1〜3月期のプラス7.9%成長をどう読むか (99.6.10)

【本年度の政府見通しプラス0.5%の実現可能性は高まった】
  本年1〜3月期の実質GDPが6四半期振りのプラスに転じた。しかも+1.9%(年率+7.9%)の
大幅増加となったため、99年度の4四半期がいずれも前期比ゼロ成長であっても、99年度の平均
成長率は+0.9%となる(つまり99年度はプラス0.9%のゲタをはいた)。
  これで政府見通し(同時に自自政権の公約)である+0.5%成長の達成可能性はかなり高くなり、
民間の多数意見である3年目のマイナス成長持続見通しは、顔色なしというところだ。もしかする
と、1〜2%台のプラス成長もあり得る。
  私自身は、1〜3月期の実質GDPがプラスになる可能性は高いと見ていた。このホームページ
の「月例景気見通し」の4月版と5月版で、“本年1〜3月期は6四半期振りのプラス成長か”とい
う小見出しを付けて、その理由を説明しているので参照されたい。そこでの分析が適中したというこ
とである。

【設備投資、住宅投資、消費の好転は予測できた】
  そこにも書いてあるように、昨年10〜12月期までは、政策効果による公共投資増加のプラス
の寄与度を、設備投資の大幅減少によるマイナスの寄与度が相殺して了った。しかし各種の設備投資
関連指標から見て、1〜3月の設備投資落込み幅は小幅になると見た。その結果、政策効果による公
共投資増加のプラス効果が、設備投資減少のマイナス効果を上回るのではないかと読んでいた。
  実際には、設備投資は下落が小幅化するどころか、小幅増加に転じたので、私が予想した以上の
浮揚効果が出たのである。
  また、1〜3月には政策効果によって住宅投資が大きく伸びることも予測できた。
  更に、個人消費についても、家計統計の消費は前期比マイナスであったが、自動車販売統計の好
調によって修正されるので、横這い圏内の動きではないかと見ていた。実際はそれがプラスになった
のだ。

【予想外のプラス成長の背後に金融超緩和と自律的回復力】
  このように、1〜3月期の成長率が6四半期振りのプラスとなった原因は、すべて私の事前予測
通りであった。
  しかし、プラスの幅は私の予想をはるかに超えて大きかった。とくに設備投資と個人消費がそう
である。
  これは、一般の経済専門家があまり重視していなかった二つの力が働いているためだと思う。一
つは、昨秋来次々と打たれた金融面の効果である。5四半期連続のマイナス成長で実体経済が極めて
悪いので、金融面の効果で景気が上向くなどと考える人は居なかったのではないか。
  もう一つは、市場経済が本来持っている自律的な均衡回復力である。これも、目先の景気があま
りにも悪いので、忘れていたのではないか。

【次々と打出された金融面の施策を忘れるな】
  まず金融面から生まれている景気刺激効果をみよう。
  昨年の夏から秋の臨時国会で、金融再生勘定、金融健全化勘定など、合計60兆円の金融システ
ム安定化の枠組が出来た。中小・中堅企業向けの信用保証協会の保証枠が、飛躍的に拡大された。日
本銀行によるCP買オペの積極化、市中銀行貸出増加額の50%リファイナンス、社債担保貸出の実
施もあった。本年二月からは、いわゆるゼロ金利政策がスタートした。
  これらの結果、企業倒産件数は昨年11月以降現在まで前年比3〜4割減となり、年末と年度末
の企業金融は波乱なく過ぎた。日本の金融システムに対する国際的な信頼感が戻り、国際金融市場の
ジャパン・プレミアムはゼロとなった。国内金融市場では長短金利の大幅低下とベースマネー増加率
の上昇が起った。株価は日経平均で1万3千円強から1万7千円前後まで25〜30%回復し、1ドル=
110円近くまで進んでいた円高も120円前後に修正された。

 【設備投資、住宅投資、個人消費は金融面から刺激される】
  これら金融面の変化は景気と無関係であろうか。日本経済はケインズの言う「流動性のワナ」や
「投資の利子非弾力性」の状態にあると見れば、いくら企業金融が緩和しても、投資行動には影響し
ないことになる。
  しかし、1〜3月期における中小企業非製造業を中心とする設備投資の増加は、企業金融緩和に
伴なうパソコン、コピー機などの買替需要によるものと見られる。長い不況と資金繰難で、耐用年数
の限界まで事務機器を使っているとすれば、金融緩和は必ず買替投資を誘う。住宅投資の増加も、超
低金利のうちに住宅購入を急ごうという動きを反映したものである。消費性向上昇の背後には株価上
昇の資産効果がなにがしかあるのではないか。このように金融の影響を無視することは出来ないので
ある。

【市場経済の自律的均衡回復力を忘れるな】
  市場経済の自律的均衡回復力についても、需要減→生産減→雇用減・設備投資減→需要減、とい
う悪循環が直線的に進むことばかり考えていれば、考慮の余地はない。
  しかし、需要減→生産減→在庫調整完了→生産増→需要増、という自律的な均衡回復力について
は、どう見るのか。1〜3月と4〜6月の鉱工業生産増加には、このような動きがあるのではない
か。
  需要減→投資減→設備の耐用年数経過・技術的陳腐化→買替投資増、という均衡回復力が、金融
緩和の影響と並んで1〜3月の設備投資増加に働いているのではないか。
  6四半期振りのプラス成長や2四半期連続の生産増加が、企業や消費者のコンフィデンス回復に
寄与し、所得低迷下でも投資性向・消費性向を上向かせることはないのか。

【経済予測は足し算ではなく掛け算の世界】
  金融面の効果と自律的均衡回復力を無視すれば、経済予測は需要項目ごとに足許の傾向を将来に
延長するだけの「足し算」の世界になる。そうすれば、公共投資が息切れする来年の1〜3月期には
景気が失速するという答えが出る。線型マクロ・モデルの世界がこれに近い。
  しかし、計量化の難しい金融の効果、各種のストック調整原理、コンフィデンスの自律的回復な
どが働けば、そこには線型マクロ・モデルでは捕らえられない「掛け算」の世界が現われる。景気の
転換点は多くの場合この世界である。
  今後の日本経済がどちらの世界に進むのか、初秋迄には答えが出る。

【景気回復が始るかどうかは未だ不確かだ】
  9月10日前後には4〜6月期のGDP統計が出る。その頃には、7月までの生産、出荷、在庫
をはじめ、公共投資、設備投資、住宅投資、個人消費などの需要項目の関連指標も出揃う。
  その結果、金融面の効果や自律的な均衡回復力が加速度的に効いていると判断できればよい。
  しかし、それらの効果がしぼんで来るような気配があれば、来年1〜3月の執行に向けて、需要
喚起の補正予算を秋の臨時国会で組まなければならない。
  本年1〜3月期のGDPの予想外の強さに浮かれて、いまから需要喚起策の追加は要らないなど
と言い、4〜6月期以降の反動的な動きを見落とすようなことがないよう、十分注意すべきである。