回復は始まったが景気刺激型予算は続ける(99.7.29)
【生産は本年1〜3月期以降上昇トレンドに転じた】
本日発表された鉱工業生産指数によると、6月の実績(速報)は+3.0%、7月の予測は+
0.5%、8月の予測は+3.7%と、生産は3ヵ月連続して上昇する。3ヵ月連続の上昇は、景気
が後退局面に入った97年以来、初めてのことである。この結果8月の予測指数の水準は、1
年半前の98年第1四半期の水準まで一気に回復する。
また、曜日構成まで調整できるX-12ARIMAで季節調整すると、四半期ベースでみて、97年
第3四半期から98年第4四半期まで、6四半期連続して減少してきた生産指数は、本年(9
9年)1〜3月期に+0.8%、4〜6月期に+0.5%と2四半期連続して上昇した。更に7月と
8月の予測指数の平均は、4〜6月期の平均に比し+2.6%となっている。
生産は本年に入って3四半期連続で上昇することが確実になった。6四半期続いた下落の
トレンドは、本年第1四半期から上昇のトレンドに転じたと見てよい。
【在庫調整進捗と政策効果による内需立直りが原因】
生産が回復基調に転じた基本的な背景は二つある。
一つは、在庫調整が大きく進捗し、6月の在庫率指数は103.2(ピークは昨年4月の114.
6)まで低下し、ほぼ景気上昇期の正常水準(96年平均101.0)に近づいたことである。この
ため、各業種とも在庫減らしの減産が一巡、ないしは大きくスローダウンしている。
もう一つは、@公共投資の前年比20%増、A9.4兆円減税とゼロ金利政策の効果による住
宅投資と中小企業非製造業設備投資の回復、B株価上昇などに伴なう先行き感好転がもたらし
た消費性向の上昇などから、1〜3月期の年率7.9%成長に続き、4〜6月期以降も国内需要
が立直りを示していることである。
業種別にみると、液晶や半導体などの成長部門が夏休み返上の増産体制に入ったほか、鉄
鋼、自動車などの基幹産業の生産も調整を終えて回復軌道に入っている。
【政策効果に支えられた弱々しい回復に過ぎない】
このような生産の回復は、後退を続けてきた景気全体が本年1〜3月期から回復に転じた
可能性を示している。
しかしこの回復は、在庫調整の一巡と政策効果に支えられた弱々しい回復であり、民間市
場経済の自律的回復には程遠い。従って本年の財政、金融両面の景気刺激策は、来年も維持し
なければ、再び失速するリスクをはらんでいる。
昨日午後6時15分から総理官邸で開かれた政府与党会議(政府は総理、蔵相、官房長官
など6名、自民党は幹事長、政調会長など5名、自由党は同じく4名)においては、「当面の
財政運営の基本方針」として、「引続き景気に十分配慮した財政運営を行う」ことが決った。
これは、景気がまだ極めて壊れ易い段階にあるので、来年度まで景気刺激型予算を続けなけれ
ばならないとの自自政策責任者間の共通認識を反映したものである。
【本年度下期に公共投資の息切れが起らないように15ヵ月予算を組む】
具体的には@本年度当初予算に含まれている公共事業予備費5,000億円を下期に支出するこ
と、A本年度第2次補正予算を来年度予算と合わせた15ヵ月予算という考え方で編成するこ
と、によって、本年度下期、とくに12年1〜3月期の公共投資の息切れを決して起こさない
ようにすることが決った。
また来年度の当初予算の公共事業費は、本年度当初予算(前年比+5%の9.4兆円)並みと
した上で、「物流効率化、環境・情報通信・街づくり等経済新生特別枠」と「生活関連等公共
事業重点化枠」に重点的に配分することとなった。
この政府与党会議において、自由党がとくに強調したのは、次の点である。
第1は、5,000億円の予備費使用を始めとする公共事業の重点は、経済に対する波及効果が
大きく、地方財政に負担の懸らない国家的プロジェクト(情報インフラ、関空2期・中部国際
空港などハブ空港、整備新幹線など)の繰上げ実施を中心とすることである。
第2は、景気刺激型予算である以上、歳入面でも、国民負担(介護保険料、健康保険料、
失業保険料などを含む)の引上げを行ってはならないことである。
第3は、介護保障制度については早急に結論を出し、時間切れによる国民負担の増加や支
出増加に追い込まれないようにすることである。
第4は、全体として景気刺激型ではあるが、2001年1月からの中央省庁の1府12省庁へ
の削減、国家公務員の10年間25%カットなど行政改革の成果を経費支出の削減に反映させ
ることである。