2001年4月のペイオフ解禁は2年延期せよ (99.12.21)

【金融審の答申はペイオフ解禁の「延期」に限りなく近い】
  現在、破綻金融機関の預金等(貸付信託、金銭信託、金融債を含む)の元本は、預金
保険制度によって全額支払いが保障されている。しかし2001年4月からはペイオフ
(金融機関が破綻し、受皿銀行が現われず、法的清算によって解散する以外に方法が無く
なった場合は、債務超過分<例えば15%>の預金元本は支払わないことを原則とし、1千
万円以下の預金元本に限り、この支払不能の15%分を預金保険から支払う)を実施する
ことが決まっている。これが「ペイオフ解禁」である。
  大蔵大臣の諮問機関である金融審議会は、平成11年12月21日の答申において、
ペイオフ解禁は予定通り2001年4月から実施すべきであるとしながらも、その場合に
は@流動性預金(決済性預金=当座、普通、通知など)は1千万円超を含め全額保障す
る、A借り手は借入金と預金(定期性預金を含む)を相殺できる、B公金預金・特殊法人
預金を新たに保障の対象に加える、C金融債も引続き保障する、D預金利息も新たに保障
の対象とする、などの諸条件を付けた。これでは預金の8〜9割を保障することになり、
ペイオフ解禁の「延期」に限りなく近い。

【信用組合だけを例外とする越智大臣の部分延期論は非現実的】
  他方金融再生委員会の越智委員長(国務大臣)は、従来の都道府県所管から新たに国
の所管となった信用組合については、2001年4月のペイオフ解禁を中止し、延期すべ
きであると述べている。これは全信用組合の立入検査が終了するのがペイオフ解禁1ヶ月
前の2001年3月になるので、検査で判明した債務超過の信用組合の処理や資本注入等
による経営健全化までには2001年4月から更に2〜3年かかる見通しだからである。

  責任を負う大臣としては当然の発言である。しかしこれに対し、信用組合業界自身
は、自分の業界だけが悪いことを公に認められることになり、信用を失うので反対だと訴
えている。また第2地方銀行、信用金庫などの業界は、同じ基準で預金保険料を収めてい
るのにも拘らず、信用組合だけが預金を全額保障されるのは不公平だと主張し、反対して
いる。
  いずれももっともな主張であり、信用組合という一部の業界だけを例外とする「部分
延期」は非現実的であることが分かる。

【金融審答申と部分延期論は護送船団行政への逆戻りだ】
  以上の二つの議論、すなわち金融審の答申と越智金融再生委員長の部分延期論は、い
ずれも2001年4月からのペイオフ解禁が無理であることを示している。
  本来ペイオフの解禁は、それによって預金の1千万円超の部分の保障が必要なくなる
結果、預金保険料が低下し、「小さな預金保険制度」になる筈であった。ところが、金融
審の答申や越智大臣の部分延期論を実施すれば、1千万円超の決済性預金、1千万円超の
信用組合預金、公金預金と特殊法人預金、金融債などを新たに保障対象に加えるのである
から、預金保険料は低下するどころか、逆に上昇するのではないか。
  現に金融審の答申では、決済性預金を全額保障することによるモラルハザードを回避
するため、「重い保険料負担を課すことが必要」としている。
  これでは、信用組合預金、公金預金などの弱者を保護するため、健全な銀行に奉賀帳
を回す「護送船団方式」そのものではないか。大体どこの世界に、同じ保険料率を徴求
し、リスクの高い人に厚い給付を与える保険制度があるのか。リスクの高い人からは高い
保険料率を徴求するのが、保険制度の基本である。だからこそ米国の預金保険制度は、健
全な銀行の保険料を低くする「可変保険料」になっている。金融審や金融再生委の主張は
保険制度の常識に反して逆の事をしようとしており、護送船団行政そのものである。

【96年の決定は不良債権処理が峠を越したとの誤った認識に基づく】
  そもそも2001年4月からのペイオフ解禁という政策決定は、1996年に行なわ
れた「誤った経済予測」に基づく「誤った政策判断」であった。
  96年当時、預金を持たず、従って預金者保護の必要もない「住専」の処理に6,850億
円の血税を投入した自社さ連立の橋本政権は、この住専処理によって「不良債権処理は峠
を越えた」と公言した。その上、いわゆる金融3法を成定し、これで「早期是正措置(自
己資本比率規制)」を97年4月から実施すれば、2001年4月までに金融機関は健全
化し、ペイオフ解禁を実施しても金融システムに動揺は生じないと判断したのである。
  この甘い見通しは翌97年に迄続き、4月から国民負担9兆円増、公共投資3兆円
減、合計12兆円の財政赤字削減を狙った97年度超デフレ予算の実施となった。12兆
円のデフレ・インパクトに耐えうる程金融システムと日本経済は健全化したと誤認したの
だ。

【大型金融倒産は一巡したが第2地銀、信金、信組には問題が残る】
  しかし、現実には日本経済はこの超デフレ予算執行に伴って直ちにマイナス成長に陥
り、同年11月には拓銀、山一の大型金融倒産に始まる金融危機が発生した。住専に対す
る不良債権は氷山の一角であり、一般顧客に対する100兆円近い不良債権は処理されず
に残っていたからである。
  このような巨額の不良債権を抱える日本の金融システムは、2年連続のマイナス成長
にはとうてい耐えられなかったのである。金融危機は翌98年の日長銀、日債銀の超大型
金融倒産にも及び、60兆円の金融対策の枠組によって、かろうじてその広がりを押しと
どめているのが現状である。
  大型金融倒産は峠を越えたとは言え、まだ第2地銀、信金、信組の中には危ない経営
がある。このため、もしペイオフ解禁となれば、大規模な資金シフトが中小金融機関から
大銀行へ、民間から郵貯へ向って起こるであろう。その結果金融システムは混乱する。

【不良債権処理、自己資本比率改善、ペイオフ解禁が正しい手順だった】
  日本の金融行政は、手順を間違えたのである。まず不良債権の早期処理を92年頃か
ら徹底的に行うべきであった。それを98年頃まで先送りしたのが間違いの始まりだ。
  第2に、不良債権を処理した後に手を着けるべき早期是正措置(自己資本比率規制)
を不良債権未処理のまま97年4月から始めた。
  更に同じ年、金融ビックバンを開始、、経営効率の改善を求めた。
  そして最後に、98年になって、一番始めに行うべき不良債権早期処理を迫ったの
だ。
  不良債権早期処理をすれば自己資本比率が下がる。そこで資本注入をして自己資本比
率を改善すれば自己資本収益率は下がって経営効率は悪化し、ビックバンに耐えられな
い。三つは相互に矛盾するのである。正しい手順は、不良債権処理→自己資本比率改善→
ペイオフ解禁と金融ビックバンである。
  唯一、三つを一ぺんに解決する方法は「貸し渋り」である。不良債権を処理したあ
と、貸出基準を厳格化して効率のよい貸出しに絞り込めば、自己資本比率と自己資本収益
率の両方が上がり、ペイオフ解禁に耐えられる。
  いま、力のある金融機関はこれを実践している。しかし、不良債権早期処理をすれば
債務超過に陥る力の弱い金融機関は、何も出来ないで居る。これが第2地銀、信金、信組
の破綻予備軍である。
  そのような中で、一番最後に行なうべきペイオフ解禁を早くも実施しようとしている
のが、今の大蔵行政である。

【ペイオフ解禁を延期してもモラルハザードや国際信用喪失は起きない】
  ペイオフ解禁を延期するとモラルハザードが発生するという考えは間違っている。不
良債権早期処理、自己資本比率規制、金融ビックバンという三つの難問を突きつけられ
て、金融機関の経営者は経営のリストラ、再編に必死の思いで取組んでいる。万一倒産し
た時にペイオフが有るか無いかなどは、この経営努力と関係ない。
  ペイオフ解禁を延期すると国際的に信用が落ちるという議論もおかしい。無理に解禁
して大規模な資金シフトが起こり、金融機関の倒産と金融システムの動揺が起きる方が、
余程国際的信用を失う。
  60兆円の預金者保護、破綻金融機関処理、公的資本注入の枠組で国際的信用が高ま
り、ジャパン・プレミアムが消えたことからも分かるように、金融システムの安定と預金
者保護に万全を期する方が国際的に評価される。
  大銀行は大丈夫であるが、中小金融機関に問題が残っているので、ペイオフ解禁を2
年間延期すると正しく説明すれば、国際的にも十分評価される筈である。