経済戦略会議の「中間とりまとめ」に対するコメント (99.2.15)
【全体の構想、とくにマクロ経済の見方と政策は概ね賛成】
小渕総理大臣の諮問機関である経済戦略会議は、昨年12月23日に「中間とりまとめ」として「日本経済再生への戦略」を発表したが、伝えられるところによると、今月26日には最終報告を発表するという。
そこでこのホームページに中間報告に対する私のコメントを掲げ、最終報告に間に合うよう、インターネットを通じて経済戦略会議に伝えたいと思う。
日本経済の危機的状況についての現状認識、日本的システムの再構築による経済再生の戦略、それによって実現する21世紀の新しい成長ステージ、という全体の考え方は、私がかねて主張している事や自由党の基本政策である「日本経済再生へのシナリオ」と大きな違いはなく、概ね賛成である。
とくに、「第1章 経済回復シナリオと持続可能な財政への道筋」、「第2章
健全で創造的な競争社会の構築とセイフティ・ネットの整備」は、私や自由党の考え方とまったくと言っていい程同じであり、そのせいか良く書けていると思う。
【タイム・スケジュールと戦略的ポイントが不明確】
しかし第3章の金融システム、第4章の産業、第5章のインフラは、問題が絞り切れておらず、提言ばかり多くて経済全体と係わる戦略的なポイントがどこか分からない。
この「中間とりまとめ」の最大の問題点は、日本のシステムを改革して新しい成長ステージに達しようとする場合の戦略的ポイント(政策的な入口や推進力となる政策)が明示されていないことだと思う。別の角度から言うと、タイム・スケジュールとそれぞれの段階における最重要の政策が明示されておらず、ただ全編にわたって164もの提案がちりばめられていることだ。
【最初の4年間は財政再建に取掛るべからず】
私が経済戦略会議に提案したいタイム・スケジュールは、以下の通りである。
まず、経済再生に要する期間を1999年度から2008年度までの10年間とする。
第1期は、1999年度と2000年度の2年間で、デフレ・スパイラルを避け、景気回復を図ることを最優先とする2年間である。この考え方は、「中間とりまとめ」に書かれている経済戦略会議の考え方と基本的には同じである。
第2期は2001年度と2002年度の2年間で、潜在成長率プラスα(デフレ・ギャップ縮小分)で持続的成長が始まる時期だ。この時期のマクロ経済政策は、第1期のように景気刺激型ではなく、さりとて第3期のように財政再建型でもなく、中立型でなければならない。増減税なし、公共投資横這いである。
【中立的なマクロ経済政策の時期が必要】
橋本内閣の最大の失敗は、景気刺激政策で95年度3.0%成長、96年度4.4%成長と景気が回復したにも拘らず、その直後の97年度に中立型の政策ではなく、いきなり財政再建型の予算(9兆円の国民負担増加と3兆円の公共投資削減)を執行し、再びマイナス成長、それも2年連続のマイナス成長にしてしまったことである。この愚は避けなければならない。
第3期は2003〜2008年度の6年間で、経済再生戦略の完成期である。基礎的財政収支(公債費を除く歳出と公債を除いた租税等の歳入の収支)を2008年度までに6年間かけて均衡させることを目指す。橋本内閣がやったように、いきなり12兆円もの財政赤字削減(9兆円の国民負担増と3兆円の公共投資削減)を目指して経済を失速させ、逆に12兆円以上の赤字を拡大するような愚を繰り返さないために、6年間かけて漸進的に行うのだ。
【第1期のマクロ経済政策は拡張型】
以上の三つの時期について、夫々戦略的なポイントがどこかを明示しなければならない。
第1期の初年度、すなわち1999年度には、支払ベースで15.8%の公共投資増加と9.4兆円の直接税減税(ネット・ベースでは5.4兆円減税)が当初予算で準備された。しかし、設備投資の落込みで公共投資の増加が相殺され、個人所得や企業利潤の落込みで直接税減税の効果が相殺され、デフレ・スパイラルが発生する危険性もまだ残っている。
その時は、時限的な投資減税やクレジット・タックス、消費税の一時凍結と段階的再引上げなど、民間支出の前倒し(異時点間代替=inter-temporal
substitution)を誘う政策を大胆に打つべきであろう。
また幸いにして99年度の経済からプラス成長に転じた時は、年度中にマクロ政策の追加は不必要であるが、2000年度の当初予算は、もう1回拡張型にしなければならない。所得課税と法人課税について、ネット減税となる形の抜本的、恒久的な制度改革が望ましい。また過剰設備や不良債権の償却・廃棄に伴なう欠損金の繰り越し期間を延長し、第1期の2年間に一挙に償却・廃棄を進めるべきである。公共投資も、中部国際空港、関空2期、整備新幹線など早晩完成させなければならない国家的な基幹事業のスピード・アップを中心に、減少しないようにする必要がある。
【公共部門の簡素化・効率化に全体の成否がかかる】
第1期の2年間には、これらの拡張型マクロ経済政策と並んで、第2期以降の民間支出主導型の自律的成長を可能にする構造改革に着手しなければならない。前述の償却・廃棄促進もその一つである。
しかし最大のポイントは、公共部門のアウトソーシング(規制撤廃、官業の民営化など)によって、簡素で効率的な公共部門と活気ある民間部門を創り出すことだ。この目標に向けて、この期間にすべての政策を集中しなければならない。勿論、公共部門の簡素化・効率化が完成するのは第3期であるが、第1期から着手しなければ、第2期と第3期に民間支出主導型の自律的成長軌道には乗れない。この成否こそが、10年間の「日本経済再生シナリオ」の成否を決する。
自自協議では、大臣の数を従来の20人から2001年には14人に減らし、国会議員を100人減らし、国家公務員を10年間で25%減らし、3300ある地方自治体を取敢えず1000に減らすことで合意した。
これらは、公共部門のアウトソーシングによって始めて可能になる。また自治体の数を減らすには、介護サービスを供給できる最低規模、公共事業計画を自主的に決められる最低規模(人口20〜40万人)を目標に、合併・整理を促進するべきであろう。それによって無駄な総務・庶務・秘書機能が整理され、効率的な1000の自治体に整理・統合するのである。
【直接税と社会保険料の負担は将来にわたって増やさない】
もう一つ、計画全体の成否を左右するのは、税制と社会保障制度の抜本的改革である。第1期に減税した直接税(所得課税、法人課税)と社会保険料の合計は、第2期中は勿論のこと、第3期以降も増税してはならない。公共部門の簡素化・効率化による歳出の削減と、民間部門の活性化・持続的成長に伴なう税収の増加によって、第1期の直接税減税の財源を埋めるのである。それによって、第2期、第3期を通じ、個人と企業を直接税・社会保険料増加の恐怖から解放し、安心感を与え、やる気を起こさせなければならない。
【高齢者社会保障は保険料ではなく消費税で賄う】
他方、基礎年金、高齢者医療、介護サービスの三つは、すべての日本人に保証すべきナショナル・ミニマムであり、制度に加入し保険料を支払う人にのみ保障する保険制度にはなじまない。このことは、皆保険、皆保険と言いながら、大勢の保険料未納者を抱えている現状からみても明らかである。
そこで、第1期から、この三つの保険制度を廃止し、消費税をこの三つの高齢者社会保障に限定して使う目的税化を目指し、徐々に動き出さなければならない。そして第3期には、この三つを賄うため、消費税の段階的引上げに取り掛かる。
その際、この三つの社会保険料はゼロとなるが、個人負担分については所得課税減税と合わせた合計で負担を減らす。企業負担分については、新たに外形標準の法人事業税(地方税)を創設し、その税源とする。
以上の改革によって、将来の社会保障給付水準の低下と社会保険料の負担増加は回避されるので、その恐怖から解放された国民は、第2期、第3期を通じ、安心して生活設計をたてることになる。消費税の増税については、その使途がすべての日本人に保障する高齢者社会保障に限定されているので、使途についての透明性を維持する限り、国民のやる気を阻害することはないであろう。
【最終報告ではタイム・スケジュールと戦略的ポイントを示せ】
以上、日本経済再生のタイム・スケジュールと各段階における戦略的ポイントについて、私の提案を示した。
164に達する改革の具体的提案が意味ないと言うのではない。ほとんどの提案には賛成であり、大切であると思うが、改革の成否を握る戦略的ポイントをはっきりさせないと、164の提案も生きてこないのである。
数値目標の明確化には無理があろうが、タイム・スケジュールと各段階の戦略的ポイントだけは、最終報告で明示することを期待する。その上で、タイム・スケジュール通り日本経済が推移しているかどうかをチェックする「看視機関」(national
performance review)を経済戦略会議と解散予定の規制緩和委員会(宮内委員長)を母体に立ち上げることを、合わせて提言すべきであろう。