99年、政治が動く、経済は…? (99.1.4)
−1999年年頭所感−
【具体的な政策合意なしに自・自連立はあり得ない】
1999年の日本の政治は、自・自連立が成立することによって、ようやく指導性を発揮し、危機突破と構造改革に動き出すだろう。
98年年末、12月29日の午後10時から40分間、総理官邸において小渕総理(自民党総裁)と小沢党首(自由党)の党首会談が二人きりで行われた。ここで11月19日の合意事項(このホームページのWhat's
New欄「自・自合意は日本を救えるか」 98.11.20参照)を実現するため、自・自間の五つのプロジェクトチームによって細部を詰めることが、自・自連立内閣発足の前提条件であることが確認された。具体的な政策合意がない限り、連立政権発足はあり得ない事が両党首によって確認されたのである。
五つのプロジェクトチームのテーマは、?政府委員制度の廃止、副大臣制度の導入に関する協議、9国会議員の定数削減に関する協議、政安全保障の基本原則に関する協議、い中央省庁削減・公務員定数削減に関する協議、連経済・税制に関する協議、である。メンバーは以下の通り。
〔自民党〕
@○玉沢徳一郎、大島 理森、西田 吉宏(参)、遠藤 武彦、能代 昭彦
A○中山 正暉、衛藤征士郎、細田 博之
B池田 行彦、〇 丹羽 雄哉 、玉沢徳一郎、中山 太郎
C〇 牧野 隆守、小里 貞利、大原 一三
D池田 行彦、〇津島 雄二、丹羽 雄哉
〔自由党〕
@〇 中井 洽、井上 喜一、平野 貞夫(参)、戸田 邦司(参)、西田 猛
A〇 中西 啓介、西野 陽、米津 等史
B野田 毅、 〇二見 伸明、 田村 秀昭(参) 、東 祥三
C〇 中村 鋭一 、岡島 正之、泉 信也(参)
D野田 毅、〇 藤井 裕久、鈴木 淑夫
(注) 〇印は責任者。(参)は参議院議員。
【“政策中心の政治”を理解できない自民党とマスコミ】
五つのプロジェクトチームのうち、私が参加しているDは、99年度の税制改正と予算編成を自・自両党が協力して行なう過程で、既に何回も開かれている(このホームページのWhat's
New欄「自・自政策責任者協議のポイント」98.12.7、「第2回自・自政策責任者協議は一定の前進」98.12.10参照)。Aについても、既に12月23日に第1回が開かれた。@とBについては、12月28日(月)の自・自幹事長会談におけるプロジェクトチーム設置の合意を受けて、翌29日(火)午前中に急遽第1回が開かれた。
@〜Bのテーマについては、1月19日から始る第146回通常国会までに自・自両党が細部に至るまで合意しない限り、自・自連立内閣が発足しても閣内不統一となり、国会で立往生し兼ねない。だからこそ自由党は、具体的合意なしに連立内閣の発足はあり得ないと主張し、自民党が折れて内閣改造が延期されたのである。これに対し、CとDは、経済情勢(D)や野党の態度(C)をにらみながら、通常国会中も継続協議することになろう。
「政策合意なくして連立なし」というこの自由党の基本姿勢を、自民党もマスコミも理解していなかったため、「小沢党首は副総理にしない」「入閣は1人で充分」「自治相が空くからそれを渡す」など、政策とは無関係の人事ばかりを自民党の一部の人々が流し、マスコミが書き続けた。古い政治体質丸出しで、呆れるばかりである。
また急遽開いた29日のプロジェクトチームに、自民党のメンバーが揃わず、古賀国対委員長が代理出席して平謝りに謝ったり、自民党側の責任者が11月19日の党首間合意事項について、「総務会の了承を取付けていないので留保したい」など言い出す始末であった。自民党は、党首が他党と合意したことも、総務会が了承しないと最終決定とならないような統治能力を欠く政党なのか。
【政府委員廃止、副大臣制導入は明治以来の国会改革】
このように自・自協力は今のところガタガタしているが、いま始った「政策中心の政治」は、1999年中に後戻りすることはなく、次第に定着して行くだろう。
まず@の政府委員制度の廃止、副大臣制度の導入については、旧新進党以来の主張であり、旧新進党のメンバーが加わった野党の民主党と公明党も支持している。
自民党も、大臣並みの認証官である副大臣制の導入は、大臣の数が減るのを補う制度として賛成している。しかし政府委員(官僚から任命)制度の廃止については、何らかの形で官僚を答弁に参加させる制度を残したいとしている。認証官のポストは増やしたいが、官僚に助けてもらわないと国会答弁に自信がないというのが本音だとすれば、真に情けない。
この改革の狙いは、「お上の政府(大臣と官僚)」が、高い席に座り、平土間に座った「民衆の代表(国会議員)」の質問に答える、という明治以来の国会審議の形式、すなわち「質疑」をやめ、「政府・与党(大臣、副大臣、政務次官)」と「野党」の国会議員同志が同じレベルのフロアーに座って相対し、「討論」する形に改めることにある。従って、政府委員という名の官僚を国会審議から排除することと、与党議員が副大臣や政務次官として大勢政府に入ることは、表裏一体でなければならない。
幸い、11月19日の党首間合意では、この点について基本的方向で一致しているので、@のプロジェクトチームでこの点の具体案が出来ない限り、党首合意違反となり、自・自連立内閣は発足しない。逆に言えば、自・自連立に自民党が真剣であるならば、明治以来のこの国会改革は、1999年中に実現する。
【国会議員削減には野党の抵抗もある】
Aの国会議員100人(衆参50人づつ)削減と、Cの中央省庁再編に伴なう大臣削減(20人から最終的には14人へ)および公務員の削減(10年間で25%減)は、行政改革の一環である。中央省庁再編は既に自民党内閣の既定路線であるから、最終的な大臣と公務員の削減は比較的容易に具体案が作成されるであろう。
一番問題になりそうなのは、国会議員の定数削減である。何故なら、衆議院の50名削減は、小選挙区の区割りに手を付けたら大騒ぎとなって潰れ兼ねないので、比例区200人を150人に減らすことになるだろう。これは自・自両党の間では合意されるであろうが、比例区の減少は、公明党、社民党、共産党など少数政党に不利であるから、猛反対が起きる。そうなると、自民党、公明党、社民党などの中に居る中選挙区復活論者が、現行の比例代表小選挙区並立制そのものの改正を言い出し兼ねない。もしそうなると、これも大騒ぎで当分はまとまらないのではないか。
党利党略からいえば、少数政党に不利であるにも拘らず、自由党が比例区50人削減で自民党と合意しようとしているのは、日本の政治・行政改革のために、国会議員削減を早急に実現しなければならないと考えているからである。
【地方行革には中央行革の卆先垂範が不可欠】
自由党はいま大幅な減税を主張しているが、それは単に目先の景気対策のためばかりではなく、大幅な減税で民間の活力を引出し、その反面で大胆な行政改革を行ない、公共部門を縮小しようと考えているからである。行政改革で財源を調達する「行革減税」がそれである。しかしこれは単に減税財源の話ではなく、大きな民間部門と小さな公共部門を目指す経済構造改革なのである。
公共部門を効率的で簡素な形にするためには、3300もある地方公共団体の効率化、簡素化を避けて通ることは出来ない。地方公共団体の最適規模は15万人以上、平均40万人程度と考えられる。この規模は地方の県庁所在地やそれに準じる地方都市の規模である。もし仮に全国が人口40万人の地方公共団体に再編成されれば、いまの3300が11分の1の300になる。これに伴ない、首長、議会議員、庁舎とその組織などが節約されれば、行政経費は大きく縮小するだろう。いま中央、地方を合わせた歳出規模(重複は修正済み)は約150兆円であるが、その1〜2割、15〜30兆円はこれで簡単に浮くのではないか。
このような地方行革を推進するためには、まず中央で大臣、国会議員、国家公務員の数を削減し、卆先垂範するのが筋である。中央が本気で自分自身の行革を実施して始めて、地方の行革を促進する資格がある。
自・自連立内閣発足の前提条件として、自由党が大臣、国会議員、国家公務員の人員削減を自民党に迫っているのは、いま述べた意味で、本気になって行政改革をスタートさせるためである。
【安全保障に関する自由党の憲法解釈】
Bの安全保障については、通常国会で日米ガイドライン法案が審議されるのに備えようとするものである。
自由党は、憲法第9条によって、個別的であれ集団的であれ日本は自衛権を行使しないと定められているので、日本人の生命、財産に対する急迫不正の侵害に対する反撃以外は、自衛のために軍事力を使ってはならないと考えている。
しかし自衛権の放棄を定めた第9条とは別に、憲法前文には「平和を維持(中略)しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と書いてある。
従って、国連総会あるいは安保理において決議された国連軍あるいは多国籍軍の平和維持活動については、第9条の自衛権とは無関係であり、前文と係わりがあるので、軍事行動と一体化しない範囲で、後方支援活動に参加すべきだと考えている。
【自由党はネガティブ・リスト、自民党はポジティブ・リストを主張】
ここ迄は、政府・自民党の考え方と矛盾しない。
しかし問題は、国連軍ないし多国籍軍の平和維持活動の場合にせよ、日本の安全を脅かす周辺事態における米軍の軍事活動の場合にせよ(ガイドライン関係)、「軍事行動と一体化しない後方支援」という日本の自衛隊の行動は、具体的に何かということである。
政府・自民党のガイドライン法案では、兵員・兵器以外の補給活動、公海上の臨検活動など日本の自衛隊が行うことの出来る行動が列挙されている。
しかし自由党は、そのような補給も臨検も、当然敵の攻撃にさらされる事があり得るが、その時日本の自衛隊は逃げ出すわけにはいかないとすれば反撃することになろう。そうなると周辺事態の場合は集団的自衛権の行使となり、なし崩し的に第9条の解釈を変えることになる。
自由党が政府・自民党の提出したガイドライン法案に反対しているのは、このためである。
従ってBのプロジェクトチームにおいて、「軍事行動と一体化しない後方支援」について具体的に合意しない限り、自・自連立政権はガイドライン法案の審議には臨めないのである。
自由党は、自衛隊が行える行動を列挙するポジティブ・リストではなく、自衛隊が行ってはならないネガティブ・リストを定める方が、なし崩し的な自衛権容認にはつながらないと考えている。ネガティブ・リストの方が、予測不可能な状況の変化に対して、現場の対応がし易い筈だ。
【プラス成長転換が危うい時は追加策も】
以上の国会改革、政治改革、行政改革、安全保障という政治テーマは、自・自連立内閣の前提条件であるから、間違いないく年初から動き出す。その意味で1999年は、本格的に「日本の政治」が動き出す年である。
しかし、日本の政治が動くことによって、間違いなく日本の経済危機が解決に向うかと言えば大きな不安がある。このホームページの“What's
New”欄「11年度予算・税制改革で来年度はプラス成長に転換できるか」(98.12.24)に詳しく書いたように、自・自両党が協力して編成した99年度の予算と税制改正では、マイナス成長をプラス成長に転換させる力が弱いからである。
私が参加するプロジェクトチームのDは、経済動向を自・自両党が継続的に看視し、プラス成長転換が不確かな時には追加策を協議するために設けられた。従って、結論は1月19日開会の通常国会に間に合わせる必要はなく、通常国会中、継続的に協議を続ける。
必要な場合の追加策には、当然、消費税の一時的凍結と段階的引上げ、所得税・住民税の税率引下げとフラット化などが含まれている。私は「異時点間代替(inter-temporal
substitution)」を誘う政策減税を引続き主張して行きたいと思う(このホームページの『雑誌掲載論文』欄「経済を見る眼」“異時点間代替の政策”『週刊東洋経済』98年12/19号参照)。