最近の金融政策を評価する (99.7.2)

【国会に直接責任を負う独立した日本銀行】
  昨年4月の新日銀法施行に伴ない、日本銀行は政府(大蔵省)に対してではなく、国民の代表である国会に
対して直接政策責任を負うことになった。これを端的に示す行為が、「通貨及び金融の調節に関する報告書」を
半期毎に国会に提出し(新日銀法第54条第1項)、質疑に応じて説明すること(同じ第2項)である。
  このように国民の代表である国会に対する説明責任(accountability)をまっとうすることにより、始めて
日本銀行の独立性が担保されることになる。
  衆議院の大蔵委員会では、6月30日(水)午前10時から午後2時45分まで、平成10年度下期に関す
るこの「報告書」の質疑を行った。日本銀行からは速水総裁、山口副総裁、黒田理事(政策担当)、小畑理事
(金融システム担当)、引馬理事(内部管理担当)の5名が出席し、各党代表の質問に答えた。
  その席には、大蔵大臣以下の大蔵省幹部の姿はなく、将に新日銀法下の日本銀行の独立性を象徴する姿であ
った。

【金融不安の鎮静と景気底入れに貢献】
  私は自由党を代表して質問に立ち、次のような意見を述べた。
  平成10年度下期の日本銀行の金融政策運営には、二つの特記すべき事柄がある。第1は本年2月から実施
した所謂「ゼロ金利政策」である。第2は昨年11月から本年4月まで実施した年末および年度末の企業金融円
滑化対策である。
  これに自自両与党が合意して法案を提出し、野党の賛成を得て成立、実施した信用保証の枠拡大がある。
  これらの結果、企業倒産件数は前年比3〜4割の水準に低下し、ベースマネーや広義マネー(M2+CD)
の前年比増加率は本年1月をボトムにジリジリと上昇し、日経平均株価も昨年10月をボトムに35%上昇し、
18千円台を窺う形勢にある。1〜3月期の実質GDPが6四半期ぶりにプラス成長に転じたのも、このような
金融面の変化を背景としている。
  その意味で、平成10年度下期の日本銀行による金融政策運営は、適切であったと評価できる。

【異常事態に対する緊急避難的措置】
  しかし、ゼロ金利政策も、年末・年度末企業金融対策も、5四半期連続のマイナス成長と金融不安という
「異常事態」に対する緊急避難的性格を持っている。いわば、劇薬であって、あまり長く使うとマイナスの副作
用が出る。
  例えば、ゼロ金利政策によって翌日物のコール・レートが0.03%になっているため、資金が翌日物のコール
市場から相対の普通預金に逃げ、コール市場は小さくなっている。この傾向が一層強まると、市場を通じる資金
配分機能が衰える心配がある。
  また企業金融対策の中には、貸出増加額の50%を日銀貸出でリファイナンスする政策があるが、これは市
中貸出金利と公定歩合の「鞘取り」を保障することになる。年度末を越えた4月に打切ったのは適切であった。

【難しいゼロ金利政策転換のタイミング】
  このように考えると、本年末や本年度末に日本銀行が再び緊急避難的対策を繰り返さなくても済むような金
融経済情勢を作り出すために、我々国会議員が、補正予算を含む適切な立法措置を講じなければならない、とい
うことになる。
  同時に日本銀行は、現状が「異常事態」であり、現在の政策がその異常事態に対応するものである事を片時
も忘れず、金融経済情勢の推移を慎重に検討し、タイミングよく次の一手を講じなければならない。それが早過
ぎたり、強すぎたりすれば、折角回復に転じようとしている景気を台無しにする恐れがある。逆に遅すぎたり、
弱すぎたりすると、劇薬の副作用が出る恐れがないとは言えない。
  予防的運営は金融政策の基本であるが、次の一手ほど難しい選択はないかも知れない。

【長期市場金利が早くも過敏に反応して上昇】
  これに対して速水日銀総裁は、「次の一手のタイミングと内容が非常に重要であると自分も思っている。ま
た現状が異常事態であるという点も、その通りだと思う。しかし、景気回復が展望出来るまでは、現在の政策を
続ける積りである」と答えた。
  この答えが市場には「速水総裁がゼロ金利政策の打切りを考えている」と伝えられたため、長期国債の市場
利回りが一時1.99%まで上昇してしまった。しかし、私との正確なやりとりが伝えられるに従って市場も次第に
落着き、利回りは再び1.6〜1.7%台となっている。
  市場関係者が景気回復を確信するまでは、2%台という長期金利水準は実現しないであろう。逆に言えば、
4〜6月期以降もプラス成長が続くならば、年内にも2%台の長期金利になるということである。