政府・自民党のサプライサイド政策に対する自由党の見解 (99.6.8)

【サプライサイドで持ち切りの総理官邸】
  自民党総裁選の対立候補である加藤前幹事長が、財政赤字拡大を伴なう需要喚起策を否定し、サ
プライサイド政策を強調しているためか、このところ小渕総理の周辺でも、サプライサイド政策で持
ち切りである。
  来る6月11日(金)には、自由民主党の内部で策定したとされる「緊急雇用創出対策」と「産
業競争力強化対策」(実際は通産省や労働省が中心となり内閣内政審議室が取りまとめ、自民党に計
った)が、閣議で決定される。
  これに先立つ6月4日には、「日本経済再生への戦略」(総理の諮問機関である経済戦略会議の
最終答申)の中で提案された234の構造政策について、各省がABCにランク付けしてその実現可能
性を小渕総理に報告した。
  これらについての自由党の考え方は、いずれも書面を手渡して総理に伝え、記者発表している
が、政治記者には興味がないのか一向に報道されない。そこで以下では、私自身が執筆に関与した自
由党の見解について、ポイントをまとめてみた。

【構造改革と需要喚起策の双方が必要】
  まず当面の日本経済については、自由党はサプライサイド政策だけで立直れる程生ま易しい危機
ではないと考えている。
  「日本経済は5四半期連続のマイナス成長を続け、完全失業率は4.8%(男子は5.0%)に達するな
ど依然として危機的状況にある。本年に入り景気は下げ止まり、底這いの状態にあるとは言え、今後
緩やかな回復に向かうのか、再び景気後退に陥るのか、なお予断を許さない。昨秋の緊急経済対策の
効果と、雇用悪化・消費沈滞・投資減退の相乗的悪循環の力が、互いに拮抗しているからである。
  このような経済危機は、当面の需要不足と供給側の構造問題の双方から起っており、需要喚起策
と構造改革を、共にねばり強く実施しない限り克服できない。」

【サプライサイドの構造改革はこれだ】
  「供給側の構造改革としては、行政改革を財源とする直接税の大幅恒久減税、経済規制の撤廃、
公正・公平な統一競争ルールの確立、新産業・新技術の創出及びベンチャー企業の育成、職業能力の
開発、雇用形態の多様化などが大切である。それによって自由・自己責任および透明性を原則とする
経済に転換し、努力が報われる社会を構築しなければならない。
  今回の緊急雇用創出対策(案)と産業競争力強化対策(案)は、概ねそのような方向に沿った供
給側の構造改革であり、事の軽重や細部について問題はあるとしても、全体としてその推進を図るこ
とは適切、かつ必要な措置と考え、これを支持する。」

【次の臨時国会では需要対策を含む補正予算を】
  以上のようにサプライサイド政策として一定の評価を与えた上で、次のように念を押した。
 「しかし、このような構造改革は短期的には景気にマイナスの面もあるので、これを円滑に進める
ためにも、需要喚起策とのバランスは不可欠である。
  自由党としては、供給対策のみならず、需要対策についても、適時適切な措置を講じ、両面から
日本経済の危機を克服して参りたいと考えている。」
  この心は、秋の臨時国会に提出する補正予算には、「緊急雇用創出対策」と「産業競争力強化対
策」の実施に必要な予算のみならず、新たな需要喚起策も織込めということである。
  具体的には、財政難に陥っている地方自治体を当てにせず、中央省庁のみで実施できる施策で、
需要誘発効果の高い以下のような項目を考えている。1)今年度予算案に盛り込まれている公共事業
等予備費5000億円の活用を含め、新幹線及びフリーゲージトレイン・空港等国家的プロジェクトの繰
上・重点化実施  2)全国の小中学校生徒へのパソコン完全配備とネットワーク化のための校舎改
築、指導者の育成  3)大型しゅん渫兼油回収船の建造など流出油防除策の強化  4)高速艇等の
即時整備  5)子育て対策。

 【経済戦略会議の答申に含まれる最重要課題】
  次に「日本経済再生への戦略」については、その中で提案された234項目の提案のうち、特に強力
に推進すべきものとして、以下の5点を小渕総理に申入れた。
1.経済再建の戦略
  かねてより「経済再建なくして財政再建なし」を主張してきた自由党として、日本経済再生への
戦略ステップを3段階に分け、各段階に政策目標を掲げた点は大いに評価できる。特に第1段階
(1999〜2000年度)のバブル経済の精算にあたっては、デフレ圧力を伴うものが多いため、総需要喚
起策が不可欠である。また、第2段階(2001〜2002年度)に性急な財政再建に乗り出さず、民需主導
型の自律的成長を定着させる戦略は極めて適切である。更に第1〜3段階を通じて一貫した構造改革
を進めるためには、中長期政策へのコンフィデンスを確立することが重要である。このため、巻末に
盛り込まれている関係法律の新規立法・改正を3段階ごとの年次計画とし、フォローアップ機関を創
設して着実に実施することが望ましい。
2. 基礎年金の税方式化
  ナショナルミニマムを国の責任で確保するという観点から、基礎年金の税方式化を打だしている
点は大いに評価できる。加えて、税方式化の際には、世代間負担の公平・現行制度内格差是正の観点
から消費税をもって充てることが望ましい。また同様の視点から、高齢者医療・介護も消費税の目的
化による税方式とすべきである。
3. 税・財政・行政改革
  民間経済分野の活性化と表裏の関係にあるのが、規制緩和・地方分権などをテコとする公的部門
の税・財政・行政改革である。公的部門の改革と経済再生は車の両輪である。なかでも公共事業の個
別補助金を廃止して一括して交付する制度の創設は、財政構造改革・地方分権にも資するものであり
早期の実現を目指すべきである。
4. 市町村合併のさらなる促進
  地方分権の推進のためには自治体の体力強化が欠かせない。全国の自治体を1000以下に再編する
としているが、真の分権の担い手たるためには、介護サービス供給・公共投資計画の自主決定などの
能力をもった自立した300程度の市に再編成すべきである。これを促進するためのインセンティブと
して公共事業補助金の一括交付を再編された市から適応する。
5. コーポレートガバナンス
  政治・行政・司法等の構造改革とならんで民間市場経済においても、グローバルスタンダードと
の整合性も踏まえ、企業経営の構造改革を実施する必要がある。株式公開企業の情報開示、社内監査
制度の強化、企業役員の責任の明確化等コーポレートガバナンスの確立についてはもっと真摯に取り
組むべきである。