1997年日本経済の回顧 (97.12.27)
−絶好のチャンスを逃した年−
【補正予算の審議を衆参両院1日づつに短縮した与党】
総額4兆7832億円の平成12年度補正予算案は、昨日11月21日、衆議院本会議において与党3党の賛成によって可決され、本日11月22日、参議院をたった一日で通過し、成立した。
与党が数の力にまかせて、補正予算案の審議を衆参両院1日づつで切上げて可決成立させたということは、明年以降の日本経済に対してこの予算案が持つ意味を、与党が真剣に考えていない証拠であると思う。その事を真面目に議論するよりも、予算案審議の中で自民党の政治、政策が批判される時間を極力短縮する方が大切であるという判断に、国益よりも党利党略を優先させる態度が露骨に出ている。
私はこの補正予算に反対した。
以下は、私が自由党を代表し、21日の衆議院本会議において行った反対討論である。
【平成12年度補正予算案 反対討論】
(1) はじめに
自由党の鈴木淑夫でございます。
私は自由党を代表して、ただいま議題となりました平成12年度補正予算3案につきまして、反対の立場から討論を行います。
(2)反対理由
まず第一に、この予算案の枠組み自体に問題があります。一見すると、特例公債を発行せず、公債発行額も抑制され、財政健全化に配慮しているように見えます。しかし、これはまやかしです。前年度の剰余金1兆円の2分の1以上を、財政法第6条第1項の規定通り、国債整理基金に繰り入れることをせず、全額財源に使っていること、前年度に比べ国税の自然増収が2兆円以上あること、財投債という名の新しい公債を一般会計の外で発行していることによるものであります。行政構造の改革による歳出削減の跡は、みじんも見られず、財政健全化に配慮した予算などではありません。
第二に、この補正予算案は、国債管理政策の基本原則から逸脱しております。
本来、現在のような低金利の時には剰余金を将来の高金利時代の償還に備えて、国債整理基金に繰入れ、長期債にウエイトを置いて新発債を発行すべきであります。その方が長期的な金利負担は低下するというのが国債管理政策の基本原則であります。
ところが、この予算案では、国債整理基金への繰入れをストップし、その上、発行国債は短期債に偏っています。一度短期債を発行すれば、長期債に乗り換えることは容易ではないので、借り換えを頻繁に行わなければならなくなり、行政コストが嵩みます。また、低金利時代の短期債の発行は、一見、コストが低いように見えても、高金利時代には短期金利が長期金利を上回って上昇するので、長い目で見ると国債費の増加要因となります。この予算案は、低金利時代には長期債を、高金利時代には短期債を発行するのが、長い目で見て国債費を極小化するという、国債管理政策の原則とは全く反対の政策を取ろうとするものであります。
反対理由の第三は、歳出面において、構造改革を推進しようとする政策ビジョンが全く感じられないことであります。
当面、景気回復が重要であることは言うまでもありません。平成9年度の政策運営の失敗を繰り返さないためにも、財政政策の下支えや金融緩和といった政策自体を否定するものではありません。しかし、わが国経済混迷の根本的原因は経済の構造問題にあり、そこに切り込む経済構造改革、財政構造改革の姿勢がこの予算案には全く欠けているのであります。
(3) 財政構造改革のあるべき姿
そもそも財政構造改革とは、平成9年度予算のように、国民負担を9兆円も増やして、やみくもに財政赤字を減らそうとすることではありません。
われわれ自由党の財政構造改革とは、財政の仕組み、お金の出し方を変える、そのことによって効率的な財政支出を行えるように、行政・税制を含めて改革し、それによって民間経済に活力を呼び戻し、財政赤字を減らすことであります。
具体的には、規制撤廃の推進によって役人の仕事を減らし、十年間で25%の国家公務員の削減を着実に実施することです。国の権限を大幅に減らして民間にできることは民間に任せること、国の権限を簡素化した上で地方に移譲することが必要であります。
地方財政については、地方自治体の広域化・合併をはかり、全国の市町村を300程度の市に再編して、その上で独自税源を与えるべきであります。あわせて公共事業については、事業補助金相当分を一括して交付する制度を創設して、地域のことは全て地域に任せ、本当の地方分権を確立すべきであります。また公共事業は、国・地方を問わず、維持・管理を含めた費用対効果の原則から公共事業評価の客観的な基準を明確にした評価法の制定を行い、社会的・経済的に有用な公共財に投資対象を絞るべきであります。
以上申し述べた改革によって、国・地方の歳出の少なくとも一割、15兆円の削減を段階的に実施して新発債を削減し、基礎的財政収支の均衡を目指すのが、われわれ自由党の財政構造改革であります。
(4) 経済構造改革のあるべき姿
さらに、補正予算であれ、本予算であれ、将来の社会・経済構造はどうあろうべきかを政府は明快に示さなければなりません。
将来の財政支出増要因の一つに、少子高齢化の進展による社会保障経費の増大と保険料収入の減少があります。消費税の使途を、基礎年金・高齢者医療・介護の3分野に限定し、負担の公平化と基礎的社会保障の財政基盤を強化すべきであります。また特定財源として消費税方式を導入する場合には、簡易課税制度などは廃止して、益税問題を解消するべきと考えます。
所得税・住民税についても、各種控除を原則廃止し、手当に改めた上で、税率構造の簡素化と税率の引き下げを実施し、たとえ僅かな額であっても国民全員が自分で納税できる分かりやすい公平な税制とするべきであります。控除を手当に改めることによって、負担の調整を図ることができ、あわせて政策目的がより明確となります。他方、この数年来、補正予算による公共事業の追加が恒常化しておりますが、公需から民需への円滑なバトンタッチを目指すのであれば、所得税の減税に加え、法人税の基本税率をさらに引き下げるべきであります。公共事業の合理化による圧縮、陳腐化している租税特別措置の廃止を財源とし、償却制度の適正化など税制全体の均衡を図りつつ実施すべきことは、言うまでもありません。
(5) むすび
今、国民から求められているものは、経済・社会に漂う将来不安を払拭するための、構造改革の明確なビジョンであり、政策パッケージであります。
日本経済を民需主導の持続的な経済成長に復帰させるためには、創造力豊かで活力ある民間市場経済と、簡素で効率的な政府を実現させるための構造改革が不可欠であります。これを実現させることによって、財政健全化の道筋が自ずと出来上がります。そのような中期的戦略の下で、当面は国民負担の増加を避けながら、財政・経済・社会構造改革の政策パッケージを実現し、民需主導の自律的成長を定着させるべきであります。この補正予算案は、日本一新を目指すこのような経済戦略とは全く無縁のものであることを指摘し、私の反対討論を終わります。