自由党のデノミ提案の真意 (99.10.1)
【21世紀初頭のデノミを協議することで自自公が合意】
9月30日(木)の自自公連立協議において、自由党は21世紀初頭(出来れば2001年1月1日)から、現行の100円を新しい1円、現行の1円を新しい1銭とする「デノミネーション(通貨の呼称単位の変更)」を提案した。
公明党は賛成したが、自民党は内部で賛否が分かれているため、「21世紀初頭から、円のドル・ユーロと並ぶ国際通貨としての役割を高める方途を、デノミネーションも含めて協議を開始する」という文章で合意した。この文言は、来週に予定されている自自公の党首間合意文書の中に入る。
【諸外国のデノミ実施の中で日本の円が取残された】
第2次大戦後のインフレーションで名目額が膨張し、通貨呼称の桁数が増え、「億」はもちろん、「兆」の単位がやたらに出てくるようになった国々では、デノミが行なわれた。
中南米の途上国のように、インフレが収まらずに何回もデノミを繰り返している国々もある。ブラジルがその典型である。
先進国では、フランス、フィンランド、日本の周辺ではソ連(ロシア)、韓国がデノ
ミを実施した。先進国の中で、デノミを実施しないため桁数が著しく増えているのは、イタリア・リラのみである。
このイタリアを例外とすれば、現在、先進国の通貨呼称単位は、英ポンドも、独マルクも、仏フランも、スイス・フランも、更には新しく出来たユーロも、1単位は1米ドル強、2米ドル以下で並んでいる。
その中で日本円だけはデノミを実施しなかったので、先進国(イタリアを除く)の1通貨単位は日本円の3桁(例えば1米ドルは106円)という“みっともない”形になっている。
【狙いは円の国際化推進と国民心理のリフレッシュ】
この度の自由党のデノミ提案は、二つの狙いがある。
第1は、日本円を米ドルやユーロと並ぶ3大国際通貨として育て上げる上で、通貨呼称単位を先進国通貨と1桁で揃え(例えば1米ドルは1円06銭)、世界の人々が日本円を使い易くすることである。日本円だけが桁数の多い特別な通貨だという状態を改め、「普通の通貨」にしようというのである。
第2は、21世紀を迎えるに当たり、円の呼称単位を変更することにより、日本国民の新時代を迎える気持ちの象徴にしようというものである。新しい世紀に入ったという気持ちを国民全員が持つリフレッシュ効果を狙っているのだ。
これは心理的な効果であるが、理屈を付ければ、新しい世紀を迎えるに当たり、第2次大戦後のインフレーションという旧世紀の遺産に整理をつけると言ってもよい。
歴代の総理大臣の中では、福田総理と中曽根総理がデノミ論者であったが、志を果たせなかった。何となく唐突で、切掛けがなかったからである。
その点、今後は21世紀に入るという絶好の切掛けがある。百年に1度のチャンスと言えよう。合わせて、国際通貨としての円に対するアジアの期待も高まっている。小渕総理は真にラッキーといえよう。
【マクロ的な経済効果はほぼ中立的】
かつてのデノミ論の中には、景気を刺激するためとか、株価を上昇させるためといったような誤った主張があった。
しかし、デノミを実施した場合のマクロ的経済効果は、ほぼ中立的である。何故なら、コンピュータのソフト変更、正札や自動販売機の値段の書き換え、帳簿類の更新などは、一方でソフト供給業者や製紙業者などに対する新しい需要を生み出すが、他方で企業一般にその費用負担が懸かるので、需要増とコスト増が相殺し合う。業種別の影響は異な
るが、マクロ経済全体としては、影響はほぼ中立化されるのではないか。
また、かつてはデノミがインフレを促進するとも言われたが、現在のようなデフレ的状況の下では、値段を書き換える時に切り上げるような企業は、価格競争で脱落するであろうから、便乗値上げは出来ないであろう。インフレ促進の懸念はない。
【混乱を防ぐデノミのやり方】
とくに今回は、例えば現在の12,345円は123円45銭になるので、数字はそのままでよい。「円」の位置を変え、「銭」を加えるだけでよい。
また国民が慣れる迄は、現在の様式の1万円札とまったく同じ様式に新100円と印刷し、千円札に新10円、百円硬貨に新1円、十円硬貨に新十銭、1円硬貨に新1銭と夫々印刷ないし印刻し、現在の札や硬貨と同時に併行流通させればよい。そうすれば、国民は同じ様式の札や硬貨を使うことにより、通貨呼称単位が変わるだけで、国民生活の実態はまったく変わらないことを、日常生活の中で自然と自覚するであろう。
また現在の札や硬貨は、いつ迄も有効に流通させるのがよい。そうすれば、仕舞い忘れた古いおカネが出てきても大丈夫だ。
これは1960年のフランスのデノミの時に、実際に行って成功したやり方である。
この時は、混乱がまったく起きなかった。