本年1〜3月期のGDP速報は景気の不安材料(2000.6.9)



【予想よりも弱い1〜3月期の実質GDP】
  本年1〜3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比+2.4%(年率+10.0%)の大幅増加となった。もっともこれは、昨年10〜12月期が-1.5%(年率-6.4%)の大幅な落込みを示したことの反動による面が大きく、この程度の増加は十分に予測されていた(このホームページの「月例景気見通し」欄、“景気見通し・2000年4月版 ―本年1~3月期は大幅なプラス成長となる可能性―”参照)。
  むしろ、この程度の増加は予想値の下限である。そのため99年度の平均成長率は0.5%(正確には0.455%)にとどまり、昨年12月に決めたばかりの政府の「実績見込み」0.6%に及ばなかった。
  景気の基調は予想よりも弱いとの判断からGDP発表後に株式が売られ、9日前場の日経平均株価が100円ほど値下がりし、後場も弱かったのももっともである。

【公共投資は3四半期連続して大幅なマイナス】
  政府の99年度「実績見込み」と今日発表になった99年度「実績」を対比してみると、決定的に弱いのは公共投資である。政府は「実績見込み」を発表した昨年12月の時点で99年度は+2.7%の増加とみていたが、実績は逆に−0.9%の減少となっている。これは本年1〜3月期に回復すると見ていた公共投資が、1〜3月期も3四半期連続して大幅なマイナスとなったためである。地方公共団体の単独事業の減少を楽観視したことによる誤りである。
  この結果、公的需要の成長寄与度は、「実績見込み」の+0.3%ポイントに対して0.0%にとどまり、この0.3%の見込み違いがなければ、99年度の平均成長率は0.5%ではなく、0.8%に達したことになる。景気の基調が予想よりも弱い第一の原因は、政府自身の財政政策の腰が引けているためだ。

【個人消費の実勢も弱い】
  政府の99年度「実績見込み」よりも「実績」が弱かった第二の理由は、個人消費の弱さである。個人消費は昨年7〜9月期に−0.2%、10〜12月期に−1.6%と2四半期連続して減少したあと、大幅な反動増が期待された本年1〜3月期も+1.8%の増加にとどまった。
  この結果、99年度の「実績見込み」では前年比+1.6%となっていた個人消費は、「実績」では+1.2%にとどまった。これだけで99年度の平均成長率は0.2%強下がったことになる。

【設備投資だけは確りしている】
  このような弱さの中で、一人気をはいているのが設備投資である。
  設備投資は昨年10〜12月期の+3.2%の増加に続き、本年1〜3月期も+4.2%の増加となった。その結果、99年度の設備投資は、政府の「実績見込み」では−6.0%の減少となっていたが、「実績」は−2.5%の減少にとどまった。また本年1〜3月期の設備投資の前年同期比は+3.7%と水面上に顔を出している。
  設備投資については、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)が本年1〜3月期まで増加を続けているので、秋口までは増勢を維持する可能性が高い(詳しくはこのホームページの「月例景気見通し」欄の2000年5月版を参照せよ)。

【秋以降の景気の不透明感が強まっている】
  以上のように、本年1〜3月期の実質GDPは設備投資に支えられて伸びているものの、地方自治体を中心に公共投資が予想外に落込んでおり、個人消費もあまり強くないので、全体として回復基調は緩やかである。
  公共投資の弱さは、地方財政の悪化によるものであるだけに、今後政府の補正予算に対する態度が消極的であると、景気の足を引張り続けることになる。
  そうなると景気回復の勢いがそれ、設備投資マインドにも響きかねない。秋以降の景気見通しは不透明感を増している。日経平均株価が1万7千円台で低迷している理由は、米国の株価下落や指数の銘柄入れ替えの影響のほかに、このような先行き不透明感が響いている。
  6月25日の総選挙の結果、財政政策にどのような態度を採る政権が生まれるかによって、本年度の景気動向は決定的に左右されるであろう。秋の補正予算編成や減税政策に消極的な宮沢蔵相の影響力が残るかどうかが、一つの焦点になる。