景気刺激策の手を緩めてはならない−日銀6月短観の語るもの (99.7.5)

【4〜6月は1〜3月ほどのスピードではないが、広範囲で着実な改善の歩み】
  7月5日(月)に発表された「日銀短観(6月調査)」は、足許と今後の景気を判断
する上で、貴重な情報を提供してくれた。注目すべきポイントをまとめれば、以下の通り
である。
  第1は、改善幅は事前に予想された範囲内であり、本年1〜3月のGDP統計(年率
7.9%成長)のような“surprise”ではなかった。このことから判断すると、4〜6月
の景気は改善しているが、1〜3月のGDPが示すような急テンポではないと判断でき
る。
  しかし第2に、改善は業況、需給、売上・収益、設備・雇用、企業金融などあらゆる
指標において、しかも製造業・非製造業、大中小企業を問わず見られる。その意味で、改
善の歩みは広範囲であり、かつ着実に進んでいるようだ。

【リストラで設備投資と雇用は弱いが収益は97年並みへ回復】
  第3に改善の程度を指標別、業種別、企業規模別にみると、いくつかの特徴が見られ
る。
  まず、生産設備や雇用人員の判断については、改善が極めて緩やかであり、まだ相当
な過剰感が残っている。そのため、本年度の設備投資計画も雇用計画も、依然としてマイ
ナスである。企業経営のリストラが本番を迎えていることを示している。
  他方、本年度の売上高は、アジア向けを中心に下期の輸出が急回復し、内需もある程
度増加することから、前年度のマイナスから若干のプラスに転じる。
  その結果、本年度の収益予想は、製造業・非製造業の双方において、また大企業、中
堅企業、中小企業の別を問わず、大幅な増益となっている。全規模全産業の経常利益で
は、前年度の-16.1%の減益から、本年度は+19.2%の増益に転じると予想されている。そ
の結果、売上高経常利益率も、ほぼ97年度の水準に戻る。
  日本の株価が97年の水準に戻ってきたことと、符合している。

【本年は景気後退初年度の97年水準への回復にすぎない】
  第4に、売上高経常利益率に限らず、ほとんどの指標は、改善傾向にあるとは言え、
水準は今回の景気後退が始った97年並みである。3.0%成長した95年度や4.4%成長し
た96年度の水準まで回復するのは、順調に改善を続けても本年度の終り頃になるであろ
う。
  そこから、政策に対する貴重な情報を引出すことが出来る。それは、本年度の下期に
息切れを起こさないために、10月から始まる臨時国会で需要刺激の補正予算を成立さ
せ、直ちに実施すべきだということである。政策面からの需要刺激を続けることによっ
て、始めて2000年に、95〜96年並みの景気回復の素地が出来るということだ。

【金融緩和政策は当分の間修正すべきではない】
  最後に企業金融面では、金融機関の貸出態度が緩み、借入金利が低下しているので、
企業の資金繰判断は改善し、手許流動性も上昇している。信用保証協会の保証枠拡大や日
銀のゼロ金利政策などの効果が浸透しているのであろう。
  しかし、企業金融が改善していると言っても、資金繰判断が「楽である」超になった
り、金融機関の貸出態度判断が「緩い」超になっている訳ではない。また企業金融の先行
きについて、企業は再び悪化するのではないかという懸念を示している。
  金融政策の面からも、まだ当分の間、景気テコ入れの手を緩めてはならない。