自・自連立内閣は構造改革実現の第1歩 (99.1.18)

−改革に四つの道筋がついた−

【「部分連合」では労力と時間が掛かり過ぎる】
  1月14日(木)、自由党幹事長兼政調会長の野田毅氏が小渕内閣に自治大臣として入閣し、自・自連立内閣が発足した。日本の現代史の中で、これは何を意味するのであろうか。
  自由党が自民党と連携しても、参議院で過半数に達するわけではないので、「政権維持の数合わせ」という見方は当たらない。
  自民党側からみると、昨年7月の参議院選挙で過半数を大きく割り込んだ結果、国民の批判に応え、しかも政権を維持し続けるためには、これ迄の政策を転換し、国民に支持されている他の政党の政策を取り込んでその党と連携しなければならない。そこで第142回臨時国会では、法案ごとに連携する野党を探す「部分連合」方式をとった。金融再生法案は民主と公明、金融健全化法案は自由と公明、国鉄債務処理法案は自由と社民、といった調子である。
  しかしその結果、他党と妥協点を見出すために著しく労力と時間が掛かり、挙げ句の果てに野党の修正案を「丸呑み」させられることもしばしばであった。しかも国民世論からは、著しくスピードを欠いた法案審議に飽き飽きして、国会不信の声が上った。

【基本政策の明確な自由党以外に連立の相手は居ない】
  このため自民党は、法案ごとに相手が変わる「部分連合」ではなく、重要法案のすべてについて事前に政策協定を結び、「連立政権」を作った方が、スピードのある法案審議が実現出来ると考えるようになった。
  連立の相手として、自民党は当然数の多い民主党や公明党を考えたが、この二つの政党は広範な分野についての基本政策を公表していないし、内部で決めてもいない。とくに、次期通常国会の重要法案であるガイドライン法案の関係では、日米安保条約に基づく日米協力や日本の安全保障についての基本原則に関して意志統一が図られていない。旧社会党から旧自民党までも含む民主党では内部の意見が割れており、公明党も支持母体である創価学会との間で意見調整が出来ないでいる。
  その点自由党は、所属国会議員全員で討議、決定した基本政策、『日本再興へのシナリオ』を公表している。これを読んだ多くの自民党議員は、「目線が同じだ」(野中官房長官)と感じたようである。とくに小渕派と反主流派の危機突破議連の議員達が、強く感じたようだ。
  こうして、数の少ない野党第3党の自由党と政策協定を結び、連立政権を組むという戦略が自民党の多数意見となったのである。

【連立自体には意味がなく、改革実現の第一歩に意味がある】
  自由党は『日本再興へのシナリオ』を発表した時から、「この政策を受け入れる党であれば、たとえ共産党とでも協力する」と言い続けている。従って自民党と協力しない理由はない。昨年11月19日の第1回小渕・小沢会談の合意書は、そのような立場で作られた。
  自由党にとって、自民党との「連立」そのものは、あまり意味がない。それによって、自由党の基本政策、『日本再興へのシナリオ』が実現に向かい、日本の構造改革の第一歩が踏み出されることに意味がある。
  従って自由党は、最後の最後まで、政策合意が連立の前提であると主張し続け、五つのプロジェクト・チームで政策協議を続けたのである。その結果、一番難航していた安全保障について一定の合意に達した1月13日に、自由党は最終的に連立のゴー・サインを出し、翌14日(木)に自・自連立内閣が組閣されたのである。

【小さな政府を実現する戦略的な第1歩】
  では、どのような分野で、自由党が主張していた改革の第一歩が踏み出されたのか。少なくとも、四つの分野で改革の道筋がついたと思う。
  第一は行政改革である。総理大臣を除く閣僚の数を、現行の20人から自・自連立内閣では18人に減らし、2001年4月からの省庁再編時には更に14人に減らす。国会議員の数を衆参両院で50人づつ、合計100人減らす。国家公務員の数を10年間で25%減らす。
  このような中央政府の人員削減は、規制緩和と地方分権によって仕事と組織を減らすことと表裏の関係にあるが、更にもう一つ、戦略的に大きな目標がある。
  それは、中央政府が血の出る思いで人員を削減し、行政改革を断行することによって、地方自治体に対しても、合併などによる抜本的な行政改革を迫り、実現して行くことである。

【野田自治大臣が地方自治体の再編を推進する】
  現在地方自治体は、県市町村を合わせて3300もあるが、地方分権の受皿となり、地域の行政やインフラ整備を自分で決定する能力を持つ最適規模は、最低人口15万人、平均人口40万人である。ということは、1億2千万人の日本では、平均40万人として300の地方自治体があればよい。
  行政改革の最終目標は、地方分権の受皿となる300の地方自治体に、現在の県市町村を再編することだ。そうすれば、地方自治体の首長の数、議会と議員の数、それらを支える総務・庶務・秘書部門の数は、いずれも11分の1に減る。これによって大きな歳出削減が可能となるであろう。
  現在自・自連立内閣で実施しようとしている所得課税・法人課税の9.4兆円に達する大型減税の財源は、これで簡単に出る。何故なら、現在中央と地方の重複を除いた歳出合計は約150兆円であり、地方自治体を11分の1に減らせば、その1〜2割、15〜30兆円は容易に節約できるからである。将来の増税を心配する必要はない。
  このように簡素で効率的な中央・地方政府を作る行政改革の戦略的第1歩が、自・自連立内閣で踏み出される。しかもその担当大臣は、自由党から入閣した野田自治大臣である。

【明治以来の国会政治の大改革】
  日本の構造改革の第1歩は、政治改革の分野でも踏み出された。それは明治以来の国会審議の在り方を改革し、政策決定の実権を役人の手から政治家の手に取戻すことである。
  現在の政策決定は、各省庁の事務次官、局長などの役人が省議で決定し、大臣に報告し、法案を作成して事務次官会議で裁決した上、閣議に提出され、形式的に閣僚が署名する。従って、その法案が国会に提出された後は、各省の局長以下が「政府委員」という名の下に大臣に代わって答弁する。
  この明治以来の仕組を抜本的に変えるため、自・自連立内閣は、政府委員制度を廃止して国会から役人を締め出し、代わって各省庁のラインに3人以内の副大臣を入れ、更に数名の政務官を副大臣を補佐するスタッフとして入れる法案を、次の通常国会で成立させる。これによって、約100人の与党議員が副大臣や政務官として各省庁に入り、役人と共に政策決定を行ない、総ての答弁を役人の居ない国会で行うことになる。
  この明治以来の大改革により、政策決定は政治家の手に取戻され、国会は政府(大臣と官僚)に政治家が質問する形から、政府・与党の政治家対野党の政治家が対決して討論する形に変わり、官僚は政策の選択肢の企案と本来の行政に集中することになる。
  この政府委員制度廃止と副大臣・政務官制度の導入も、自由党から入閣した野田大臣が総理特命事項として担当する。

【湾岸戦争当時とガイドラインの考え方には違いがある】
  第三の改革の道筋は、安全保障の基本政策の明確化である。政府・自民党は、安全保障の基本政策を明確化せず、憲法解釈も変えないと言いながら、なし崩し的に自衛隊の役割を拡大しようとしていた。それは、湾岸戦争の時には国連決議に基づく多国籍軍の後方支援に、日本の自衛隊はまったく参加せず、終り頃にお金だけ出して世界の失笑を買ったが、いま国会に提出されているガイドライン法案では、日本の安全保障を脅かす「周辺事態」が発生した時は、米軍への洋上補給や米国の海上封鎖に自衛隊が協力できるとしていることだ。
  つまり、「武力行使と一体化」しない後方支援について、湾岸戦争当時はダメだと言い、ガイドライン法案ではよいと言っているのである。
  そこで自由党は、次の点で自民党と合意し、安全保障の基本政策を明確化することになった。

【日本は戦闘地域以外の後方支援に参加】
  まずガイドライン法案は、日米安全保障条約に基づく日本の周辺事態への対応であって、国連決議に基づく多国籍軍や国連軍への参加問題とは異なる。従って、ガイドライン法案に決められた海上封鎖のための船舶検査は、国連の決議がなくても出来るという解釈で合意した。
  又「周辺事態」に対応するための基本計画について、ガイドライン法案では「国会報告」でよいとされているが、自由党の主張通り「国会承認」(事後承認を含む)が要るということで合意した。
  更に、ガイドラインのケースであれ、国連決議に基づくケースであれ、後方支援については、従来政府・自民党が基準としてきた「武力行使と一体化」しない範囲というのでは、前方と後方の区別がつかない近代戦には不向きなので、「戦闘地域」以外の後方支援(補給、輸送など)という概念で合意した。
  以上の自・自合意に基づき、更に野党の意見も参考にしながら、ガイドライン法案は国会審議の過程で修正され、通常国会で成立することとなろう。またその過程では、安全保障の基本政策に関する討議が深まり、日本の危機管理体制の整備に向って前進することになる。

【将来の消費税は高齢者社会保障の目的税になる】
  最後に経済改革の分野でも、新しい第1歩が踏み出された。それは、将来の消費税は、基礎年金、高齢者医療、介護という高齢者社会保障の財源に限定して使うという大原則が合意され、平成11年度当初予算の総則に、その旨書き込まれることとなった。
  これは、税制と社会保障制度の大改革であり、21世紀の少子高齢化社会に備えた構造改革の第1歩として極めて意義深い。
  自由党がかねて主張している通り、ナショナルミニマムとして総ての日本人に保障する基礎年金、高齢者医療、介護は、保険料を支払う保険加盟者にのみ保障する保険制度にはなじまず、国民全体が負担する消費税で支えるべきである。この大改革への一歩が踏み出されたのだ。
  自由党は、景気対策として消費税を一時凍結した後、そのような福祉目的税化した新しい消費税を立ち上げるべきだと主張しているが、今回取敢えず、長期の方向としての福祉目的税化が、力強い第一歩を踏み出した。