「ゼロ金利政策」の解除は時間の問題(2000.7.19)



【金融政策の独立性を担保する年2回の国会報告】
  日本銀行は7月17日(月)の政策委員会・金融政策決定会合において、「ゼロ金利政策」の維持を賛成多数(9人の委員の中には解除を主張した人も居た)で決めた。
  翌18日(火)、衆議院大蔵委員会に日本銀行の速水総裁、山口副総裁、および4人の理事が参考人として出席し、平成11年度下期の日本銀行「通貨及び金融の調節に関する報告書」について質疑が行われた。これは新日本銀行法第54条第1項に定められた日本銀行の国会に対する年2回の報告である。大蔵委員会には大蔵大臣や官僚などは一人も出席せず、もっぱら日本銀行の総裁以下の役員と、国民の代表である衆議院議員との間で、金融政策を質疑する。これによって日本銀行が国民に対する説明責任を果たし、政府からの日本銀行と金融政策の独立性を担保とするものである。
  18日の大蔵委員会では、当然のことながら、前日の「ゼロ金利政策」維持の決定に質疑が集中した。

【早ければ8月11日に「ゼロ金利政策」を解除】
  私は自由党を代表する大蔵委員会の理事として終始出席し、私自身も45分間の質疑を行った。そこで私が得た印象は、「ゼロ金利政策」の解除(無担保コール・レートを現行の0.02~0.03%という事実上のゼロ金利から、0.25%前後の超低金利へ誘導)は、時間の問題であり、早ければ次回8月11日(金)の金融政策決定会合において、解除を決定するであろうという事である。

【速水総裁はゼロ金利政策の副作用を心配している】
  私はまず速水総裁に対して、「金利がゼロという状態は貨幣経済において異常なことであり、それによって現在の設備投資主導型の景気回復が支えられているとしても、反面で多くの副作用が生じていると思わないか」と質した。
  これに対して速水総裁は、「ゼロ金利は異常な状態であり、それによって年金生活者を始めとする消費者やさまざまの基金が困まり、金融機関など借り手にモラルハザードが発生し、経済構造改革の進展が遅れているなど多くの副作用があることは承知している」と沈痛な面持ちで答えた。

【設備投資の回復は金利が超低金利にとどまっていれば続く】
  そこで次の問題は、ゼロ金利ではなくても、超低金利と言える程度の水準であれば、現在の設備投資主導型の回復が続くかどうかの判断である。
  これについて山口副総裁は、「現在の設備投資は、企業収益の回復、設備ストック調整の進捗、IT革命の推進などによるものなので、かなり持続性がある」と答えた。
  日本銀行は、コールレートを0.25%程度に引上げる微調整(ファイン・チューニング)を行っても、金利が「超低金利」の範囲内にとどまっている限り、設備投資の回復が腰折れすることはない、と考えているようだ。私もそう思う。

【大幅なマイナス・インフレの時期は過ぎた】
  もう一つの問題は、物価の下落は止まるかという点である。物価の下落が続き、マイナスのインフレ率が続けば、ゼロ金利であっても実質金利はプラスであり、ゼロ金利を解除すれば更に実質金利が上昇するからだ。
  この点について日本銀行は、「需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退した」と判断しており、ゼロ金利政策解除の条件としてきた「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつあるという見方が、政策委員会の大勢判断だと述べた。

  山口副総裁は私の質問に答え、「デフレ・ギャップは大きいものの縮み始めており、国内卸売物価はエネルギー価格の上昇を除いても下落は止まってきた」と述べた。
  私は消費者物価が下落していることを忘れるなと釘を差したが、ゼロ金利を維持しなければならない程の大幅なマイナス・インフレ(デフレ)の時期が過ぎたことは、確かであろう。

【「そごう」問題とサミットに対する配慮か】
  そうなると、何故7月17日に「ゼロ金利政策」の解除を決めなかったのか、という事になる。
  この点について日本銀行は、「そごう」問題の市場心理に与える影響をもう少し見極める必要があるとしている。
  それも一つの理由であろう。しかし私はもう一つ、沖縄サミットに出席する森首相への配慮があったと思う。森首相の能力では、日本に対する内需拡大の要請の下で、ゼロ金利政策を解除した理由を各国首脳に説明できないのではないかと、私は思う。森首相には、「金利引上げ」や「金融引き締め」ではなく、「超低金利」と「超金融緩和」の範囲内で、コールレートをゼロから0.25%に引上げる微調整(ファイン・チューニング)を行ったのだという説明をする自信がまったくないのではないか。事実、森首相は政策決定会合3日前の7月14日(金)に「(ゼロ金利維持という)適切な判断をして頂けると期待している」という異例の発言をしている。
  新日本銀行法の下では、政策委員9人に対し、森首相から直接圧力が懸ることはあり得ない。しかし政策委員の側でサミット直前の森首相の能力に配慮した可能性はある。

【速水総裁「その時期は迫っている」】
  私は質疑の最後に速水総裁に対し、次のように述べた。
  「ゼロ金利政策」解除の機は熟している。「そごう」問題の見極めはすぐつくし、サミットも今週中には終る。景気回復の初期には大型倒産がつきもので、それを気にしていては政策変更などは出来ない。また政治への配慮が行過ぎたことが、1973〜74年の過剰流動性インフレや88〜89年のバブル発生の原因である。
  今回は仕方がなかったとしても、近い将来に「ゼロ金利政策」を解除すべきである。
  以上の私の意見に対して、速水総裁は、「やる時は勇気を持ってやらなければならないと思っている。その時期は迫っていると思う」と述べた。