株式税制の改革こそ正しい株価対策(2001.3.2)

−衆議院財務金融委員会での私の主張−

【生産減少が引金となり株価は最安値を更新】
  3月2日の日経平均株価は、バブル崩壊後の最安値(98年10月9日、金融危機末期の12,879円)を2日連続して更新し、12,261円で引けた。2日前に発表された1月の鉱工業生産が、予測値の前月比+0.7%を大きく下回り、前月比−3.9%の大幅下落となったことが直接のきっかけである。同時に発表された予測指数も、2月は+2.7%と上昇するものの、3月は再び−1.4%と下落するので、1〜3月期の平均は10〜12月期比−1.7%の減少となる。昨年7〜9月期+1.6%、10〜12月期+0.4%と上昇が鈍化してきた鉱工業生産は、本年1〜3月期に至り遂に減少に転じたのである。しかも在庫率は上昇に転じ、過剰在庫の発生を示しているので、今後は在庫減らしの生産調整局面に入り、生産の減勢は1〜3月期にとどまらない可能性が高い。

【政策立案能力、危機管理能力を失った自公保政権】
  しかし、生産指数発表後3日連続して株価が下落したのは、単に景気後退のリスクが高まってきたためばかりではない。そのような経済情勢に対し、自公保連立の森政権がまったく対応能力を失っているからである。現在国会審議中の平成13年度予算が成立すれば景気によい影響が出るなどと、まったく的外れの発言を繰り返すだけで手をこまねいている(このホームページの「雑誌掲載論文」欄“平成13年度予算案は「落第」”BANCO13.2.22参照)。このため、市場では森総理退陣の噂が流れる度に株価が反発する有様である。
  自公保3党の株価対策についても、3党の政策責任者が集っていくら協議しても、一向に適切な対策を打ち出せないでいる。人材という点でも、自民党組織の硬直性という点でも、まったく政策立案能力、危機管理能力を失っているのである。

【利子所得よりも高税率となる配当所得】
  3月1日午後の財務金融委員会において、私は宮澤財務大臣と柳沢金融担当大臣の二人を相手に、株式税制の問題点を指摘し、税制改革の論議は、年1回だけ年末の税制調査会でという自民党の硬直的慣行を打ち破り、今直ちに、利付金融資産に比して不利になっている株式の税制を以下のように改正せよと迫った。
  第一は、預金などの利子所得は、どんなに巨額でも20%の源泉分離課税となっているが、株式からの配当所得は、1回5万円(年1回10万円)以下のものだけが20%の源泉分離課税で、これを上回る配当所得は総合課税となり、配当控除を適用しても最高41%の高税率となる。1回5万円(年1回10万円)以上の配当所得を得る株式保有は、事業参加性が高いから高税率を課すのだと言うのが主税局の伝統的説明であり、宮沢財務大臣もそれを読み上げた。しかし、貯蓄残高の多い高齢者や比較的裕福な人であれば、1回5万円(年1回10万円)以上の配当が得られる株式保有は大いにありうることで(例えば電力株450万円保有)、それを貯蓄性とみないで事業参加性とみるのは、まったく陳腐な議論である。

【「配当二重課税」の是正も必要】
  株式保有を預金など有利子金融資産に比して不利にしているのは、このような配当所得と利子所得の課税の不均衡だけではない。いわゆる「配当二重課税」の問題もある。
  企業は借入金や社債発行であれば、その支払金利を損金算入して利益から落とせるので、法人税の課税対象にはならない。しかし増資であると、支払配当は法人税を課税された利益から払うのであるから既に1回課税されており、その支払配当が株主個人の配当所得としてもう1回課税される。これは二重課税である。従って配当所得課税は法人税として払った分だけ軽減すべきであるという考え方に立ち、ヨーロッパでは配当課税を軽減している(いわゆるImputation)。
  厳密なImputationをすべきかどうかについては議論が分かれるものの、配当所得課税をこの視点から軽減すべきであるという主張は税の公平の原則からみて妥当であろう。

【株式譲渡益課税は利子課税と同率の申告分離課税とすべし】
  第三に、株式譲渡益課税については、源泉分離課税(売値の1.05%)と申告分離課税(譲渡益の26%)の選択方式を取敢えず2年間延期することとなったが、最終着地点が、@選択課税の継続か、A申告分離課税に一本化するのか。B総合所得課税に移行するのか、決まっていない。その事が、株式の長期保有を不安にしている。
  最適課税理論から考えると、一定期間以上保有した株式の譲渡益は、Bの総合所得課税ではなく、類別所得課税とすべきであり、Aの申告分離課税への一本化が最も効率的で公平な改正である。
  但しこの場合、申告分離課税の税率は、利子・配当課税に揃えるべきである。そうしなければ、金融資産の構成に対して非中立的な税制となり、株式市場の発展を歪めてしまう。

【柳沢大臣は賛成、宮澤大臣は理解を示したが、、、】
  以上の三つの株式税制改革を今打ち出すことが、目先は最も効率の高い株価対策となり、しかも長期的には最も望ましい税制改革になるという私の主張に対し、柳沢金融担当大臣は全面的に賛意を表明した。また宮澤財務大臣も、十分に理解できると述べた。
  問題は二人の大臣が、自公保連立の枠内でこれを実行出来るかどうかである。少なくとも硬直的な自民党の組織が相手では不可能であろう。政権党のそのような政策対応の能力の欠如にも深刻な日本の危機があるのだ。