株価低落の背景に平成13年度予算案がある(2000.12.25)



【日経平均株価は6営業日連続して1,745円の急落】
  日経平均株価の終値は、12月13日(水)の15,168.68円から21日(木)の13,423.21円まで、6営業日連続して急落した。この下げ幅の累計は、実に1,745.47円に達する。
  この10日間は、平成13年度の一般会計予算、財政投融資計画、税制改正大綱の内容が刻々と報道され、20日(水)には大蔵原案が決まり、24日(日)には政府原案が決まった。それらの内容が明らかになるにつれ、株価は連日下落し、遂に1,745円の下げ幅を記録したのである。
  この株価急落は、米国株価の下落に連動したものだという解説が行われ、また福田官房長官や額賀企画庁長官は日本の景気動向から乖離した動きだと強弁している。
  しかし、米国の株価下落が引金になったとしても、日本の景気動向、ひいては企業収益の見通しと乖離して下落しているのであれば、必ず押し目買いが入って株価は元の水準に戻る筈だ。それがなく、反発しても14千円前後の株価水準にとどまっているのは、景気や企業収益の見通し不安と平仄が合っているからである。
  そして、次々と明らかになる来年度予算案などの内容が、その不安を打ち消すどころか、むしろ掻きたてているからにほかならない。

【消費に点火しないうちに輸出はストップ、設備投資は鈍化】
  ここへ来て来年の景気動向に少なくとも三つの黄色信号がともった。
  第一は、緩やかな回復を引張ってきた二つのエンジン、輸出と設備投資のうち、輸出が、7〜9月期のGDP統計(1次速報値)で横這いとなった(詳しくはこのホームページの「最新コメント」欄、“新方式による7〜9月期のGDP統計をどう評価すべきか(200.12.4)”参照)。設備投資は前期比+7.8%の大幅増加となったが、その後発表された「法人企業統計季報」では小幅のマイナスとなっているので、これを使って再推計されるGDPの2次速報値では大きく下方修正され、小幅の増加にとどまると見られる。
  個人消費という第3のエンジンに点火しないうちに、第1エンジンの輸出がストップし、第2エンジンの設備投資が鈍化し始めたのである。このため1次速報値で前期比+0.2%のプラス成長となった7~9月期の実質GDPは、2次速報値では下方修正され、マイナス成長となるであろう。
  これを織り込んだためか、来年度予算の前提となる政府経済見通しでは、昨年度に1.4%成長となったあと、本年度には1.2%成長に鈍化するとされている。政府自らが本年度の成長鈍化、景気変調を認めた形だ。

【生産の上昇テンポは鈍化傾向】
  第2の黄色信号は、このような輸出ストップと設備投資鈍化の影響を受けて、生産指数の上昇テンポが鈍ってきたことだ。10月の実績指数と11月、12月の予測指数によって10〜12月期の生産指数の平均を試算すると、前期比+0.7%となる。これは7〜9月期の同+1.6%に比して明らかに鈍化している。
 9月と10月の実績指数や11月と12月の予測指数が、8月の実績指数よりも低い水準で横這い傾向となっているからだ(詳しくは、このホームページの「月例景気見通し」欄の2000年12月版のグラフと文章を参照されたい)。

【経営者と投資家の先行き不安は広がっている】
  第3の黄色信号は、このような生産鈍化を反映して、「日銀短観」における大企業製造業の「業況判断DI」の改善傾向が12月調査で2年振りにストップし、先行きはやや悪化すると出たことである。98年末から始まった緩やかな業況感の回復傾向は、2年間で早くも転換期を迎えるような兆を見せている。
  以上の三つの黄色信号に加え、これらと連動するような株価の下落自体も投資マインドや消費マインドを冷やし、また金融機関の評価損を広げて金融不安の引金となるリスクを含んでいる。
  企業経営者や市場の投資家の景気見通しには、このような不安が広がっているのである。

【一般歳出は7.3%減で内容には無駄が多い】
  そのような時に発表された来年度予算などの政府原案は、とても不安を払拭できるような内容ではない。
  まず一般会計歳出予算のうち、国債費と地方交付税等を除いた一般歳出(いわゆる政策経費)は、前年度の当初予算に比べ+1.2%の増加となっているが、前年度の補正後予算に比べると−7.3%の大幅減少である。宮沢大蔵大臣は来年度は補正予算を組まなくてもいざとなれば公共事業予備費を使えば大丈夫だといっているが、この予算費も前年度の5000億円から3000億円に減らしており、それを含めた一般歳出が−7.3%減となっているのだ。内容を見ても、省庁再編に伴なう予算節減効果は見られず、北陸と九州の整備新幹線をフル規格で着工するなど、相変わらず従来型の地方ばら撒き公共事業の安易な積み増しに終始している。行政評価に基づき、もっと効率の高い大都市圏の交通網を建設するとか、工事単価の引下げや地方への補助金一括交付で無駄を排除するといった工夫も見られない。

【IT投資と個人消費を抑制する歳出】
  税制改正では、パソコンなど100万円以下の情報通信機器の即時償却制度を廃止、4年ないし5年の耐用年数とする。恐らく来年3月までに、これらの情報通信機器に対する駆け込み需要が出たあと、4月以降は反動減となり、来年度のIT投資に対して悪影響を及ぼすことになろう。政府はIT、ITと口で言うばかりで、実際の政策はIT投資促進に逆行しているのだ。
  消費との関連では、昨年10月から始まった65歳以上の人に対する介護保険料の徴求が平年化し(一人年間3万円強)、また40〜64歳の人に対する介護保険料徴求の上限をはずして増加させることになる。これによる40歳以上の人の国民負担は年間2兆円を超す。ここでも政府は消費対策、消費対策と言いながら逆のことをしている。

【景気最優先どころかデフレ的な平成13年度予算】
  以上のことから分かるように、政府は口では景気最優先といいながら、平成13年度予算で実際にやっていることは、景気の足を引張ることである。
  企業経営者も投資家もそれを見抜いているため、平成13年度予算の内容に失望し、兆し始めた景気の先行き不安を払拭できず、むしろ不安を掻き立てられているのである。

  6営業日連続、累計1,745円の株価急落はそのことを裏付ける動きだ。
  結局、平成13年度予算は、景気と財政健全化と構造改革に配慮したと言いながら、実はいずれの三つも実現していないビジョンなき無原則予算である。景気の面では前述の通りデフレ的である。財政健全化の面では前述の通り効率の悪い歳出が多く、国債費を除いたプライマリー・バランスで見ても前年当初予算比で5,028億円悪化している。構造改革の面でも前述の通りIT投資を阻害し、介護制度の保険方式から消費税方式への転換に手を着けていない。