財金分離問題はこのように決着した (99.4.26)

【自民公の財金分離覚書は野党案丸呑み時代の残滓】
  財政・金融の分離問題が事実上決着し、自民・自由両与党と公明党との間の合意を盛り込んだ金融庁と財務省の設置法案が、中央省庁改革法案の一環として、4月27日の閣議で承認され、国会に提出される見通しとなった。
  そもそも財金分離問題の発端は、昨年10月1日の自民(津島雄二)、民主(中野寛政)、公明(坂口力)の3会派間で署名した「覚書」である。そこには、財政と金融を「完全分離」し、金融庁に「一元化」すると書いてある。
  政治的に見ると、この覚書は昨年7月の参院選で自民党が参議院の多数を失ったあと、本年1月に自・自連立内閣が発足するまでの「野党案丸呑み時代」の残滓である。野党協闘に押しまくられ、野党案丸呑みの金融再生法案が成立することとなった昨年10月1日に、自民党は公明党と密かに取引し、財金分離覚書への署名を条件に、自民党と自由党が合意して提出する金融健全化法に公明党が賛成するとの約束を取り付けた。
  この密約を知らなかった民主党は、民主・公明・自由の野党協闘の枠組みで金融健全化法案を作れば、これも政府・自民党に丸呑みさせることが出来ると思って動いた。しかし結果は、自・自合意に基づいて政府が提出した金融健全化法案に公明党も賛成し、野党協闘は崩壊、民主党は一人蚊帳の外に取り残された。

【自民党は敢えて公党間の約束を破棄した】
  自・自連立政権が正式に発足した後、本年1月26日に、連立政権は「中央省庁等改革に係わる大綱」を決定した。その中では、財金の完全分離、金融行政の一元化は貫ぬかれていない(詳細はこのホームページの「What's New」欄、“財政・金融分離問題の真相”99.3.8を参照されたい)。
  この時点で、自民党の首脳は、津島雄二氏が自民党を代表して署名した昨年10月1日の財金分離覚書の一部を破棄する覚悟を固めたのだと思う。覚書に署名していない自由党から私がオブザーバーとして参加し始めた自・民・公の協議では、覚書にとらわれない立場からの私の発言に触発されるように、自民党の津島氏が覚書に反する発言を始めた(前述のWhat's New欄参照)。
  更に、自民党の池田政調会長が加わるようになると、その傾向は一段と強まり、遂に3月16日の協議では話し合いが決裂し、民主党は公党間の約束である覚書を反故にした自民党を非難し、席を立った。かくして野党案丸呑み時代の残滓は消え、自・自連立政権に公明党が協力する姿となった。

【金融行政の完全分離は貫ぬかれた】
  覚書が反故になって自由になった自民党の池田政調会長は、自由党の私と密接に連絡をとりながら、公明党の坂口政調会長と協議し、財務省と金融庁の設置法案に自自公合意の内容を書き込んだのである。
  まず「国内金融および民間金融機関の国際業務」に関する「制度の企画及び立案」については、もっぱら金融庁の所掌とすることによって、金融行政の財務省からの完全分離を貫いた。財務省に残るのは「通貨に対する信認の維持及び外国為替の安定の確保」のみである。これは「通貨の独占的発行に伴なう利益(seignorage)」の支配権に係わる問題であり、金融行政ではない。
  これを日本銀行の所管としない理由は、主として二つある。@日本銀行は行政組織ではないので、seignorageを支配することは出来ない。A日本銀行の最優先の目標である国内物価の安定は、為替相場の安定と矛盾することがあるので、「外国為替の安定の確保」を日本銀行の所掌とすることは不適切である。

【日本銀行と金融庁、財務省の関係】
  それでは、日本銀行と金融庁および財務省との関係はどうなるのか。
  金融庁の所掌には「日本銀行の国内金融業務の適正な運営の確保に関すること」と書かれているが、昨年4月に施行された新しい「日本銀行法」によって、日本銀行の金融政策の運営に関する独立性は確保されているので、実際には金融庁との関係は次の3点のみである。
  @日本銀行の考査結果についての連絡、A日本銀行に対する特融の「要請」(但し、要請するだけで、特融の決定権は日本銀行政策委員会にある)、B金融機関破綻時の日本銀行からの破綻認定の届け出。
  他方、財務省の所掌には「日本銀行の業務及び組織の適正な運営の確保に関すること(金融庁の所掌に属するものを除く)」と書いてある。これは、日本銀行は行政組織ではないので、日本銀行から行政組織に対して、新しく決定した業務や組織を届け出る必要があり、その相手が財務省であるという意味である。ここでも決定の独立性は新日銀法で担保されているので、問題はない。

【金融庁と財務省が共管する仕事】
  次に、「準備預金制度に関すること」と「金融機関の金利の調整に関すること」は金融庁と財務省の共管となっている。前者は「制度」のことであって、「準備率」の決定という政策マターについては新日銀法によって日銀政策委員会の権限となっている。また後者は「臨時金利調整法」のことであり、金利自由化が実現した今日、政策金利や闇金融の高利規制のような事柄だけに関係している。
民間部門の一般的な金利は、日本銀行の金融政策の下で市場を中心に決まるのであり、財務省と金融庁は無関係である。
  もう一つ、預金者・貯金者の保護、保険契約者の保護、投資者の保護のための機構や基金の「業務及び組織の適正な運営の確保」に関しては、金融庁と財務省の共管となる。これは、金融庁の所掌する金融行政に係わると同時に、財政的裏付けによって始めて機能する預(貯)金者・保険契約者・投資家の保護の問題であるから、金融行政としても財政政策の裏付けを必要としている。

【金融破綻・金融危機の共管は金融庁が主、財務省は限定的】
  最後まで問題になったのは、「金融破綻処理制度及び金融危機管理に関する企画及び立案」である。
  これについては、財務省プロパーの仕事と深く係わる「金融破綻処理制度及び金融危機管理」であれば、財務省と金融庁の関係は補完的であり、利益相反は少ないので、両者の共管とする、という考え方で決着した。
  従って、金融庁の所掌には「金融破綻処理制度及び金融危機管理に関する企画及び立案に関すること」という文言が一般的な形で入った。これに対し財務省の所掌には「健全な財政の確保、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保」という財務省プロバーの「任務を遂行する観点から」という限定が付いた上で、「金融破綻処理制度及び金融危機管理に関する企画及び立案に関すること」と書かれている。
  これは、共管ではあるが、一般的な所掌は金融庁、限定的な所掌が財務省という事を明らかにしたものである。つまり両者が補完的関係に立った場合のみ共管ということだ。実際、途上国政府の財政破綻に伴なうデフォルトというような財務省プロパーの守備範囲の出来事が、日本の金融破綻や金融危機の引金を引くことはあり得るので、そのような場合には財務省と金融庁の共管が望ましいことは、明らかであろう。

【財政政策と金融行政・金融政策の関係が整理された】
  以上、財政・金融の分離問題は種々の曲折を経たが、合理的な線で決着がついたと思う。財政政策(財務省)と金融行政(金融庁)・金融政策(日本銀行)との間には利益相反と補完的関係の両方があるが、利益相反の方が強い場合は分離し、補完的関係が強い場合は共管とするのがよい。何でもかんでも完全分離がよいというのは、合理的ではない。
  既に財政政策と金融政策との関係は、新しい日本銀行法の施行によって、金融政策決定は日本銀行の専管となっている。
  これに対して、財政政策と金融行政の関係が、今回の中央省庁改革に伴なう財務省と金融庁の所掌事務として整理されたのである。