とはいえ、記録的な高水準である。ここ数年間、出口のない閉塞感に悩み続けてきた国民感情が、一条の光を見付け、爆発的人気が出たようである。
 小泉首相は、自分の内閣を称して、構造改革なくして景気回復なしという「改革断行内閣」であると言っている。また内閣の顔触れを見ても、首相を除17人の閣僚のうち、女性が5人、民間人が3人というのも、前例がない新鮮さを与えている。森内閣から引き継いだ閣僚が7人も居るのは、「居抜き内閣」という印象を与えるが、7人の中には手堅い仕事をしている大臣も少なくないので、一概に批判は出来ないだろう。
 小泉氏は閉塞感の打破と改革を求める国民感情に訴える事に成功したと言えよう。

【派閥均衡打破の内閣ではなく脱主流派の内閣】
 小泉首相は自民党内の派閥均衡人事を打破した内閣であると自賛している。確かに最大派閥の橋本派が森内閣の5人から2人に減り、また江藤・亀井派が同じく3人から1人に減った。反面、小泉首相が属していた森派は2人から3人に増えた。民間人も1人から3人に増えた。
 しかしこれは、正確に言うと、自民党内の派閥を無視して組んだ内閣ではない。従来の主流派であった橋本派と江藤・亀井派を抑え、小泉首相の仲間を増やした内閣である。派閥を無視したのではなくて、自分の仲間を強く意識した組閣である。その典型が、79歳の塩川正十郎氏を財務相に起用した事であろう。
 塩川氏は、かなり以前に自民党の税制調査会長を歴任したとはいえ、決して財政・金融の専門家ではない。平成8年から12年までは、落選中で激しい政治経済の動きからは遠ざかっていた。その塩川氏を起用したのは、総裁選における小泉擁立の推進者であった事に対する論功行賞以外の何物でもない。

【小泉内閣の一つのアキレス腱は景気問題】
 小泉内閣には、小泉首相自身を含め、国民に直接訴える事の上手なgood communicatorが多い。田中外相、柳沢金融相、竹中経済財政相、石原行革相、扇国土交通相などである。彼らをマスコミが頻繁に登場させると、今の人気は長続きするかもしれない。
 しかし小泉内閣のアキレス腱は、景気問題にある。小泉首相は初の記者会見(4月27日)の際、原稿も見ずに環境問題・防衛問題・行革問題などについて持論を積極的に述べていたが、「景気回復と構造改革をどのようにして両立させるのか」と問われた時だけは、一切持論を述べず、「塩川財務相と竹中経済財政相に任せる」と「丸投げ」の姿勢をあらわにした。「構造改革なくして景気回復なし」と格好良くスローガンを述べている間はよいが、具体的な政策論となると、小泉首相には持論がない。

【間違った景気底入れ宣言を出した塩川財務相】
 丸投げを受ける立場にある塩川財務相は、景気問題の素人である。新聞報道によれば、ワシントンのG7後の記者会見(4月28日)において、「景気は最近底を打った感じがする。春から6月ごろにかけて持ち直し、回復して行くと思う」と述べている。鉱工業生産指数が本年1〜3月に前期比-3.7%の大幅な、それも7四半期振りの下落となり、4月と5月の生産予測指数はいずれも前月比-0.8%の低下となっているのを、どう説明するのか。
 塩川財務相は、官僚達の希望的観測に基ずく間違った原稿を棒読みしたのであろう。この調子では前途が思いやられる。
 竹中経済財政相は立派な経済学者である。しかし学者は、中長期的な構造問題には強いが、短期の景気問題には不慣れである。塩川=竹中コンビで景気対策に弱い小泉首相を支えられるのか、大きな不安がある。

【自公保の多数議員は予備選の結果に逆らえず小泉氏に投票しただけ】
 小泉内閣が間違った景気予測を述べたり、あるいは「景気より改革」というスタンスを取っている間に、現実の景気がどんどん悪化して行くと、内閣支持率は低下していくであろう。
 そうなると、参議院選挙を控えた自民党内が収まらないのではないか。
 衆議院本会議における首班指名選挙の際、普通なら首相予定者が投票のために登壇すると、与党席から大きな拍手が起きるものだ。しかし4月26日の首班氏名の際は、小泉氏が登壇しても拍手一つ起きなかった。自民党も公明党も、白けた顔をして見ているだけであった。
 つまりこの事は、小泉首相は自民・公明の多数派の衆議院議員から、本当の支持を受けていないということである。彼等は、都道府県の予備選挙の結果、小泉氏が圧倒的な勝利を収めたので、国民世論を逆なでしては不利と考え、やむを得ず小泉氏に投票しただけなのである。

【真の改革者として野党と組むか、政権延命で自公保と妥協するか】
 従って、自公保の議員の多数は、小泉政権は短命であって欲しいと思っている。少なくとも、従来の主流派であった橋本派と江藤・亀井派の自民党議員と、自公保連立に冷ややかな小泉氏をうらむ公保両党の議員はそう思っている。
 彼等はいま、予想外の小泉人気と高い支持率に戸惑っているに違いない。
 しかし、景気問題で小泉内閣が失敗した時は、野党は勿論のこと、与党内部からも強い小泉批判が出てくるであろう。
 その時小泉氏は、真の改革者として野党と組むのか、それとも自公保の中で引き摺り下ろされるのか、二つに一つの道が待っている。そのいずれでもない一番情けない形は、小泉氏が自公保の多数派とずるずる妥協して延命を図ることだ。