平成11年度予算案と景気の関係で何が問題か (99.1.28)

−通常国会予算委員会始まる−

【日本の将来を決する重要法案が目白押し】
  1月19日(火)から第145回通常国会が始った。会期は6月17日(木)までの150日間であるが、平成11年度予算案と関連法案など例年の重要法案のほかに、日米ガイドライン法案、中央省庁再編法案、情報公開法案など日本の将来を決する極めて重要な法案を含め、約120本の法案が目白押しである。150日間と言っても土日祝日を除けば100日余りなので、平均して一日に1本強の法案を上げなければならない。
  自・自連立政権の一つの大きな目的は、スピードのある政治であるが、まずこの通常国会がその試金石となる。

【11年度予算と経済再生の戦略目標との関係が重要】
  本会議における施政方針演説と各党代表質問のあと、今週(25〜29日)から予算委員会における予算審議が始った。
  私は27日(水)の総括質疑において、自由党を代表して討論に立った。
  この予算案は、昨年11月19日の小渕・小沢間の自・自合意に基づき、私も参加した12月中の自・自政策責任者協議において両党協力して編成したものである。
  とは言え、予算編成は8月の概算要求から5ヵ月かけて積み上げたものなので、12月の段階で参加した自由党の意見で大きく変えられるものではない。大事なことは、自・自両党とも、この予算執行によって2年間続いたマイナス成長を平成11年度にプラス成長に転じ、12年度には回復軌道に乗せ、13年度以降は政策の手助けなしに内需主導型の安定した成長を持続させようという決意、いわば戦略目標を共有したことである。
  従って私は、このような戦略目標を実現する上で、政策執行上、どのような点に目を配ばるべきかという観点から討論を行った。

【大型直接税減税の財源は行革による歳出削減】
  まず9.4兆円の直接税大型減税は、取敢えず赤字国債が財源であるが、国民の間では、長期的に見た場合将来の大増税で埋められることになるだろうと恐れられている。これでは減税をしても、将来の増税に備えて貯蓄に回ってしまい、景気刺激は限られる。
  そこで小渕総理に対し、「自・自連立政権は、9.4兆円の直接税減税の将来の財源は、増税ではなく、抜本的行政改革による中央・地方政府の歳出削減である」ことについて、確認を求めた。
  総理は本年1月22日の自・自合意、すなわち総理を除く大臣の数(現在18人)を14人まで減らす(一時的な特命大臣は3人まで可)、国家公務員を平成12年度以降10年間に25%削減する、という合意を踏まえて中央省庁の行革に全力を挙げると答えた。

  私は、自由党を代表して入閣した野田自治大臣の答弁を引出しながら、中央省庁の人員削減は思い切った規制撤廃と地方分権による組織の簡素化・効率化によって始めて可能になること、更に地方分権の受皿となる平均人口30〜40万人の地方自治体300〜400に、現在の3,300の県市町村を合併再編することによって、始めて地方自治体の行革、経費削減が可能になることを主張した。

【10年度下期から11年度下期まで息切れなく公共事業を伸ばす】
  次に、公共事業費の執行に際しては、11年度下期に息切れが出ないようにすることが、11年度のプラス成長転換にとって極めて大切であることを指摘した。
  平成11年度の公共事業費は、平成10年度の第1次補正予算から0.9兆円、第3次補正予算から2.3兆円がズレ込んでくるため、支払ベースでは前年比15.8%の伸びとなる。従って、10年度からのズレ込みを11年度上期に支払い、11年度予算は上期3、下期7の割合で支払うならば、上期下期をつうじて15.8%の伸びが維持されるのである。
  これに対して宮沢蔵相は、「まことに適切なご指摘をいただきました。その通りであります」と答え、設計や地方接渉がうまく行き、計画した公共事業が支障なく行なわれるならば、息切れはないと述べた。

【マネーサプライの伸びを高く保て】
  このように財政政策を拡大して行った場合、マネーサプライが潤沢に供給されていないと、金利上昇やそれに伴なう円高が起こり、景気刺激が相殺されてしまう。1月13日付のAsian Wall Street Journalで、マネタリストの総師でノーベル賞受賞者のM. フリードマン教授が、また1月20日のFinancial TimesでMITのP. クルーグマン教授が、そのことを警告している。
  金融市場は超緩和で超低金利の状態にあるにも拘らずマネーサプライの伸びが低いのは、言うまでもなく銀行の貸し渋りに伴うクレジット・クランチによるものだ。これは不良債権の早期処理に伴う自己資本比率の低下、金融ビックバンに伴なう金融再編・経営リストラなどが原因なので、簡単には解消しない。
  従って、信用保証協会の保証枠新設・拡大や日銀による長期CPオペ、銀行貸出リファイナンス、社債担保貸出などによって、貸し渋り緩和策を講じる以外にない。
  これらの措置が昨年末に向って採られた結果、広義マネーサプライの季節調整済み前月比の3ヵ月移動平均値は、昨年央の3.5%から年末には5.5%に高まっている。
  私は参考人として出席した速水日銀総裁に対し、年度末の3月に向って、このようなマネーサプライの伸びを維持することが極めて大切であることを確認し、その努力を要請した。

【1〜3月と4〜6月の景気が勝負どころ】
  最後に「変化の胎動」と述べてやや浮かれ気味の堺屋経済企画庁長官に対し、昨年秋頃の動きは一時的、ないしは統計技術上の誤りによるもので、経済の実勢は引続き厳しいことを指摘した。
  第1は、通産省発表の季節調整済み生産指数が、曜日構成の調整のないX-11であるためミスリーディングであることだ。曜日構成を調整できるX-12 ARIMAで季節調整すると、9月と10月の生産水準は低くなり、景気動向指数の一致系列は50%割れ(景気後退)となる。
  第2は、11月の新車登録台数や百貨店・スーパー売上高の好転は、新しい軽乗用車の発売・早期の寒気到来、消費税還元セールなど一時的な要因によるもので、12月以降は再び悪化していることだ。
  従って、昨年10〜12月期の成長率が5四半期ぶりにプラスに転じたとしても、本年1〜3月期もプラス成長が続く保証はない。むしろ、年度末における企業や金融機関の思い切ったリストラで、雇用情勢は一段と悪化し、その影響でマイナスに戻る可能性もある。
  私は堺屋長官に対し、本年1〜3月と4〜6月が勝負どころであり、長官は予断を持たずに景気動向を観察すべきであると指摘した。
  その上で小渕総理に対し、万一その時期に景気が悪化し、プラス成長がおぼつかなくなった時は、毎週持たれる自・自政策責任者会議で検討し、遅滞なく追加策を講じるべきだと述べた。その追加策には、是非とも「異時点間代替(inter-temporal substitution)」を誘う政策、例えば時限立法による加速度償却やクレジット・タックス、消費税一時凍結と再引上げなどを含めるべきだとも述べた。