基礎年金の保険方式と税方式を巡る自自間対立 (99.5.25)

【保険方式では給付水準が低下し保険料が上昇するのは必然】
  今年度は5年に1回の「財政再計算」の年に当たるため、今後5年間の年金制度の在り方を決めた「年金制度改正案」を国会に提出する準備が行なわれた。
  自由民主党と厚生省は、年金審議会や社会保障制度審議会への諮問、答申を経て、従来同様、「社会保険制度」を前提とする「年金制度改正案大綱」を決め、改正案を国会に提出する準備を整えた。
  社会保険方式というのは、年金の支給を受ける前の生産年齢人口(基礎年金の場合原則として20〜64歳、学生を含む)から保険料を徴求し、原則として65歳以降の高齢者に年金を給付する制 度である。従って、少子高齢化が進み、20〜64歳の人口が65歳以上の人口に比して相対的に少なくなれば、20〜64歳の人口が支払う「保険料は上昇」し、65歳以上の人口が受け取る「給付 水準は低下」するのが必然である。それを避けようとすれば、国庫負担割合を際限なく引上げなければならないが、それも最終的には後世代の国民の租税負担となる。従って、若い人を犠牲にして高齢 者に年金を給付することに変わりはない。

【自民党・厚生省案は生産年齢人口と将来世代の犠牲の上に成り立つ】
  今回、自由民主党と厚生省が用意した年金制度改正案大綱においても、賃金スライドの中止、給付開始年齢の引上げ、報酬比例部分の支給水準5%カットなど、さまざまの形で「給付水準の引下げ」を図っている。
  他方、若い人が支払う「保険料の引上げ」については、当面は延期するが、安定財源を確保して国庫負担を現在の3分の1から2分の1に引上げる時に、同時に保険料も引上げると決めている。
  つまり、高齢化に伴なう基礎年金給付額の膨張を、「国庫負担比率の引上げ」(最終的には将来世代の負担)と「保険料の引上げ」(現在の若い世代の負担)の両方で賄うというのだ。それでも足りなくて、現在の高齢者に対する「給付水準を引下げる」という。将に踏んだり蹴ったりである。

【自由党は基礎年金を消費税で賄うことを主張】
  これでは、現在の労働年齢人口や将来世代の人々は、保険料や租税負担が増加し、しかも将来もらえる年金給付水準は下がるのであるから、生活に不安を感じるのは当然である。
  自由党はかねてからこの矛盾を指摘し、すべての日本の高齢者に支給するナショナル・ミニマムとしての「基礎年金」は、社会保険方式ではなく、消費税方式によって財源を現代の世代から広く薄く調達すべきだと強く主張してきた。
  具体的に言えば、消費税の使途を基礎年金、介護、高齢者医療という高齢者福祉の3分野に限定することを提案している。消費税の高齢者福祉目的税化である。
  現在、基礎年金の財源は13.3兆円(平成10年度)要るが、そのう約3分の2の8.6兆円は、20〜64歳の人口から保険料として徴求している。もっとも、国民年金(基礎年金)の場合、実際に保険料をきちんと払っている人はその3分の2しか居ない。

【生産年齢人口のみの保険料負担か全国民の消費税負担か】
  基礎年金の財源を、正直に保険料を納めている20〜64歳の人々のみから徴求するのと、日本国民全員から消費税として薄く広く徴求するのと、どちらが公平であろうか。
  答えは明白である。社会の担い手として必死に働き、家庭では育児や子供の教育に追われる20〜64歳の人々、それも正直に保険料を納めている人々のみに負担させるのではなく、金持ちの老人を含む総ての日本国民が、消費する度にその一定比率を基礎年金の財源として寄付する消費税方式の方が、はるかに公平である。
  保険料をゼロとし、その分を消費税で賄ったとすると、3.3%である。個人にとって保険料は直接税(所得課税)のようなものであるから、消費税方式に切換えれば、20〜64歳の人々の可処分所得は増える。反面、消費税負担は3.3%で、広く薄くなるので、この人々の負担は差し引き軽くなる。
  企業の保険料負担もゼロになるが、この分は企業に対する新しい外形標準事業税の税源にするべきだと考えている。

 【丹羽−鈴木の自自間政策協議は対立したまま】
  私は今、自由党の政調副会長として、自民党の丹羽政調会長代理と、毎日、この年金制度改正法案の取扱いについて、与党間協議を続けている。
  私は「社会保険方式が今後5年間継続することを前提にしたこの法案は認められない。基礎年金の在り方について、保険方式と税方式を比較検討し、5年以内に結論を出すことを法案の附則に明記しない限り、自由党はこの法案を政府案として国会提出することに反対する」と主張している。
  丹羽さんは「既に自民党内で年金制度改正法案大綱として決めたことなので、変えられない。この法案をこのまま提出することを認めてもらった上で、保険方式と税方式の比較検討を自・自で引続き協議しよう」と主張している。
  私は、法案が提出されてしまえば今後5年間の保険方式継続が決まってしまうし、「引続き協議」するというのは、いつ迄も結論を出さないという事と同義語なので、意味がないと思って反対している。

【自自両党間の年金問題の取扱いは失敗であった】
  自自連立内閣が発足して4ヵ月経ち、毎週火曜日の政策責任者協議(自民党の池田政調会長、丹羽政調会長代理−自由党の藤井政調会長、鈴木政調副会長。ほかに参議院代表各1名)の場で、政府提出法案の調整も円滑に行なわれるようになってきた。
  しかし、年金法案の扱いは、自自連立が不慣れの間の出来事だったので、率直に言って失敗した。
  自民党の関係部会も、厚生省も、その審議会も、自由党内の議論を無視して、年金制度改正案大綱をどんどん決めてしまった。いまとなってはメンツもあって修正できないという。その結果、自由党内の関係部会や常任幹事会が、この年金制度改正案大綱に反対であることがクローズ・アップされてしまった。
  本来であれば、与党である自民党と自由党の関係部会は併行して同じタイミングで議論し、対立点があれば毎週火曜日の政策責任者協議で調整すべきであったのだ。そうすれば、自民党内でも自民党総合政策研究所企画委員会の「年金制度のあり方を考える」や小渕総理の諮問機関である経済戦略会議(樋口廣太郎議長)の「日本経済再生への戦略」(最終答申)などが、基礎年金の税方式移行を提唱しているので、メンツにこだわらず、素直に税方式移行の協議が出来たかも知れない。
  この失敗を活かし、介護と高齢者医療については保険方式の問題点を自自間で事前に充分協議し、税方式への転換について合意を目指さなければならないと考えている。