11年度7〜9月期GDPの意味すること (99.12.6)
【7〜9月期の実質GDPは10年度平均比+0.9%】
本年7〜9月期の実質GDPは、前期比マイナス1.0%(年率マイナス3.8%)と発表された。しかし、同時に4〜6月期の実質GDPが前期比プラス0.1%からプラス1.0%(年率プラス3.9%)に上方修正されたので、7〜9月期は前期比マイナスになったとはいえ、平成10年度の平均に対してはプラス0.9%と高い水準にある。また本年度上期(4〜6月期と7〜9月期)の平均は、10年度平均比プラス1.0%である。
このため、今後10〜12月期と1〜3月期が前期比横這いであったとしても、本年度平均は前年比プラス0.8%となり、政府の修正見通しプラス0.6%を上回る。逆に言うと、政府見通し通りになるためには、10〜12月期と1〜3月期がいずれも前期比マイナス0.3%とならなければならない。
【個人消費の減少は一時的な天候要因】
しかし、実質GDPの実勢は、本年度下期に2四半期連続マイナス成長になる程弱くはない。私は再び小幅のプラス成長に転じ、本年度の平均成長率は、昨年12月現在の私の予測(『週刊東洋経済』98年12月26日号に公表)通り、1%程度になるのではないかと見ている。
本年7〜9月期のGDP統計は、二つの理由により、実勢より低く出ている。
第1に、9月の気温が平年より高かったため、秋物の衣料品が売れず、家計調査の個人所得や名目賃金指数は増加したにも拘らず、消費性向が低下し、個人消費が減少したことである。10〜12月期の鉱工業生産は増加を続け、雇用や時間外手当の面から所得が増えることから判断すると、9月の消費減少は一時的であり、10〜12月期には消費の
反動増加が見られるのではないか。コンピュータ2000年問題に対処するための家計の買溜めの動きも、消費を上向かせる要因である。
【7〜9月期の設備投資は過小推計ではないか】
もう一つの特殊要因は、設備投資の減少である。7〜9月期のGDP速報は、年末の予算編成の関係から、他の四半期のGDP速報よりも早く公表される。そのため、通常であれば大蔵省調べの「法人企業統計」を使って推計されるGDPベースの設備投資を、取敢えず経済企画庁調べの「法人企業動向調査」を使って推計している。
しかし、本年に入ってからの「法人企業動向調査」の設備投資は、「法人企業統計」の設備投資よりも弱く出ている。これは、「法人企業動向調査」では既存の大企業しか把握していないためである。本年1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して増加している中小企業非製造業の設備投資(GDPベースの設備投資の4割)が入っていない。
従って、中小企業非製造業を含む「法人企業統計」の設備投資が発表されると、これに基づいて7〜9月期のGDPベースの設備投資は上方修正される可能性が高い。
【10〜12月期と1〜3月期は7〜9月期ほど弱くない】
以上の二つの要因に加え、次の五つの理由から、10〜12月期と1〜3月期のGDPは7〜9月期のように弱くはないであろう。
第1に、鉱工業生産の増加に伴なう雇用や時間外手当の増加に支えられ、7〜9月期に減少した個人消費の反動増加がある。
第2に、先行指標である機械受注が本年度上期に下げ止まったことから判断すると、下期の設備投資は一高一低のうちに次第に下げ止まってくるのではないか。
第3に、在庫調整の完了に伴ない、民間在庫投資は回復局面に入っている。
第4に、大型の第2次補正予算の執行に伴ない、公共投資は明年1〜3月期には増加する。
第5に、アジア経済の立直り、欧州経済の回復などから、本年7〜9月期にプラスに転じた純輸出は、10〜12月期と1〜3月期にも引続き増加するであろう。
【景気刺激策の手を緩めてはならない】
以上のことから判断すると、本年度の平均成長率は前述のように1%程度になると推計されるが、その場合も、本年度下期の成長率が、上期に比して大きく鈍化することは否めない。
従って、この臨時国会では大型の第2次補正予算を確実に成立させ、直ちに執行に移すことは勿論のこと、景気刺激型の来年度当初予算を明年3月末までに間違いなく成立させなければならない。それによって景気を確実に下支え、来年度中に民需主導型回復を始動させることが、当面における最優先の政策課題でなければならない。
その意味で、一部でささやかれている明年1月の衆議院解散、2月の総選挙実施は、経済無視の暴論である。小渕総理は、日本経済についてそれ程無責任な態度をとる人ではないと信じている。