日本経済再生の戦略を打ち立てる時 (99.2.22)

−平成11年度予算案成立のあと−

【平成11年度当初予算と税制改正が事実上確定】
  先週末、2月19日(金)に平成11年度予算案と税制改正案が衆議院を通過し、今週から参議院の審議が始った。1月19日(火)に通常国会が開会されて約1ヵ月で予算案が衆議院を通過したのは戦後最速である。
  参議院でも自・自両与党は3月12日(金)の成立を目指している。仮に成立しなくても、憲法の規定により衆議院通過後30日、すなわち3月21日(日)には自然成立する。また税制改正案については、野党の公明党が賛成しているので3月中の成立は間違いない。
  かくして、公共事業15.8%増(支払ベース)の当初予算と直接税9.4兆円減税の税制改正が事実上確定した。これに2月12日(金)に決まった日本銀行の一層の金融緩和政策と、昨年秋の臨時国会で成立した金融健全化法(不良債権早期処理を前提とする公的資本注入25兆円の準備)に基づく大銀行のリストラと相待って、三つの日本経済再生の基本政策がスタートする。

【財政、金融、金融システムの3大対策が出揃った】
  この三大政策は、自自協同修正による金融健全化法の成立、自自共同編成による予算案と税制改正などに見られるように、自民党政権に自由党が参加し、自由党の政策を自民党に受け入れさせることによって可能となった。
  この三大政策によって、長い間停滞していた日本経済が復活に向うかどうかはまだ分からない。予断を持つことなく経済の推移を注視し、これでも足りなければ遅滞なく次の手を打たなければならない。自自両党はその積もりで、政策協議を続けている。
  しかし海外の専門家達の間でも、時期は分からないが、この三つの政策で遂に日本経済も上向きに転換するだろうという見方が出てきた(例えばA.ブラインダー前FRB副議長、11.2.22付日経紙)。1年以上続いた一方的な日本批判の嵐も、ようやく転期を迎えているように思う。20日(土)にボンで開かれたG7でも、日本経済の展望に不確実性は残るものの、従来程の激しい日本批判は無かった。

【長期市場金利上昇問題は解消した】
  次の一手が必要かどうかは、1〜3月のGDPが発表され、平成10年度決算が出揃う5月から6月にならないと判断できない。
  そこで私は、2月16日(火)の衆議院予算委員会の最後の集中審議において、自由党を代表し、当面の景気問題ではなく、もっと長期的な経済再生の戦略について1時間の質疑を行った。
  まず始めに、12日に決定された日本銀行の一段の金融緩和政策と、16日の朝発表された政府の国債管理政策(長期国債の発行削減と中・短期国債の発行拡大、および資金運用部による長期国債の買オペ再開)によって、財政による景気刺激策の効果が、長期市場金利の上昇によって相殺される懸念が無くなったことを確認した(このホームページの「雑誌掲載論文」欄“国債管理政策とツイスト・オペ”1999.2.18参照)。
  宮沢蔵相は、私が2月5日(金)の大蔵委員会において国債管理政策を提言した折りに賛意を表したこと(翌6日の日経紙1面に報道された)に触れ、それ以来検討を続けた結果、前記の国債管理政策を決定した旨答えた。
  宮沢蔵相や私が予期した通り、その後の長期市場金利(国債指標銘柄)は1.6%まで低下し、円相場は122円まで軟化し、日経平均株価は14千円台を固めている(本日寄付き)。

【日本経済再生のタイム・スケジュールが大切】
  財政刺激を脅かす長期市場金利上昇問題が解消した事を確認した後、私は経済戦略会議の「中間とりまとめ」の評価について、小渕総理に質した。総理は「中間とりまとめ」を評価しており、2月26日(金)に提出を受ける最終報告は、目下経済審議会で検討中の「新中期経済計画」に反映させることも出来るのではないかと期待していると答えた。
  そこで、堺屋経済企画庁長官に対して、「中間とりまとめ」には必ずしも明示されていないが、日本経済再生のタイム・スケジュールは、次の3段階が望ましいと思うが、どうかと質した。(詳しくはこのホーム・ページの「What's New」欄“経済戦略会議の「中間とりまとめ」に対するコメント”99.2.15参照)。

  第1期  1999〜2000  景気回復最優先、バブル経済集中清算
  第2期  2001〜2002  潜在成長率プラスαで持続的成長、マクロ政策は中立的
  第3期  2003〜2008  財政再建開始、経済再生完成

  これに対して、堺屋長官は賛意を表し、とくに第2段階で直ちに財政再建に取り掛かり、1997〜98年の失敗を繰り返してはならないという点で、私との間で完全に意見の一致をみた。

【将来の直接税と保険料の引上げはなく、消費税を福祉目的化】
  このことを宮沢蔵相との間でも確認した上で、第3期の財政再建の方法についての質疑に移った。私は次の二つの原則を主張し、蔵相の意見を求めた。
  第1に、第1期の直接税減税を第3期の増税で埋めてはならず、行政改革による歳出削減と潜在成長経路復帰に伴なう自然増収で埋めるべきである。
  第2に、基礎年金、高齢者医療、介護の三つについては保険制度を廃止し、消費税の使途目的をこの三つに限定して賄うべきである。高齢化に伴ないこの三つの支出が増えた場合は、第3期以降の消費税率引上げはやむを得ない。
  以上の二つの原則を明示するならば、国民は将来の@直接税と保険料の引上げはなく、またA三つの給付水準低下と保険料負担引上げもない、と判断して安心し、生涯設計は安定し、消費態度も正常化するであろう。
  これに対して宮沢蔵相は、将来の消費税引上げの可能性を蔵相として認める訳にはいかないという点を除けば、全体の考え方には賛成だと述べた。

【行政改革を歳出削減に結び付けることが大切】
  この戦略の中で最大の難問は、行政改革による歳出の大幅削減である。そこで行革担当の太田総務庁長官に次の事を尋ねた。
  行政改革による歳出削減は、@規制撤廃・緩和によって公共部門の仕事を減らし、中央政府と地方自治体の仕事を減らす、A地方分権によって中央政府の仕事を減らし、他方で地方自治体の合併を進めて無駄を排し、地方分権の受け皿を作る、B公共部門の事業のアウトソーシング(PFIなどによる民間への業務委託)を進める、C寄付金の課税所得控除などによって民間NPOの活動を活発化し、公共部門の仕事を減らす、などが主な方法と思われるが、太田長官はどう思うか。
  これに対して長官は、現在取り組んでいる中央省庁再編などの行政改革は、いわば質的な構造の改革であり、量的な歳出削減の準備である、と答えた。私は、第1期のうちにも、一刻も早く量的な歳出削減に取り掛かるべきだと主張し、やや逃げ腰にも見えたがそれ以上深追いはしなかった。

【自治体の合併をどうやって促進するか】
  そこで自由党から唯一人入閣している野田自治大臣に対して、自治体の合併を促進し、地方自治の受け皿としての30〜40万人都市を日本に300〜400作るには、何かよい切っ掛けを作る必要があるのではないかとして、二つの事を提案した。
  一つは、小渕内閣の「生活空間倍増戦略プラン」の中に、日本全国に400程度の広域的な「地域戦略プラン」を作るという計画があるが、これなどは複数の自治体が協力し、縦割り行政を打破してプランを作るのであるから、自治体が合併した方が住民にとっても利益が大きいという実績を作る格好の手懸りになるのではないか、と尋ねた。
  もう一つは、介護サービスの供給体制は小さな自治体の能力を超えているので、合併して30〜40万人の自治体を作った方が住民が安心して介護サービスを受けられるという事を、もっとPRすべきではないかと述べた。
  これに対して野田大臣は、いろいろ難しい問題もあるが基本はその通りであり、この二つ以外にもさまざまの地方行政サービスが自治体の合併によって向上することを、もっと訴えて合併を促進したいと答えた。

【national performance reviewの機関を作れ】
  この予算委員会の質疑を結ぶに当たり、最後に小渕総理に対して次の事を要望した。
  米国では経済計画を立てた場合は、経済が計画通り推移しているかどうかを看視するため、“national performance review”を行なう機関を作る。日本でも、経済戦略会議が最終報告を出して終りになるのではなく、経済戦略会議と間もなく期限がくる規制緩和委員会(宮内委員長)の二つを母体にして、看視機関を作ってはどうか。
  これに対して小渕総理は、yesともnoとも言わず、十分考慮してみるとの事であった。新聞報道によれば、目下政府内部でいろいろと検討しているようである。