この13年度予算案では日本経済が危ない(2001.2.13)
−第151回通常国会幕開け報告−
【KSD事件・機密費疑惑の徹底解明が大きな課題】
1月31日(水)、第151回通常国会が会期150日間(6月29日まで)で開会された。本会議場における首相など4閣僚の所信表明演説とこれに対する各党の代表質問を了え、2月8,9日の両日、いよいよ予算委員会における基本的質疑(首相以下全閣僚出席)によって本格的な論戦の火蓋が切って落とされた。
代表質問においても、予算委員会の質疑においても、その焦点はKSD事件と機密費疑惑であり、さながら「スキャンダル国会」の様相を呈している。
KSD事件は政官業癒着の利益誘導型政治の典型的な事例であり、自民党政治の本質を露骨に物語っている。機密費疑惑は、国民の血税を無駄使いして何とも思わない自民党の政治家と官僚の最も悪質な事例である。
両者共にこの通常国会において、証人喚問を含む徹底した真相糾明、責任の追求、および再発防止のための改革が行われなければならない。
【置き忘れた感のある経済問題も実は極めて大切】
この二つの問題と並んで、もう一つ、この通常国会で徹底的に議論し、対策を講じなければならないのは、経済問題、とくに国会に提出された平成13年度予算案と関連法案で、本当に日本経済は立ち直りに向うのかという点である。
私は自由党の予算委員会常任委員として、2月9日(金)の予算委員会の基本的質疑において、自由党を代表して森総理、宮沢財務相、坂口労働厚生相、柳沢金融相と25分間の質疑を行った。ほとんどの質疑がKSD事件と機密費疑惑に終始する中で、私は敢えて置き忘れた感のある経済問題にしぼって質疑を行った。
KSD事件と機密費疑惑の解明は極めて大切であるが、この二つと並んで経済問題の解明も大切だと考えたからである。私の質疑の様子は、他の質疑と同様、NHK総合テレビによって生中継された。
【純輸出の減少と設備投資の鈍化で7〜9月期はマイナス成長に】
日本経済の足許と先行きには赤信号が点滅し始めている。
まず7〜9月期の実質GDP第2次速報値は、設備投資が前期比+7.8%から+1.5%へと大きく下方修正されたため、第1次速報の前期比+0.2%という僅かのプラス成長から、−0.6(年率−2.4%)というかなりのマイナス成長に変った。緩やかな回復をリードしていた設備投資と純輸出のうち、純輸出が米国経済の成長鈍化の影響などでマイナスに転じ、唯一のエンジンとも言うべき設備投資も鈍化したからだ。この間個人消費は横這いで、依然として回復が始っていない。
三つ目のエンジン(個人消費)に点火しないうちに、二つのエンジンのうちの一つ、輸出が逆噴射を始め、もう一つのエンジン(設備投資)の出力が下がってきたのである。これは極めて危ない事態であるが、私の問題提起に対して、森総理も宮沢財務相もまるで危機感の無い楽観的な答えであった。
【10〜12月期の生産は鈍化、1〜3月期の業況は悪化予想】
10〜12月期については、GDP統計は未だ発表されていないが、鉱工業生産の実績をみると、前期比で4〜6月期+1.7%、7〜9月期+1.6%のあと、10〜12月期は+0.3%とがっくり減速している。政府の月例報告でも、さすがに生産は「堅調」という表現を改め、「増加のテンポが緩やかになっている」と修正されていた。輸出の減少と設備投資の鈍化の影響は、ここにも出ている。
1〜3月期についても、12月調べの日銀「短観」では、大企業製造業の「業況判断DI」が2年振りに悪化の予測となっている。生産鈍化に伴う収益予測の下方修正の影響が、ここに出ている。
以上のように、7〜9月期、10〜12月期、1〜3月期という足許と先行きの代表的マクロ経済指標には、いずれも赤信号が点滅しているのである。
【個人消費に直接働きかける手段を欠いた平成13年度予算】
問題は、このように危険信号のともった日本経済に対し、13年度予算案は立直りの政策になり得るかということである。
製造業の企業収益が設備投資と輸出のお陰で回復し始めても、借入金の返済、不良資産の損切り、不良債権の償却など後向きの「敗戦処理」に使われ、前向きの景気刺激(雇用増加、賃金引上げ)に回って来ないのが現状である。従って、いま必要な政策は、個人消費に直接働きかける政策である。
このような私の問いかけに対し、宮沢財務相はこの予算で企業活動が回復すれば、やがて個人所得と個人消費も回復し始めると答えるばかりである。
そこで私は、「この平成13年度予算で、国民負担率は上がるのか、下がるのか」と単刀直入に質問した。宮沢財務相は答えられない。私は失望した。この予算では国民負担率は上昇し、消費にブレーキが懸るということを、予算提出の責任者である宮沢財務相は自覚していないのだ。申し訳ないが、「宮沢老いたり」の感を深くした。
【13年度予算では保険料引上げが消費を直撃する】
この予算案では、国民負担率は前年度の36.5%から36.9%へ、0.4%ポイント上昇する。これは、4月からの雇用保険料の引上げと、10月からの介護保険料の倍増によって、社会保障負担率が前年度の13.9%から14.3%へ0.4%ポイント上昇するからだ。
社会保険料は所得から直接差引かれるから、所得税や住民税のような直接税の増税と同じデフレ効果を持つ。13年度予算では、それが国民所得の0.4%、額にして2.4兆円引上げられる。介護保険料の徴求は本年度から始ったので、12年度と13年度を合計すると、国民所得の0.7%、額にして4.2兆円の社会保険料負担の増加となる。
ただでさえ弱い個人消費は、この4.2兆円の所得増税と同じデフレ効果に見舞われ、回復どころではあるまい。
【平成9年度の超デフレ予算に匹敵する国民負担率の上昇】
このことを宮沢財務相に正したが、まったく反応がない。坂口労働厚生相に、「あなたが実施しようとしている雇用保険と介護保険の保険料引上げは、4.2兆円の所得増税と同じデフレ効果を持つが、それでも良いと思うか」と質した。坂口大臣も逃げの答弁であった
。
行革担当大臣として橋本元総理が居るので気の毒には思ったが、「平成9年度の超デフレ予算で日本経済はマイナス成長に突っ込んだが、あの時の国民負担率の上昇は36.5%から37.0%への0.5%ポイントであった。この平成13年度予算の国民負担率の上昇は、36.5%から36.9%へ0.4%ポイントである。ほぼあの超デフレ予算に匹敵する。こんなデフレ予算を執行して日本経済が立直ると思うのか」と追求したが、森総理以下誰も反論できない。
【株価低落と金融危機のリスク】
そこで目先を変えて、「これでは日本経済の先行きがますます不安になり、株価は更に低迷を続けるであろう。時価会計の採用を目前に控え、日本の金融機関、ひいては金融システムは大丈夫か」という問いを、柳沢金融相に向けてみた。
柳沢大臣は、立場上当然のことながら、日経平均が12,600円まで下がっても自己資本比率は大丈夫なので、収益に多少の影響はあっても国民は心配しないでくれ、と答えた。
私は金融不安を引き起こしかねない無用の刺激を避けるため、これ以上追求はせず、柳沢大臣に対し「確り頼む」と激励した。しかし、柳沢大臣も内心では分かっているであろうが、現在の日経平均13千円台でも、大銀行の3分の2は保有株式に評価損が出ている。万一、12千円を割るようなことになると、大変なことになる。
何とも心配なことである。
【提出した予算案の組替・修正を拒否する態度に真の危機がある】
最後に私は、森総理に次のことを述べて質疑を締めくくった。
森総理は、平成13年度予算を早く成立させてくれれば景気は立直ると言っているが、その認識がそもそも間違っている。この予算はデフレ予算であり、これを執行しても景気は立直らないであろう。その証拠に、この予算案の内容が次々と明らかになった昨年12月中頃に、日経平均株価が6営業日連続して累計1.7千円も下がったではないか。市場はこの予算案に失望している。
自由党を始めとする野党4党は、予算案の組替え要求を出す予定だ。
森総理が本当に日本の将来を憂うるのであれば、メンツを捨て、この予算の組替えや修正に応じるべきである。
この私の締めくくり発言に対しても、森総理はこの予算で景気は立直ると答えるのみであった。この調子では、予算案が成立する3月末まで、どんなに景気が危うくなり、株価が下がっても、追加的財政政策の手は打てない。そこに真の危機があるのではないかと思う。