下期回復予想の新方式日銀短観〔3月調査〕 (99.4.6)

−民間経済予測との食い違いをどう読むか−

【新方式の短観で明らかになった情報通信の発展】
  新方式に切換わって初めての「日銀短観」が発表になった。調査時点は平成11年3月である。
従来の日銀短観では、「主要企業」694社を主として見ていたが、対象企業を固定しているせいもあって産業構成がやや旧く、情報通信など新規成長産業のウエイトが低かった。
  今回から始った新方式では、現在の産業構成を反映するように修正されたうえ、大企業が1436社に拡大され、また中堅企業2976社、中小企業5021社と規模別のバランスもとれ、大中小全体を合計した「全国企業」の指標性も高まった。
  従来の産業分類では「運輸・通信」が一本であったために分からなかったが、新方式では「運輸」と「通信」が別々に集計されているため、「通信」の好調が際立っていることがはっきりと確認できる。例えば「通信」の業況判断DIは、この大不況下にも拘らず、大中小企業とも「良い」が「悪い」を上回って「良い超」である。それもその筈で、「通信」だけは98年度も99年度も、大中小企業揃って増収増益の計画である。

【業況判断は最悪期を過ぎ99年度は増益予想】
  情報通信以外にも、規制に守られた「電気・ガス」やある意味での発展業種である「食料」は業況、売上高、収益が比較的良い。しかしそれ以外のすべての業種は、業況判断DIは大幅な「悪い超」、98年度の業績も大幅な減収減益の計画である。
  ただ、トレンドを見ると、明るい動きが二つ出ている。
  一つは、業況判断DIの「悪い超」幅が、大中小企業共通して、製造業と非製造業の双方で縮小に転じ、先行きも更に縮小すると答えていることだ。もしこの傾向が続けば、業況判断DIのボトムは98年12月調査(前回のボトムは94年3月調査)となる。
  もう一つは、99年度の経常利益は、大中小企業を問わず、製造業と非製造業の両方で増益と予想していることだ。一番増益幅の大きいのが中小企業製造業の84.3%、小さいのが大企業非製造業の8.4%、全体を合計した全規模全産業で24.5%である。

【民間経済予測の下期息切れとは裏腹に下期回復の予想】
  この二つの明るい動きをどう読むべきか。
  99年度の増益予想は、98年度中に過剰な設備・人員・負債を思い切って整理ないし償却し、大幅な減益(全規模全産業で△23.1%)を出したことの反動とみられる。いわば「悪材料出尽し」である。
  また業況判断の底入れや99年度の売上高増加予想(全規模全産業で+0.4%)は多分に希望的観測の面が強い。特に売上高は99年度下期に前年水準を上回る(同+1.0%)とみており、上期底入れ、下期回復のシナリオを予想しているようだ。
  この点は、多くの民間調査機関の予測と食い違っている。民間の予測は、景気対策の効果出尽しで、99年度下期の景気は息切れすると見ているからだ。
  この点、経営者の直観が当るか、エコノミストの机上のマクロ計算が当るか、今後の見所である。

【自律的好循環が始まるかどうかが分かれ目】
  二つの見方の分かれ目は、景気対策の効果によって、需要増→生産増→雇用・賃金・収益の回復→需要増、という自律的好循環が始まるかどうかである。企業経営者は過去の経験に基づき、そろそろ自律的好循環が始まる頃だと直感的に判断しているのであろう。これに対してエコノミストは、雇用や設備の過剰を重視し、雇用・賃金・収益の回復→需要増、という因果のリンクが切れていると見る。
  今回の短観を見ても、雇用と設備の判断DIはなお大幅な「過剰超」であり、設備投資と雇用の減少は続くと回答している。エコノミストは、「だから需要が減って下期は息切れだ」と読み、経営者は「だから身軽になって下期は増益だ」と見る。
  私は、中期的にみるとリストラに励む経営者の判断が正しいと思う。しかし、短期的にみると総需要を重視するエコノミストの判断を無視してはならず、息切れが予想されれば直ちに国内需要刺激策を追加すべきだと思う。
  毎週火曜日に行なわれる自自政策責任者の協議において、この点の判断が下されるのは、5〜6月頃となろう。